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 「兄さん。……そんなにマスタング大佐に会うのかイヤなの?」

 駅の時刻表を仇のように睨むエドの姿を、呆れるようにアルフォンスは見ていた。

 時刻表に脅しをかけても汽車が遅れる訳ではないだろうに。

「……分りきった事を言うな、アル」

 エドの背中が丸くなる。

 前屈みになるとよけいに小さく見えるよ、と言いたかったが止める。

「たかだか報告書を提出しに行くだけじゃない。さっさと行ってさっさと済ませようよ」

 東方指令部に行く度に毎回同じように不機嫌になるのは止めて欲しい。

 兄のエドワードが直属の上司であるロイ・マスタング大佐を嫌っているのは知っているが、エドが嫌う程アルフォンスはロイ・マスタングを嫌いではないので、兄が毎回ごねる理由がよく分らない。

「……さっさと済めばいいが……。恐らくそうはならない気がする」

 エドの声は地を這っている。

「しょうがないよ。だって兄さんは国家錬金術師だもの。忙しい大佐が手の空いた兄さんを使うのは当然だよ」

 東方指令部に行くたび、否、ロイ・マスタング大佐に会うたびに大なり小なりの仕事を押し付けられるのは軍属の身では仕方がない。

 逆にエドワードに与えられる仕事は難易度の低いものばかりなので、感謝すべきだろう。

 エドを過小評価していないのではなく、逆だとアルフォンスは思う。

 ロイ・マスタング大佐は賢者の石を探す邪魔をしないようにしてくれている気がする。

 若輩とはいえ優秀と言われるエドワードは今まで汚い仕事を与えられてない。

 軍の仕事は表には出されない部分の仕事も多い。なのに軍の狗になって三年もたつのに、エドに廻される仕事は簡単なものばかりだった。

 命じられれば女子供でも虐殺するのが軍人だ。そんな事になったらきっとエドは抵抗するだろう。しかしエドワードには人殺しはできない。だが出来ないからやらないというのは軍には通じない理屈だ。従属している組織はそういう所なのだから。

 エドの真直ぐな気性は建て前ばかりを取り繕う軍人とは相容れない。

「それはしょうがないよ。大佐は忙しいんだから、手の空いた兄さんに仕事を振り分けたいって考えるのは。忙しい時に優秀な人間が目の前にいたら、ボクだって手伝ってもらおうとするよ?」

「アルと大佐は違うよ……」

 ふてくされたエドワードはさっさと一人で歩き出す。

 ガシャンガシャンと鎧を音たてながら、アルフォンスは兄の後を付いていった。

 物珍し気な人の視線はいつもの事なのでいちいち気にはしていられない。

 エドとアルフォンスは東方指令部に向かう汽車に乗り込んだ。







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