幸せと辛いの差は棒一本(米英)





 前編

 きっかけはなんだったのだろう。アメリカと喧嘩した。
 喧嘩する事はよくあるけれど、その時の喧嘩はちょっと今までにないくらい険悪だった。
 俺は始めは理路整然とアメリカを言い負かし、アメリカもアメリカで俺の欠点をあげつらった。
 そこいら辺でやめときゃよかったんだが、ヒートアップして止まらなくなった。
 そのうち喧嘩のネタは独立戦争まで遡り、あとはもうぐっだぐだ。
 俺は泣いてアメリカは怒鳴って収拾つかなくなって……ああそれで俺はつい心にもない事を、ちょっとだけ思っているけど、本当はそんな事思っていない事をペロッと言ってしまった。

「お前なんか育てなきゃよかった。お前なんか見つけなければ俺は楽だった。不幸を知らなくて済んだ。お前が俺の不幸の元凶だ。お前なんかフランスに押し付けりゃ良かった、育てるならカナダだけで良かった」

 そんな事は思ってない。
 思ってないけれど喧嘩なのだから、悪意を相手にぶつける為に、思ってもいない事を平然と口にしてしまう。
 アメリカがどう思ったのか知らない。ただ顔から表情というものがなくなった。真っ青というか白い顔というか、見た途端ヤバい良い過ぎたと後悔したけれど、そこで素直に謝れる性分ではないから、引っ込みつかなくなって追い討ちかけるバカさ加減。死ね自分と心の中で思った。
 でも口から出た言葉は「お前なんか、あの時撃ち殺してれば良かった」だ。
 重ねて言うけどそんな事微塵も思っていない。俺はアメリカを心から愛しているし、また銃を向けあう事があっても、絶対に撃てないだろう。
 それでどうなったかというと、最後はやっぱり殴り合い。男なんだから拳を交すのはまあ当然だな。俺とクソヒゲもしょっちゅう殴り合ってるから慣れたもんだ。
 でもアメリカとボカスカした事はない。
 アメリカを殴りたくないという心情以前に、アイツのアイアンクロー鉄の腕で殴られたら一発で病院行きだからだ。バッファローを片手で投げられる幼児が成長した青年の腕力は、すでに人間じゃない。アメリカは人の皮を被ったターミネーターだ。
 アメリカの顔は泣きそうに見えた。錯覚かもしれない。表情は強ばって一見ヤバい人。
 ああマジ殴りされたらこりゃ病院行きだな…と入院を覚悟した。しょうがない。
 大きな会議の後で良かったぜ。合衆国に殴られて世界会議欠席なんて事になったら、国際問題だ。怪我云々より、ヒゲとロシアに笑われるのが我慢ならねえ。
 でもアメリカは殴らなかった。何故か俺にむしゃぶりついて俺の服を剥いで……ヤラれた。
 まさかそうくるとは思わなかったので、思いきり油断した。……というか死に物狂いで暴れたけど、アメリカにがっちり押さえこまれて動けなくなって最後は体力負けして、尻に無理矢理突っ込まれた。流血して死ぬかと思った。
 エロ大使と呼ばれてもそれは女オンリーだったから、男と寝たのは初めてで、痛さとショックで茫然自失。このまま死ぬんじゃないかと思った苦痛も、傷薬と痛み止めの併用を重ね、傷が癒えた頃にはなんとか自分を取り戻した。
 人生色々あるなあと現実逃避して、この先アメリカとどういう顔で会えばいいんだと思っていたら、次の会議で会ったアメリカは何事もなかったかのように普通だったので、一人慌ててる俺の方がバカみたいになっていて、俺の方も何事もなかったかのように振る舞うしかなく、なし崩しにグダグダと表面上を取り繕い…。
 良かったのか悪かったのか分らないが、問題が大きくなって困るのはこちらなので、あれは夢と思う事にした。……とても思えなかったけど。
 その次に会った時もアメリカの態度は相変わらずのずうずうしさで何も変わらず、そんなこんなを繰り返し………忘れたフリができるようになった頃に、また喧嘩して…………レイプされた。
 そしてその後のアメリカの態度は何も変わらず、俺もどうしていいか分らず、でも喧嘩する度に最後は強姦されて……以下グダグダ。
 アメリカはどうやら殴り合いじゃなく、セックスを暴力の代わりにする事に決めたようだ。最低。
 これが女性相手ならアメリカは刑務所行きだが、女性相手に暴力を振う男じゃないので比較にもならず、俺が男だからそんな最低な事をしても罪悪感を持たないのか、それとも元兄を蹂躙する事に暗い愉悦を見い出したのか、ただ単に溜まっていたので手頃なところで解消したかっただけなのかよく分らず、現状の打破もできず、以下リピート。
 なんなんだろうなこれ。
 アメリカと寝る気なんかなかったしそんな想像した事もなかったのに、現実はこうだ。あまりの酷さに俺はこれを夢だと思う事にした。
 夢ならばどんな破廉恥な事をしても許される、またアメリカは終われば態度に情交の鱗片すら見せなかったので、俺もどうにか夢だと思い込む事ができた。所詮誤魔化しだけど。
 アメリカのセックスは最低でただのレイプだったけど、どんな事も回数を重ねれば上達する。
 ゴムを用意するようになって、俺の寝台横の引き出しには潤滑剤が常備するようになって(アメリカが持ち込んだ)、セックスにキスのオプションがつくようになって、フェラチオまでされて、段々レイプがただのセックスになってきた。
 でもセックスするのはやっぱり喧嘩した時だけで、怒りに比例してセックスも酷くなる。元々が無理ある行為なので気遣いを忘れると、受ける方のダメージ大で、切れるは血は出るは起きあげれなくなるわ、とにかく最低。
 アメリカは自称ヒーローのくせにやる事は最低の強姦魔。
「何がヒーローだ人でなし」と罵ってやればアメリカも我に返って止まったかもしれないが、回数を重ねた後なのでなんというかタイミングを逃して、言えないまま今に至る。
 こんな事バレたら世間のいい笑い者なのでそろそろ終りにしたいのだが、アメリカは普段、俺に対する態度にセックスの欠片もなく、喧嘩した時のみにしか強姦魔の顔を見せないので平静の時は口に出しにくく、何となくもうセックスは止めようとは言えないままだ。
 そして喧嘩していったん火がつけば、アメリカは俺の言う事なんか聞かなくなる。止めようとすると煩いとばかりに口にタオルをつっこまれる。なんて酷いヤツだ。
 俺の尻はあまり男性とのセックスには向いていないようで、慣れてもアメリカのを入れるのは一苦労だ。
 ダラダラ滴るくらいにジェルで濡らしてもアメリカはなかなか入らないし、入ってもギッチギチで動かすと内側が軋む。つまり辛い。
 アメリカは何が楽しくて男の尻に突っ込むのだろう。
 ガールフレンドには不自由していないみたいなのに。
 アナルセックスに目覚めたのだろうか。ノーマルな女性相手ではアナルセックスは望めないだろうから、俺は代用だろうか。
 緩やかなヴァギナが目の前にあれば、入れにくく動かしにくいアナルに入れる必要はないだろうし。
 喧嘩するとペニスをアナルに突っ込みたくなるのだろうか。アメリカのツボがどこにあるのかちっとも分らん。
 強引なレイプのままだったらアメリカを憎んで嫌ってればいいのだが、慣れが出て気まぐれに優しくされるとどうしていいか分らなくなる。
 セックスは肌と肌を合わせるから、どうしても相手との距離を近く感じてしまう。下だけ脱がされて、相手もチャックだけ下ろして動物みたいに交わればただの排泄行為だと思えるのに、全裸になって絡みあっちまうと、そこに情があるように錯覚する。ただ溜まってるから吐き出されているだけなのに。
 俺は人の情に弱くて、体温なんかあるともう駄目で、心が先に靡いちまうので、錯覚してんじゃねえと自分の間違いを正すのだが、ちょっとでも優しく抱かれるとやっぱり錯覚してダメダメになる。
 強姦から始まって惰性でセックスしてるだけなのに、そこに情があるなんて思うほうが間違ってる。
 だからそろそろ終りにしたいのに、きっかけがつかめない。


 こういう時どうすればいいか分らなくて相談できる相手もいなくて(隣のヒゲは適材適所だが、弱味を握られるなんて冗談じゃないので論外)一人悩んでいた時に日本に誘われて食事に行き、そこで酒を頼んでついつい杯を重ねて酔っ払って自制が弛んだ所に、
「イギリスさん、何かお悩みでしょうか。最近どこか顔色が優れないようで心配しておりました。イギリスさんが元気がないと私はとても心が痛みます」なんて優しい言葉を日本からかけられ心弱くなって、ついつい本音をボロボロ零して後の祭り。