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「来たな、鋼の」

「アンタが来いって言ったんだろ」

 ロイの歓迎をエドは無表情に交わした。

「素直なキミが好きだよ」

「そんなたわごと不快だから止めろ」

「キミのその嫌悪に満ちた表情は結構そそる。分かってるか?」

「ふざけてんなら帰るぜ?」

「いや、本気だ」

「……マジで帰っていいか?」

 近付いてくるロイの顔をエドは目も閉じずに受け止めた。温かいキス。唇の感触は男も女もそんなに変わらないと、入り込もうとする舌を惰性で絡めた。

 セックスに繋がるキスにはもう慣れた。口の中は内臓の感触とそっくりだ。セックスが口だけですめば楽なのにと、エドは這い回るロイの手を途中で止めた。

「今日はしない」

「何故?」

「身体に障る。事件が終わるまで身体に負担がかかることはしない。いざという時に動けないと困る」

「ならばなぜ来た? 私としにきたのではないのか?」

「ふざけろ。アンタが来いって言ったんだろ」

「ああ、そうだったな。なら仕事をさっさと済ませよう。綿密な潜入と突入に関しての打ち合わせは明日する。鋼のの出身や家族構成などはこっちで適当なのを作ってあるから暗記しろ。全くの別人になりきれ。君に演技力は期待しない。ただ喋らなければいい。小さいと言われても絶対にキレるな。鋼のの仕事は子供の探索と保護のみに徹する事。万が一でも国家錬金術師などとはバレないように。姿形も少々変わってもらうから、その錬成はドクターマルコーにやってもらう。彼なら口が固いし腕は一流だ。鋼のは明後日南部の町に入ってもらう。潜入はギリギリだ。……そんな所だ」

「大雑把だな。そんなんでいいのか?」

「細かい事は中尉がやってくれるさ。明日彼女から聞いてくれ」

「アンタ、本当に細かい事は部下まかせだな」

 エドもまた自分が関わっているのにどこか適当だ。ホークアイ中尉から後で詳細を聞けばいいやと思っている所は、ロイと似ていた。

 会話がなくなるとロイとの距離が近くなる。

 今日もまた……ロイと寝るのか。

 伸ばされたロイの手をどうしようかと迷う。する事に異義はないが、身体への負担は困る。

「ならばキミが私を犯せばいい。突っ込むだけならそんなに支障はないだろう」

「まあそれならいいけど」

 コーヒーにするか、紅茶にするかを決めるように抱かれる側と抱く側を決める。どちらにせよ大した違いはない。ただ内臓を揺すぶられると疲労感が大きいのが欠点で、いくらロイが上手くてもこればかりはどうにもならない。だからする方が心身楽だ。そしてロイは抱かれるのも上手かった。

 エドとロイは帰ってくる度にこうして情を交わす。愛ではなくただの欲で。

 二人の間にあるのは生温い重いほの暗い欲望だ。うずみ火がチラチラ燃えるようなもどかしい肉体を持て余して、二人は自慰のようなセックスを交わす。愛という薄べったいモノは欠片もなく、だからこそ正直で、何一つ生み出さず何も無くさずに、自虐的な関係は一年以上も続いていた。

 エドはどうして自分はここに来てセックスなどしているのだと、今更ながらに自問して、出ない答えに面倒になって考えるのを止めた。

 セックスに思考はいらない。身体だけ動かせば事は済む。一番敏感な部分を他人の内臓に入れてしまえば異様だと思うのに、身体は勝手に快感を引き出すように動く。

 ロイの中はドロドロと溶けて、沸き出す快感に底がないのでセックスは愉しい。…が、終わった後の空気を食べたような空しい気持ちは拭いようがないので、どうにもセックスは苦手だった。

 ロイを抱くのも抱かれるのも慣れてしまった自分は阿呆だなと思うが、思ったところでどうしようもないし後悔はしても何の得にもならないので、とりあえず快楽を優先させようと、自分もロイも結局どうでもいいやと全部投げやりなエドだった。

「鋼の。……っ早く……」

 そういえばセックスの途中だったのだなと、エドは留守になっていた手を動かしてロイの中を探る。

 男の身体は固いが工夫すれば男同士でも繋がれるのだと初めて知った時にはカルチャーショックで脳味噌が飛んだが、脳が弾けているうちに童貞喪失も処女喪失も終わっていて、どっちも同じ相手でしかも男かよと、エドは空しくなった。

 初めてはブスでもイイから女が良かったなと言うと、私がその分沢山女としているから丁度良いと、訳の分らない答えを返された。そうしてどうしてこの男と寝たのだろうかと考えて、もしかして自分は強姦されたのだろうかと思い付いて、更にどうでもよくなってしまった。傷付いていない自分がショックで、ここまで己自身に関心が薄かったのかと、ただ厭世感で一杯になった。

 抵抗がなかったのだから強姦ではないと言われたが、未経験の子供の脳味噌がフリーズしている最中に事を済ませるなど、ふざけるものいいかげんにしろと思ったが、事を公にすれば笑い者になるのは自分も一緒なので、もうどうだっていいやと訴えるのをやめて、男の抱き方を手取り足取り腰取り、更にとんでもない所まで取られて伝授されたのだが、気持ち良かった事は事実なので、それ以来拒めずになんとなく関係を続けるようになった。

 することもされる事もロイも自分も、全部どうでも良かった。

 どうでも良くないのはロイの言った一言で、それだけは許せないと思うのに、ロイと会う度にこんな事をしている自分が馬鹿で、でも止めようと思わないのだった。きっと関係が断ち切れる時は突然で、しかもやはりどうでもいい別れ方をするに違いない。

「……あっ……は…がねの……」

 苦しいのだかイイのだか判別しにくい声を聞きながら、上司のお尻に性器を突っ込んで気持ちが良いなあと思っている自分はやっぱり馬鹿だった。

 男の身体は固いなと思いながらも、始めれば自然と身体は臨戦態勢になるのがおかしい。もし自分がこの男を愛していたりしたら更におかしい。嫌っているのに突っ込んでいるのもおかしい。

 おかしいことだらけで頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 ロイ曰く箸が転がっても立たずにはいられない年頃だという事だが、ハシとは何だ? それが転がったらオレのが立つのか?

「……そんなにイイんだ?」

 快感に喘ぐロイは大人の色気を無駄に振りまいて、エドはさらに性器を固くした。

 中で二度弾けたが、若い身体は快感に忠実で、こうなったら飽きるまでやろうかと思ったが、アルが待っているしなあと思うとピストン運動が面相臭くなってしまう。

 グチュグチュ音を立てる結合部がH臭くて笑える。身体を引くと結合部から内部のピンクが見え、綺麗だなと思うとそれはそれで意義があるのかなと思う。見た目が綺麗だからやっても気持ちがいいのだろう。そういう事にしておこうか。

「鋼の…………キミは……酷い男だ」

 喘ぎながら人を詰ってんじゃねえと、エドは腰を回した。

 鋭い快感に身体を硬直させて衝撃が去るまで痺れていたロイだが、声は止まらない。

「弟は……精通もこないのに…………兄はこうして……男に突っ込んで……男の尻に……精液を吐き出してます……なんて」

 はいはい、お兄さんはロイ・マスタングのお尻を犯して、刺しつ刺されつの性交をしていますとも。

「そういうアンタは何?」

「…………鋼のは……酷い。……一人で………快感を知って……時々こうして吐き出しにくる。…………上官を犯すなんて……軍法会議ものだ……」

「そんな軍法会議があったら嫌だな」

 近隣の笑いものです。

「君を……上官侮辱罪で…………逮捕しようか? 鋼のに……犯されましたって」

「そして子供を犯した大佐はブタ箱行だな」

「それは困る。……刑務所には……女性がいない」

「アンタを気持ち良くしてくれる豚野郎は沢山いるさ」

「犯罪者に……セックスの上手い男は少ない」

 調べたのか、肌で知っているのか、適当なのかでたらめのか、この男の言う事は信用できない。

「教えてやれよ。……オレに教えたように……」

「鋼のは…………優秀な教え子だった……な」

「アンタがオレに手ほどきをしたんだ」

「ああ。…………機械鎧とやった事はなかったからな。……興味があった。…………しかも年下だ」

「機械鎧とやった感想は?」

「冷たくて……興奮する。…………道具を使われているみたいだ」

「言ってろ、変態」

 ロイの瞳は快感に輝き濡れて光る。

「子供はいい。綺麗で………愚かで………残酷だ」

「オレと同じ年のガキに手を出したらしょっぴかれるぞ?」

「キミは…………特別だ」

 何を基準に特別なのか、平均値は何処にあるのか、エドは特別と言う薄っぺらい響きに、自分が紙屑同然になった気がした。この男の声には毒が混じっている。エドはその毒に犯されている。

「鋼のは…………罪人だからな。…………償ないきれない罪に十字架を背負った子供とやったらどうなるんだろうと………寝たらこちらも汚れるんじゃないかと…………胸が高鳴った」

「汚れたいなら外で泥でも被ってこい」

 ロイの中に深く入る。ヌルヌルズブズブ肉が擦れ合って音を立てる。気持ちはなくてもこんなに気持ちがいい。心なんかなくていい。ただの肉でいたい。

 オレはただ一塊の肉だ。

「…っ……鋼の……」

 本人に断りなく想像セックスしてときめくなとエドは思ったが、結局こんな関係になってしまっているので正論などドブの中だ。

 エドはロイの中をただ自分の性器で抉る。気持ちがいいなあと思いながら下で喘ぐロイを嫌悪する。

 豚ヤロウ。嫌いだ嫌いだこの男は大嫌いだ死ねバカ最低犯罪者クソッタレ変態。

 相手も同じ事を思っているのが判る。…………以心伝心?

 ……わぉ、身体ばかりじゃなく心でも繋がっているんだね。

 …………軽く死にたくなった。

 男の身体は心とはバラバラで、意志でなく動けるので不毛な関係が成り立ってしまう。

「…っ……鋼の………気持ちがいいか?」

 自分の方が気持ち良さそうな快楽の熱を放つロイに言われて、エドも正直に応える。

「気持ちがいいさ。……内側なんてみんな一緒だ」

 ロイは嘲笑う。

「……他と……比べるなよ。……他の男と……したのか?」

「いや、野郎はあんただけだ。他の男なんて食指が動かない。……たぶん駄目だ」

 男の身体なぞ全く興味はない。顔の美醜ではなくただ他人に対して興味が湧かない。じゃあロイはというと、この男は他人だが『特別』なのだ。…あ、何だかイヤ。

「じゃあ……女か?」

「ああ」

「どんな女だ? ……商売女か?」

「ああ。……いきずりで……なりゆきで寝た」

 十五の子供の応えじゃないなとロイは思った。

「……女はどうだった?……私と違って柔らかくて良かっただろう」

「ほどほどにね」

「冷めた答えだな。……女初体験の感想にしては……枯れている。……良くはなかったのか?」

「この年で枯れるかよ。……枯れてりゃこんな事はしてない。ただ……女は面倒臭い。会話を求めてくる」

「そうだな。……セックスはコミュニケーションの一種だし……そこに会話を求めるのは……ごく自然だ」

「……セックスに言葉はいらない」

「それを分る女は……少ないな。セックスそのものが会話だと知る女性は……稀だ」

「一番原始的で分りやすいと思うのにな」

「難しい事が……偉い事だと思い込む愚かさが……蔓延しているせいだな」

「違う。……心がないからだ。だから言葉で隙間を埋めようとする」

「私には……心があると?」

「憎しみも嫌悪も心であることには変わりない。誰かを強く思う。ただそれだけの事だ。アンタはオレを嫌っている。だからこうしているのは楽だ」

「私以外と……こうする気にはなれないか?」

「アンタとも……なりゆきだ」

「私の方が……女より……イイか?」

「……言ってろ」

 ああ、そろそろイキそうだなと、エドは身体の限界を感じた。ゴムを付けているので中で出そうと外でイこうと大して変わらないが、中で出せばそのまま四回目に突入しそうでそれも面倒だ。








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