ただより高いものはない
……たとえそれが恋愛相談でも
キース×イワン
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01/イワンとネイサン
キース・グッドマンは色々真剣に考えていた。
かなり真剣だったが、彼の顔は苦悩ではなく笑顔を浮かべていたので、誰もキースが悩んでいる事に気づかなかった。
「ネイサンさん、今ちょっといいですか?」
「あらなに? 珍しいじゃない、あなたから話し掛けてくるなんて」
「少しお話があるんですが…。スカイハイさんの事で。相談に乗っていただけますか?」
「スカイハイの? いいわ。こっちに来て」
最近べったりくっついているデコボコ師弟……ポジティブ&ネガティブの真逆精神コンビ(虎徹命名)の片割れに相談を持ちかけられ、ネイサンはイワンをビルにある喫茶室に引張っていった。
スカイハイ絡みだというのなら、彼が普段こない場所の方が気にせず話ができるだろうという配慮だ。
ここはVIPしか利用できない場所だから大抵空いていて、しかもプライバシーが守れる。
ヒーローはVIPではないが、特別に利用が許されている。
ネイサンはヒーロー以前に他企業のオーナーでVIPなので言わずもがなで、他はというと、某金融会社と某鉄道会社のCEOが「うちのヒーローがたかだか喫茶室ごときに出入りできないとはどういう事だ?」というクレームが直々に入った……という理由。どっちも過保護すぎだ。…が、残念な事にヒーローはあまりここを利用しない。
ネイサンは頼んだ紅茶が運ばれてきてから、
「それで、スカイハイがどうしたの?」と聞いた。
イワンはモジモジしていたが思い切って顔を上げて言った。
「最近スカイハイさんの様子がおかしいんです」
「おかしいって具体的にいうとどんな風に?」
「ニコニコして…」
「いつもの事ね」
「と思ったらニヤニヤ、フニャフニャして」
「たまにあるわね」
「『折紙君、女の子から告白する事をどう思う?』…とか聞いてきたり」
「それは……初耳ね。……本当にスカイハイがそんな事を言ったの?」
「ボクは嘘は言いません」
「ああ御免なさい。折紙ちゃんを疑っているわけじゃないの。ただ……あんまりスカイハイっぽくないというか……いきなり恋バナなの? それは確かにおかしいわね。スカイハイ、また恋でもしたのかしら?」
ネイサンが腕を組んで思案した。
心と行動がそのまま結びつくスカイハイだから、何かあれば誰かがピンとくる。今回のイワンのように。
「ボクもそうかもしれないと思ってスカイハイさんに聞いたんです。『スカイハイさん。もしかして好きな女性ができたんですか?』って。そうしたら『そんな事はないよ! 好きな女性はいない!』って言ってました。嘘ついてるようには見えなかったな」
「そりゃあ……(好きな女性はいないでしょうね)」
ネイサンは嘆息した。
スカイハイは異性愛好者だ。現に初恋やら一目惚れやら全部女性だし、みんななかなか美人だったようだから、嗜好はごくまっとうだ。
そんな普通なスカイハイだが、最近ちょっと違うとネイサンは邪推…ではなく推測している。
キースとイワンは仲が良い。師弟関係になってから気心知れたのだろうが、それだけではないナニかをネイサンのシックスセンスがピピピと告げるのだ。
(びぃえるスメルしまくりだぜ、おらぁっ! オカマ歴……もとい、オネエ歴舐めんじゃないわ! センサーがビンビンに反応してるぜっ!)
スカイハイはイワンの事がたぶん好きだ。自覚していないしヤブを突ついて蛇を出すと面倒なので傍観しているが。
ネイサンはニヤニヤした。
(あらあら。それじゃあスカイハイもそろそろ年貢の納め時かしら。あのドニブのキングが自分の想いに気がついて、折紙にアタックしようとしているとか? それとも相手がオトコの子だから躊躇しているのかしら? 水臭いわねえ。そういう時こそ経験豊富なこのワタシの出番なのに。若いコの初々しい恋愛事情ってもどかしいけれど、美しいのよね。……いいわ。皆のお姉様のこのネイサン様が一肌脱いじゃうわよっ)
イワンに笑顔を向けつつ、そんな事を瞬時に考えたネイサンは
「心配する事ないわ折紙ちゃん。スカイハイの事だから可愛いジョンのお嫁さんの事でも妄想してニヤついてたんでしょ。心配ならわたしが聞いておいてあげる」
…と言って野次馬根性を親切心というオブラートどころか大きなパッケージで隠し、ふふふと笑った。
ネイサンの返事を聞いて、イワンはホッと肩の力を抜いた。
大企業のオーナーとヒーロー業、おまけに複数店を持ってどれも繁盛させているやり手の社長様は超多忙だが、面白い事なら何処へだろうと首を突っ込む。なぜならそれが生きる糧だから。
美しさの秘密は好奇心と行動力だ。ネイサンは楽しい事が大好きだ。常にボジティブ精神を持つ事こそ若さと美貌を保つ秘訣だとネイサンは疑わない。
ポジティブ思考はスカイハイと似ているが、ポジティブであろうとする事と、素でポジティブは違う。
スカイハイは本物の天然で、だからこそ突飛な行動もおかしな言動も「スカイハイだから」と流される。
それでいいのかヒーロー。
……支障がないからいいらしい。
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