生まれ変わっても君を愛してる

承花・シ−ジョセ



- 01 -




 子供を引き取ろうと考えたのは……直感だった。
 人はそれをシックスセンスと呼ぶ。
 ……と言ったら当の子供にドン引きされた。なぜだ。


「それが俺を引き取った理由?」
「そうだよ」
「……他には? 顔が良かったとか、喧嘩が強そうだから用心棒にちょうどいいとか……」
「私は強いから用心棒なんかいらない。知ってるだろ?」
「そりゃ知ってるけれど。……じゃあ」

 ゆったりとお茶を飲みながら微笑む養い親に、シーザーはスケコマシの異名形無しで気の利いた返事ができない。
 対女性ならいくらでも褒め言葉もフォローの台詞も出てくる自分が、この義母の前では時々言葉を失ってしまう。
 それは理詰めでやり込められるとか、理不尽を押し付けられて言葉を飲み込むとかではなく、どう返事をしていいか分からずに、だ。
 いっそ目の前の美女が性格の歪んだ下衆だったらもっと自分はハッキリと言いたい事が言えるのにと思ったが、そんな酷い性格の人間なら最初から一緒に暮してはいないのだから前提にもなりはしない。
 そもそも目の前の美女……養母が少々電波が入ったすっとぼけた天然さんだから、グレて捻じ曲った性格のシーザーとやっていけている。
 シーザーの保護者…花京院典明は未婚の独身女性だ。
 二十代半ばの適齢期の美女。…となれば引く手数多。……なのだが未だ未婚で恋人はゼロ。理由はいらないから。以上。男嫌いではないのだがどちらかというとコミュ障で引き蘢りぎみ。友達少ない、ぼっち。でも気にしない。
 その人が何故か自分みたいな捻くれた男の里親をやってくれているのか、シーザーは不思議だった。だから聞いたのだ。



 シーザー・A・ツェペリは現在十六才、高校二年生。
 花京院とは血の繋がりも何もない。というか二年前出会うまで接点はなかった。
 普通だったら一生出会わないはずの二人が出会ったのは、シーザーが施設育ちだったからだ。
 シーザーは普通の家庭に生まれ育った。父親は家具職人、母親は専業主婦、生意気で可愛い弟と妹がいて、平凡で幸せな毎日を過ごしていた。
 シーザーの幸せが崩れたのはシーザーが十才の時だ。母親が病気で死に、次いで父親が失踪した。そして後見人に名乗り出た親戚がツェペリ家の財産を全て持ち逃げし、シーザーと兄弟は施設に引き取られた。
 保護してくれる親に捨てられ、信頼しかけた親族に財産を持ち逃げされ、残った血族もシーザー兄弟の面倒を見たくないとそっぽを向いた。
 シーザーは内心荒れた。それでもなんとか踏ん張り、グレるような事はなかった。シーザーには守るべき弟と妹がいたからだ。二人を守ると死んだ母親に誓い、己を節制して悲劇に耐えた。守るべきものがあればいくらでも人は強くなれる。シーザーは芯のある男だった。
 しかし。シーザーはよくできた子供だったが、それでもまだ十才を過ぎたばかりの子供でしかなかった。
 ツェペリ兄弟はシーザーを筆頭に美しかった。そして両親の教育の賜物で礼儀と常識と愛情を備え、豊かな心があった。
 親のいない子供達を養育する施設には養子を求める大人が現れ、そしてシーザーの弟と妹がそれぞれ別に引き取られる事になった。
 シーザーも兄弟達も当然嫌がった。これ以上、家族がバラバラになるのは絶対に嫌だった。しかし。
 施設には収容できる人数が限られ、国には捨てられる悲劇の子供が後を絶たず、施設は常に飽和状態だった。子供のいない夫婦が血の繋がりがなくてもいいから子供を育てたいと望めば、それを子供達はなかなか拒否できなかった。勿論、引き取り手達は厳しく内情を審査された立派な社会人達ばかりだ。
 美しく素直な子供だったツェペリ兄弟は泣く泣く引き離された。そして引き取られた先に馴染むようにと、元の家族と連絡をとれるのは数年先というのを、引き取られてから知らされた。
 シーザーが弟達に会えないと知ったのはどこかの家に引き取られてからだ。どんなに優しい養父母でも赤の他人でしかない。守ると心に誓った兄弟と引き離され、自分がまだ無力な子供でしかないと自覚したシーザーは荒れた。兄弟という縛る鎖がないシーザーは、ただの心を傷つけられた無力な獣だった。
 大人が正しい事は理性で分っていても、親に捨てられ、財産を持ち逃げされ、あげくに兄弟まで取り上げられ、とうとうシーザーの忍耐は限界を越えた。
 荒れるシーザーは下町に入り浸り、荒んだ心のままに人と衝突し、誰も信じず、法を無視して身を持ち崩し、養父母は匙を投げ、とうとう元いた施設に戻される事になった。
 施設に戻っても捩じれたシーザーの心は元には戻らなかった。
 世の中を拗ねた眼差しで見つめるシーザーを引き取ろうとする大人はいなくなった。
 身体も大きく喧嘩慣れしたシーザーは施設の中でも異端だったが、シーザーは幼い子供の前では比較的大人しかった。
 施設にいる大人達は素直だったシーザーの変わり用に自分達の失敗を悟った。ここに来る子供達は大なり小なり大人に裏切られた子供ばかりで、なかなか大人を信用せず施設に容易に馴染まない。しかしシーザーは違った。大人に裏切られながらも幼い弟達の為に自分を律して荒れた内面を制御していた。
 そのシーザーが守るべき弟妹と引き離されるという不条理に、とうとう我慢の限界を越えてしまった。大事なものを次々奪われて心のよすがをなくし、大人達への信頼も無くした。完全なる人間不信。そうなるとなまなかな事ではその心を突き崩せない。
 後悔から施設の人間はシーザーへの対処が甘くなった。外に出ては諍いを起こし犯罪者まがいの所業をくり返すシーザーを辛抱強く養育した。
 盗んだバイクで走り出して夜の校舎窓ガラス壊してまわるバリバリのヤンキー(死語)、犯罪者予備群どころかまんま犯罪者のシーザーに転機が訪れたのは、シーザーが中学校の三年生にあがろうとする十四才の春の事だった。




「……シーザー、お願い。今きたお客様を案内して」
「分った」
 声変わりが始まって掠れた音を出すシーザーは言われるまま玄関に向った。
 今日は月に一度の外部者の訪問日だ。表向きは有志によるバザーとお祭り、という事になっている。
 施設の大人達が簡単な出店やバザーを出して、その売り上げを施設運営に当てている、という名目で施設が開放され人が集まってくる。その日だけは外から一般客が入ってくる。施設の人間達だけでは手が足りないから善意のボランティアグループが手伝いに来てくれて、それなりに活気がある。
 しかし。施設運営の為のボランティアだとかバザーだとかいうのは表向きだ。半分は子供達のおひろめを兼ねている。来るのは子供ができない夫婦とか、跡継ぎを求める老人だとか。ようは引き取りたいと思うような子供がいるのか探しにくるのだ。
 シーザーは思っている。これは子供という家畜を買い求めるペットショップの客と同じだと。幼い子供達はただで配られる綿菓子やリンゴ飴に気をとられて自分達が値踏みされている事に気付かない。数年前、こうして自分達は知らない大人達に値踏みされて引き取られていったのかと、次々来る大人に対応しながらシーザーは皮肉な目で現状に唾を吐いた。
 兄弟と引き離された事を考えると何もかも滅茶苦茶にしたい凶暴な気分にかられる。
 心のままにそうしないのは施設への迷惑とか、荒れたシーザーに心を砕いてくれる大人達への遠慮ではない。ここにいる子供達の為だ。
 子供を物のように引き取る事は許せないが、家族に去られ孤独を抱えて胸に穴を空けたまま暮している子供達の乾いた瞳を見るだに、暖かい家庭に引き取られ幸福を手にできるかもしれないのなら、他人の親でも悪くはないと思うのだ。
 シーザー兄弟にした所業は許せないが、兄弟で施設にいる子供は少ない。みんな親に死なれたか捨てられたか何らかの事情でここにいる。そして施設の大人は悪い人間ではない。子供がなんとか人並みの幸福を手にいれられるようにと願っている。
 だからシーザーは腹立たしさを隠しながらここにいるのだ。



「ねえシーザー。一緒におやつもらいに行こうよ」
 シーザーに懐く子供の一人がシーザーの手を握る。
「ロージー。まだお客さんが来るから対応しなくちゃならないんだ。ミック達と行ってきな」
 無邪気に懐く様子に弟達を思い出し、シーザーの目許が柔らかくなる。
 施設にもヒエラルキーがある。身体が小さかったり内向的な子供はイジメられたりおやつを取り上げられたり、理不尽な目に合いやすい。とくにここいる子供は甘える家族がおらず鬱屈を溜めている。溜り続ける心の澱を弱者に向けて発散するしか理不尽に耐える事を知らない子供ばかりだ。
 そんな中でシーザーは別格だった。誰より強いのに幼い子供達には平等で、理不尽を許さなかった。だからシーザーに子供たちは揃って懐いた。
「えー、まだ仕事終わらないの? ちょっとくらいサボっても先生達は怒らないよ、ね?」
「そうだよシーザー。一緒に遊ぼう、遊んで」
「ねえ、シーザー。いいでしょ?」
 ねだって甘える子供達は可愛いかったが、人手が足りない事は分っているシーザーは「仕事が終わったら遊んでやるから」と子供達を宥め、玄関に向った。
 何度か訪問している客なら勝手が分っているのだが、初めての訪問客は勝手が分からず玄関でウロウロしている。身分証を提示してもらい、来場者ノートに名前を記載させて談話室に案内するのがシーザーの役目だ。
 何度か玄関を往復した時。一人の女性が玄関から入ってきた。シーザーが対応を頼まれた客だろうか。
 シーザーがおやと思ったのはその女性が若かったのと、夫婦でなく一人だったからだ。
「……失礼ですが?」訝しみながら聞くと。
「あ、ボクこの施設の出身なんだ。今日はお手伝いに来たんだよ。初めまして」
「あ、そうですか。……俺はシーザー。お美しいシニョリーナ。お会いできて光栄です。あなたがここにいる時に御会いしたかった。一緒に暮らせなくて残念です」
 笑顔のシーザーに、女性はあっけにとられたような顔になる。
「うわー、驚いた。そういう事を照れもせずにサラッと言えちゃう子もいるんだ。面と向って褒められると照れるよ。よろしくシーザー君。ボクは花京院典明だよ」
「……花京院さんか。美しい響きですね。あなたにぴったりの性だ」
「あははは、名字はね。…名前はアレ(男名)だけど」
「そ、そうですね。女性名にしては凛々しいかな……はははは……」
 瑞々しい若さと繊細な美しさを合わせもつ花京院の名前がまさかの男性名で、さすがのシーザーも咄嗟に気のきいた返事ができない。名前だけは親のセンスと采配に期待するしかない。シーザーだってシーザーといういかした名前ではなく、もし『ユリウス・カエサル』なんてダサイ名前をつけられていたら他人に名乗りたくなくなるだろう。
 花京院の親はよっぽど男の子が欲しかったようだ。生まれた娘に『典明』なんてつけてしまったくらいだ。
 花京院は華美ではないがどこかハッとするような美しさがあった。透明感というか気品というか、気位の高さが滲み出ている。
 こんな美しい人でも家庭環強には恵まれなかったんだなとシーザーは思った。
「花京院さんはいつ頃までこの施設にいたんですか?」
「ボクは八才から十八才までだよ。五年前までここで暮してたんだ」
「じゃあ俺が来る前までですか。十年も。……長いですね」
「ボクは奨学金で高校に通える事になったからね。学生の間は施設暮しが許されるんだ。君は見たところ中学生のようだけれど……これからどうする予定なんだい?」
「聞きにくい事を聞くんですね。……俺は規定通り十五才になったら出ていきますよ。高校には行きません」
「じゃあ働くの?」
「それしかないでしょう。俺を受入れてくれる学校なんてないし。早く自分で稼げるようになりたいですから」
「進学しないのは費用の問題、それとも成績の問題?」
「おもに前者です。余計なお金なんて出す余裕、ここにはないですから」
「うん知ってる」
「だから働くしかありません」
 同じ施設育ちだからだろうか。花京院は歯に衣を着せず歯切れが良い。
 遠慮はないが他意もない花京院にシーザーはホッとする。女性は好きだがシーザーが施設育ちだと知るとみな同情的な眼差を浮かべるのが嫌だ。女達はシーザーに近況や将来を聞いてもいいものかどうか、躊躇う。どこまで踏み込んだら無礼にならないか距離をとりあぐねる。それが縮められない距離感になる。
 その点、花京院は同じ施設育ちだから気にしない。率直に聞いてくる。シーザーとの間に距離がない。
 シーザーは目の前の女性に好感を持った。
「ボクは先生達に挨拶してくるよ。じゃあねシーザー」
 細身の美女を見送ったシーザーは、まさかこの女性と暮す事になるとはその時は露とも思わなかった。 



* * * * * * * 



 シーザーが施設の職員から個人的に呼び出されたのは訪問日より数日後の事だった。
 シーザーを呼び出したのは、ずっと面倒を見てくれる老人の粋に足を踏み入れているアンリという女性だった。ふっくらした肉体と柔和な笑顔は母性に溢れ、皆からは『アンリママ』と呼ばれている。大人には反発ばかりのシーザーだが、常に愛情と気遣いを見せる老女には弱かった。
「用件は、アンリママ?」
「あなたの将来の事よ」
「将来の事? 就職先って事か」
 重たい話題にシーザーの口も重くなる。
 厳しい現実から目を逸らしていたいのは誰もが一緒だ。施設の子供達は厳しい将来が待ち受けている事を肌で感じている。保護者のいない理不尽や辛さは誰もが抱える枷みたいなものだ。
「将来シーザーは何になりたいの? 何をして生きていくつもり? ……あなたは成績も悪くないし、勉強は苦手だけれどやればそれなりにできる。頑張れば奨学金だってとれる。頑張って奨学金をとって進学するつもりはないの?」
「同じ事を何度も言わせないでくれよママ。……俺は高校には行かない。もう決めたんだ」
 シーザーの声は硬く尖り態度はそれ以上に硬化する。
 シーザーの不機嫌にアンリは動じず、説得を試みる。
「ええ何度も聞いたわ。でも勿体無いと思うの。進学したくてもできない子がここには多くいるのを知ってるでしょ。それは成績の事だったり学費の事だったり。でも奨学金の申請が通って高校に通うのなら施設にいる事が許される。あなたにはそれが可能よ。可能性を捨ててしまうのは勿体ないわ」
「進学しても……俺はそれ以上は上に行けない。それより早く社会に出て、金をかせいで自立したい」
「それも分ってるわ。ここにいる子は……保護者を得られない子供達はとにかく自分の居場所を求める。自立して足場をしっかり確保したいと願う。シーザーも同じなのよね。自分でお金をかせいで兄弟を養えるようになりたいのよね。……でも」
「俺は意見を変えるつもりはない。心配してくれているのは分っている。アンリママが本当に俺の事を心配してくれるのも。でもあなたは俺の家族じゃない。俺は……俺の手で家族を取り戻したいんだ。将来何をしたいのかまだビジョンは見えないしどうしたらいいのか分からない。でも高校に行っても俺の中の飢えは……俺の中にある憤りとか悔しさとかそういうドロドロしたものはなくならない。それどころかお気楽に高校生活を送ってる脳天着なヤツらの顔を見てたらきっと……平静ではいられない。理不尽に堪えられなくなりそうだ。だから……」
「シーザー……」
 アンリは悲しげな瞳で拳を握ってやり場のない辛さを吐き出すシーザーを見つめた。
 シーザーの葛藤が分かるアンリは理解と同時に焦れる。この仕事につきものの無力感には一生慣れる事はない。大人達にできる事は限られていて皆が力不足だ。しかし努力だけでは埋められない溝がある。その穴は深くて他人ではとても埋まらない。分っているから誰もがもどかしい思いを抱えている。
 シーザー・A・ツェペリは複雑な子供だ。本人のせいではなく、大人達のせいで歪んでしまった子供。
 ここにいる子供は皆複雑な事情を抱えてるが、シーザーはもともと明るく真面目な少年だった。兄弟の面倒をきちんと見て、みんなのリーダー格だった。忍耐強く勉強も良くでき、容姿も良い。ねじ曲りそうな心を責任感と愛で曲らないように努力していた。
 そのシーザーの心を欠いたのは大人達だ。良かれと……兄弟達を養子に出して新しい保護者を用意した。気を張って生きている健気で痛々しい子供に気を張らずともいい生活をと善意で道を用意した。だが。
 頑張る事で己の心を支えていた少年は努力の原動力である兄弟と引き離されてあっけなく壊れた。張り詰めていた糸がぷっつり切れた。蓋をしていた憤りを表に出して暴れた。このままでは落ちる所まで落ちるだろうという転落の姿が見えた所で施設に戻された。施設に戻ってきてもシーザーは元に戻らず壊れたまま、暴力的に外で暴れて鬱憤を晴らしている。
 この先、施設という居場所を失えばシーザーはさらに壊れる。まっとうな成人は望めず、チンピラから、やがてマフィアにまで堕ちるかもしれない。国が保護するのは子供だけ。施設を出たらシーザーは子供扱いされず保護の手を失ってしまう。元のシーザーを知っている大人達はなんとか立ち直らせようと心を砕いているが、シーザーは大人に心を開こうとしない。
 荒んだシーザーの心は荒波に削られて、このまま大人になれば幸福は望めない。
 しかしまだ聞く耳を持つ今なら更正可能だとアンリは気を奮い立たせる。
「働くのは尊い事よ。でも学ぶ事も同じくらい尊いし、働くより学ぶ方が難しい。あなたにはチャンスがある。今を逃せばそのチャンスは永遠に手から逃れてしまうかもしれない。わたしたちはシーザーより長く生きていて経験からそれを知っている。お願いだから、言う事を聞いて。働く努力ができるなら平穏を耐えるという努力だってできるはず。高校を出れば視野が拡がる。あなたにはまだ先がある未来があり将来がある。あなたがもっと大人になった時にそれが生きてくるの。こんな言い方は卑怯かもしれないけれど、中卒と高卒じゃ信用もお給料も違う。他人は人を肩書きやプロフィールでしか見ないってあなただって分かってるでしょう。釣書は立派な方がいい。あなたの為だなんてお仕着せは聞きたくないでしょうけれど、わたしたちはそう言うしかできない。経験者の言う事に耳を貸して。まだ時間はある。進学を諦めないでちょうだい」
「アンリママ……」
 優しい老女にそっと懇願されてシーザーの顔が曇る。
 就職の意志は変わらないが、アンリの言う事も一理あると理解している。高校を出た方がいいのは分っている。施設育ちだからこそ最終学歴は高い方がいい。シーザーは優秀だから、努力すればもしかしたら大学にだっていけるかもしれない。
 しかしシーザーにその気はない。正論を受け入れる受け皿がない。その気力がまるでおきないのだ。シーザーの心の中にはぽっかり穴が空いている。守るべきものがない。愛もない。家族もない。そんな状態で将来に期待なんかできるわけがない。
 この先努力すれば幸福になれるという保証があるのだろうか。先の見えない手探りの明日に、気力は萎えてしまう。どうだっていいと自棄になる。
 幸福とは何だろう。
 久しく心の充足を忘れたシーザーは飢える心の埋め方を知らなかった。そしてそれは高校に上がっても学ぶ事も自覚する事もないだろうという事をシーザーは知っていた。
 見捨てられない事はありがたいが、大人達の温情と思いやりがシーザーから兄弟を奪った。
 何も掴めない両手が虚しくて、その手に何かを掴みたくて拳を握って吠えるしかない。鬱屈と哀しみは暴力という形になって吹き出してる。シーザーの咆哮は荒廃の心そのままだ。
 シーザーの心は何をしても埋まらない。それを教えてくれる人がいるのならシーザーはその人に心を開くのに、そんな人間は絶対に現れない。
「話が進学の事だけなら……一応考えるから。もう行っていいですか」
 話を切り上げたいとシーザーはアンリから顔を逸らす。
 優しい老女に向ける牙は持っていないが、心の制御を誤ればいらない憤りをぶつけてしまうかもしれない。それはしたくなかった。優しい人を傷付けたら自分がもっと苦しくなるだけだ。
 アンリは腰を浮かしかけるシーザーを引き止めた。
「ちょっと待って。それだけじゃないの。……もしシーザーが就職すれば、あなたはあと一年でこの施設を出る事になる。住む場所はどうするつもりなの?」
「一応、寮のある仕事場を探していますが」
「見つからなかったら? 中卒で独り立ちは難しいわ」
「分ってます。誰かと同居、という事になると思います。寮を出た先輩の所に行く事になるかもしれません」
「みんなそうしているものね。でも。あなたの性格で……こんな事は言いたくないけれど、揉めずに暮らせる?できそう?」
「……分かりません」
 シーザーは正直に言った。
 義務教育を卒業すれば施設で暮らせなくなる。例外は高校に進学する事だ。進学すれば特例として施設に残る事が許される。三年間独り立ちが延長できるのだ。
 しかしシーザーは就職を希望している。という事はあと一年でここを出なければならない。規則と不自由さばかりの施設だが、反面大人の保護下という安全があり、生きていく面での保証がある。それが全部取り上げられるのだ。中卒の給料では一人暮らしは難しい。底辺のアパートを借りられても生きていくだけで精一杯だ。同じ年の子供達が進学し、放課後はゲーセンだのカラオケだのデートだのショッピングだの塾だのに興じている間、ギリギリの生活を送らなければならない。不公平さが身に沁み、そして心にすきま風が吹く。
 一人で暮せる金を稼げない者は、同じ施設の出身者と同居する。数人で暮らせば家賃も光熱費も安くすむ。施設暮しの延長みたいなものだ。
 しかしシーザーは気難しい性格をしている。女性に対しては気安く会話もつきないが、同性には敷居が高い。
 雄の顔を表に出して相手を押さえつけようとするからうまくいかない。協調性に乏しく調和がとれない。施設の先輩と同居となれば相手の顔を立てなければ同居にならない。しかしシーザーがそれをできるとは思えないと、アンリは素直に心配する。
 シーザーも自分の性格を自覚しているので正直困っている。あとたった一年で自立しなければならないのに、暮す場所さえメドがつかない。保護者のいない暮しで他人とうまくやれる自信もない。
 大人達が案じるのも無理はない。高校に上がってここであと三年暮らせと言うのは、温情だ。社会に出てする我慢と、子供として過ごせる我慢は違う。子供でいられるのならそうした方が楽だ。
 でもシーザーは早く大人になりたい。
 子供では大人の理不尽さに太刀打ちできない。力のないものはとりまく力に流され巻かれて頭を垂れて我慢するしかない。まずは自分で働いて力をつけるしかないと、シーザーは分っている。
「あなたに一つ提案があるのだけれど」とアンリが秘密を打ち明けるように悪戯っぽく言った。
「提案って?」
「ここを出た後の事よ。実は……あなたと同居してもいいっていう先輩がいるの」
「え?」
「あなたの事を知って、その上で同居してもいいって。進学するにしても就職するにしても、その人の家から通えばいい。あなたがイエスといえば……住む場所だけでも確保できる。あなたに居場所ができるの」
 突然の提案にシーザーは半信半疑だ。
「誰ですか、その特異な人は。……それより俺の事を話したって? アンリママが俺の事をその人に相談してお願いしたって事ですか?」
「違うの。わたし達はその人に何もお願いしてないし……ああ、同じ施設の出身者として社会に出た後の厳しさとか苦労とかメリットデメリットを教えてあげて欲しいとは言いました。先輩としてアドバイスしてあげてってお願いしたの。彼女はここを出て数年経ってる。きちんとした大人になった人だから色々参考になるし、そういう人に相談できれば心強いでしょう。……こう言っては何だけれど、保護者のいない施設出身者で社会で成功できる子は少ないの。真面目に働いてても、どこかに鬱屈を抱えている。彼女は明朗闊達という性格ではないし社会的に成功を収めているというわけでもない。けれど……どこか暮しに余裕がある。楽に息をしているように見える。精神的な余裕があるから、その点だけでも後輩達が彼女のようになってくれればと思うわ。心の余裕というのは、ある程度生活に余裕がなければできないものだから。彼女の話を聞いてみたくならない?」
「彼女、という事は女性という事ですか。異性との同居は世間的にまずくないですか?」
 興味を惹かれたが、異性というのが気になった。
 デートする事と一緒に暮す事はまた違う。
「彼女は世間の風評とか気にしない人だし、シーザーだって噂なんかどうだっていいんでしょ」
 アンリがそう言うくらいなのだからサバサバした気風の女性なのかもしれない。
 しかし。シーザーは己を良く知っている。
「彼女は俺の……悪評を知ってるんですか? 女性と暮らせる性格じゃないって。喧嘩に明け暮れているから、とばっちりを受けるかもしれないし。俺は色々悪い事をしてきてるし、危険に巻き込むかもしれない」
 シーザーのような乱暴者と一緒に暮らせる女性はあまりいない。一緒に暮すというのはある程度己を見せ合う事だ。他人との距離をうまく掴めないシーザーは見知らぬ女性と暮す事が想像できない。無理ではないかと怖じ気付く。
「それも説明してあるのだけれど……。彼女は『それくらいの方がいいかも』…ですって」
「どういう事ですか?」
「実は彼女は………独身なの」
「……そりゃそうでしょうね。既婚者がわざわざ他人を引き取ったりしませんよ」
「恋人もいない。でも、とっても美人さん」
「綺麗な人なんですか。ますます同居の理由が分かりません。コブつきじゃ男も家に呼べないし、結婚にだって差しつかえてしまう」
「それなの。彼女は独身主義というか……恋人を作る気が全くない娘なの。困った事に」
「はあ。……男嫌いとかですか?」
 早めに世間に出たのだから嫌な現実を沢山見て、男にうんざりしているのかもしれない。バカな人間は大勢いるのだから。特に男。美人だというのなら、美人なりの苦労があったのだろう。
「理由は知らないけれど、あなたと同居してもいいって言うくらいだから、男嫌いという事はないみたい。でも本当に男っけがないの。美人なのに勿体無くて。良縁に恵まれれば幸せになれるのに、始めからそんなのいらないって言うし」
「じゃあまさか……俺に一目惚れとか?」
「それもない。ちゃんと聞いたから」
「聞いたんですか」
 シーザーはさすがに呆れた。
「あなた達はどちらも容姿がいいから、陰で口さがない事を言う人はいるでしょう。年が離れているといっても数年もすればシーザーは結婚できる年齢になる。その時に妙齢の女性と同居というのは……色々世間の目が厳しいかもしれません。どうしても余計な勘ぐりをされてしまう。……と彼女に言ったら」
「言ったら?」
「『わたしは誰ともつき合うつもりはないし、むしろ結婚なんて絶対にしないし、シーザー君もたぶん大丈夫だと思います。彼は女性には丁重ですからお互いにちゃんと距離をとって暮らせると思います。それにわたしには防波堤が必要なんです。彼はこの先ますます男らしく恰好良くなるでしょうし、カモフラにちょうどいい。世間の風評、噂、どんと来い、です』……ですって」
「意味が分かりません」
「彼女は美人だって言ったでしょう」
「はい」
「適齢期の美女が一人暮し。性格は内向的だけれど、逆に図々しくなく初々しさがいいと言う男も沢山いる。……そんな娘が一人でいて男が放っておくと思う?」
「思いません。むしろチャンスと狙う男が多いんじゃないですか?」
 世の中何かと物騒だ。美女の一人暮しなんて危険きわまりない。狼が獲物を放っておくとは思えない。よくぞ今まで無傷だったものだ。
 何か問題が生じてアンリに相談に来たのだろうか。そしてシーザーの話を聞いて盾にするのにちょうどいいと思ったのだろうか。フェミニストの不良。喧嘩はそれなりに強く、度胸もあり押しが効く。体のいい番犬か。
「つまり俺は番犬代わりですか?」
 シーザーは納得した。
「せめて用心棒とか言って。……そういう事でもあるようなないような」
「違うんですか?」
「シーザーの存在が牽制になればと思っているのは本当でしょう。でも番犬にしようと思ってないはず。だって彼女は強いから」
「強い? 何か格闘技でもやってるんですか?」
「何もしてないわ。でも……強い、らしいの。よく知らないけれど」
「知らないのに強い事は知ってるんですか。何か具体的な事件でもあったんですか?」
 言い淀むアンリの顔を伺ってシーザーが聞くと。
「彼女は綺麗で大人しい娘だから……施設にいた時から男の子達に時々言寄られたり……外に出てからも色々あったみたい。詳しくは聞いてないけれど、力づくで迫る男の人もいるようで一人暮しなんてとても無理じゃないかって、心配していたの。でも……彼女はいつも平然と自信に満ちて笑ってるの。本当に自信満々で……こちらの心配をよそに、不適に笑って大丈夫の一点張り」
「不敵…?」
 美人には似合わない言葉だ。
「彼女に強引に迫ったり……家に侵入しようとした人は……病院送りになったり……とにかく無事ではすまなかったみたい。そんなわけで彼女は今まで無事なのだけれど……」
「それは……強いんですね」
 彼女というのがどんな人なのか知らないが、かなり自分に自信がありそうだ。陰で身体を鍛えているのかもしれない。護身術でも極めているのだろうか。
 会った事もない女性と暮すなんてまるで現実的ではないが、シーザーは興味を抱いた。
 同居の件はともかく、一度会って話を聞いてみるくらいはしてもいいかもしれない。美しい女性というのはそれだけで価値がある。シーザーは可愛い子が好きだが、凛とした年上の女性も大好きだ。自分を叱ってくれるような気概と理性のある細身の女傑がいるのならば、全面降伏で言う事を聞いてもいいと思う。そんな女性にはお目にかかった事がないのだけれど。
「その彼女の名前を聞きたいんですが。あとどんな仕事についてるんですか?」
「彼女は絵を描く仕事についてるわ。イラストレーターって言うんですって?」
「イラストレーター、ですか」
 シーザーは釈然としない。
 リアリストのシーザーはイラストレーターという仕事が高収入でない事を知っていた。高収入が得られるのは名前が売れた一部のベテランだけだ。余計な人間を抱える余裕はないと思うのだが、副収入でもあるのだろうか。それとも宝くじでも当たったとか。
「名前と年齢は? 年齢は本人には聞きにくいので予め教えて下さい」
「彼女の名前は花京院典明。男性名だけどちゃんと女性よ。年齢は二十三才。赤毛のとっても綺麗な娘さん。シーザーより九才上ね」
「あ……」
 シーザーの脳裏に一度会った美女が思い浮かんだ。



* * * * * *




 まったくその気もなかった同居を引き受ける事になったのは。

「やあまた会ったね。シーザー・A・ツェペリ。同居の件は聞いたかい? ……え、その気はない? なんで?どうして? 君にはメリットしかないのに。断るなんてどうしてだい? ……そうだね。じゃあこうしよう。一緒に暮してみてどうしても無理ならその時点で家を出ていけばいい。……無理? なんで? そんな気が起きない? ……チャンスを棒に振るなんて君はバカか? バカだからそんなヤンキー的青春を過ごしているのかい? 本当にバカなんだな。拗ねてグレるだけならバカにだってできる、というかバカにしかできない。ボクはバカが嫌いだけれど、君はまだ矯正の余地がある。君はまだバカ未満だ。本物のバカにならないうちにボクが矯正してやろう。何簡単だ。ボクと一緒に暮せばいい。君に我慢できなくなったら別居すればいい。君はとりあえずボクという保護者を得る。仕事をするにせよ進学するにせよ、居場所があるというのはとても心強いものだ。経験者のボクが言うんだ。ちゃんと聞け。本物のバカというんじゃなければボクと暮らせ。必要なものは与えよう。君は受け取ればいい。施しが気に入らないというのなら貸しとしてちゃんと返せ。チャンスを利用できなければこの先一生惨めな暮ししか得られないぞ。ボクなんかお金はあんまりないけれど、自分が惨めだなんて思った事はない。……あ、家は持ち家だ。借金もない。部屋は余ってる。だから遠慮せず来い。返事はイエスかハイかヤーだ」


 椿が花開いたような繊細な雰囲気の美女は、シーザーの顔を見た途端、毒のある言葉をペッと吐いた。それはそれは遠慮のない本音を。
 さすがのシーザーもバカバカと言われては腹を立てずにはいられなかった。思わず拳を握ったシーザーは……なぜか一回転して床に転った。

「……は?」
投げ飛ばされたと理解したのは逆さまに花京院を見上げた後だ。
 花京院は平然としている。
「大丈夫? 手加減はしたよ?」
「今……何したんですか?」
 シーザーは花京院から目を離さなかったし油断もしなかった。なのに……シーザーの身体は何かに掴まれて放り投げられたのだ。理不尽でありえない現実。
「秘密。……ボクが気持ち悪くないのなら一緒に暮そう。歓迎するよシーザー・A・ツェペリ。ぼっち同士仲良くしよう」
「……よ、よろしく」
 ニコリと微笑む美女の笑顔にシーザーは勝てないと思った。
 得体の知れない美女に、シーザーは逆らう気を無くした。
 花京院に興味を抱いたのではない。何かどうでもよくなったのだ。人はそれを自棄になったという。
 自暴自棄。貧民街テンションが変な方向に進んだ。
 こうしてシーザーは住む家を手に入れた。



 ……で、冒頭に戻る。
 シーザーは聞いてみたのだ。どうして自分と同居する気になったのかと。
 花京院の性格を知るだに疑問は膨れた。花京院は社交的な性格ではない。むしろコミュ障。ぼっち乙。他人との距離が計れないし、インドア派で休日はゲーム三昧。時々秋葉原やゲームのイベントにでかけるのがせいぜいだ。
 外見は正統派清楚な美女なのに、家にいる時は……仕事中とゲームしている時はなんとジャージだ。中学の時の。いくらなんでもこれはない。
「ボク物持ちいいんだよね」と高らかに説明した花京院の胸には[三年二組花京院]と白い布地が縫い付けてある。ネームくらいとれ。
 同居して分ったのだが、花京院には本当に男っけがなかった。時々一目惚れやら仕事関係で片思いの男が押し掛けてくるが、それはシーザーがおっ払った。シーザーがいない時は見えない何かが。……恐くて聞けないが花京院の側には見えない用心棒がいるらしい。時々何もない宙に向って花京院は話し掛けている。一見危ない人だが、シーザーに実害はないから気にしないようにしている。いったい花京院の側には何がいるんだか。妖精でも飼っているのだろうか。
 彼女の近くには見えない何かがいる、らしい。その為に彼女は一人暮しでも何の警戒もせずに悠々過ごせている。泥棒、レイプ犯、ストーカー、全部返討ちファックユー! ……らしい。
 なんて心強い、っていうか本当に何がいるのねえ?

 そんな変な彼女とどうしてシーザーがうまくやっていけるかというと。
 全部シーザーが頑張ったからだ。

 女性の全部が家事ができるとは思っていない。シーザーは現実を知っていた。しかし理想は抱く。料理はうまく家は綺麗な方がいい。
 しかし理想は理想だった。彼女の女子力は外見だけだった。その外見も中学ジャージなのだから残念の極み。
 彼女の手料理を口にした瞬間、シーザーは女子の手料理に夢見る事を止めた。メシマズという言葉を実感したシーザーは、料理を引き受けた。というかお願いだから作らせて下さい、コンビニ飯は飽きますいっそ自分が作りますと手を上げた。
 そしてオタクというものが家を片付けられない人種だと知る。キッチンや居間という共同スペースは片付いているのだが、覗いた彼女のベッドルームが漫画とゲームで積まれて溢れて人としてヤバい状態だ。……自分がしっかりしようと心に決めた。
 花京院はイラストレーターとしてそこそこ売れているようだが、持ち家一軒をローン無しで所有というのは異常だ。投資でもやってるのかギャンブルか、宝くじでも当たったのかと聞けば。
 花京院はいつもの読めない笑顔だった。
「ボクの法皇は色々便利なんだ……ふふふ」と誤魔化された。
 花京院が時々名前を呼ぶハイエロなんとかというのが見えない幽霊の名前らしい。いや、他人にはまったく見えないのだが、なぜかシーザーには時々緑の何かが花京院の後ろに緑色の何かが見える時がある。まるで光るメロンみたいな幽霊はど派手で、そのくせ存在感が希薄で時々しか見えない。
 シーザーを引き取った人はオタクの不思議者ちゃんだった。変なモノが憑いている。


 他人とのコミニュケーションを忌避する花京院がシーザーを引き取ったのはなぜかと、ずっと疑問だったのだ。
 特別な愛情や同胞意識はない。なのに他人よりちょっぴり距離が近い気がする。ベタベタした情は感じない代わりに、途切れない糸みたいなもので繋がっている。だから花京院はシーザーを引き取ったのだろうか。
 シーザーはこの明確にならない繋がりの正体が知りたかった。

「シックスセンスだよ」
 なのに。
「なんかビビッときたんだよね。君と暮すべきだって。ボクのシックスセンスが言ったんだ」
「……シックスセンス。マジでか」
 彼女は大真面目だった。
「マジだ。シーザーはシックスセンスを信じないの?」
「……映画は面白かった」
「直感はバカにならないよ。ボクのハイエロもシーザーは悪い子じゃないって言ってたし」
「ハイエロ……。花京院の守護天使か」
「ボクの相棒で分身だ。ハイエロの言う事に間違いはない」
「ソウデスカ……」
 シーザーの同居人はオタクで不思議ちゃんの上に電波だったらしい。

 しかしシーザーの目に時々緑色のおばけが見えるので笑えなかった。いっそ笑え。