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「そう。中は結局は内臓だ。デリケートにできている。肉体ならともかく、鋼鉄を受け入れるようにはできていない。だからゆっくり慣らすんだ」
ロイの教えは丁寧だった。エドワードの足を開かせて、どうしたらいいか導いてくれる。
うつぶせになったエドワードの表情は恍惚の眼差しだ。鉄の冷たさと固さに怯んだ肉体も、アルフォンスが声を掛ければ、容易く溶けた。アルフォンスにされていると分っているらしい。固く太い指を受け入れようと、切なげに声を洩らす。
「…っ……ア、アル……」
痛いのかいいのか良く分らない声で呼ばれると、魂が震える。
もっとと奥まで捩じ込みたい誘惑を堪える。アルには感覚がないから、エドの内部がどうなっているのか良く分らない。
だがロイの言った通り、アルフォンスの触っているところは内臓の一部だ。乱暴をすれば傷ついてしまう。
「汚れにも敏感な所だから。セックスの前は必ず手を洗って消毒するか、避妊具を被せなさい」
エドワードがアルフォンスの指を受け入れて恍惚の表情を晒している。それだけでアルフォンスはどうしていいかわからない感情で一杯になり、叫びたくなる。
兄さん。ボクの兄さん。
たった一人の兄だった。自分の上をいく存在だった。
強い人だと思っていた。尊敬していた。大事で大事で。ただ愛していた。
だけど、こんな風に訳の分らない感情でいっぱいになった事はなかった。
思いきり抱き締めたい。壊れるほど腕の中に閉じ込めたい。
だがこのひと時を壊したくなくて、アルはただ優しく、エドを抱いた。
「兄さん。……ボクを愛してる?」
アルフォンスが囁けば、エドに浮かぶは至福の表情。
アルフォンスに伝染するように拡がる気持ちの波紋。
「愛している。オレのアルフォンス」
「うん。ボクの兄さん。……ボクも愛してるよ」
朧月夜の下、夜しか咲かない花のように、エドの美しさは狂気そのものだった。
だが同じ血をもった人間の全てが自分のモノだと理解した夜の明朗な狂気は、至福以外の何ものでもない。
愛と、欲と、全部自分のものだ。
狂ってもいいと、アルフォンスは、エドワードの全てを受け入れた。
次の朝。
弟の腕の中で目が覚めたエドワードは
魂を裂く悲鳴を
天を仰ぎ
喉から
…………絞り出した。
悪魔を哀れむ歌01(完) 悪魔を哀れむ歌02に続く
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