11/21擬人化王国/無料配布本『紳士で乙女なmayuge chan』題名変更して、再アップ
【02
/ イギリス in Paris】
これは何なのだろう。
Q‥何がありましたか?
A‥義弟にナンパされました。
今日、フランスのマーケットに来たのは、なんとなく気が向いたからだ。
アメリカが仕事でフランスに滞在しているからじゃないんだからなっ!
もしかしたら、万が一の可能性でアメリカを発見できて、遠くから姿をこっそり見られるかもしれない……なんて思ってなんかないんだからな!
フランスに来たのは、偶然だ、なんとなくだ、たまたまだっ、何も意識なんかしてないんだからなっ。
……自分で言っててちょっと苦しい。
そうだよ。認める。オレはアメリカに会いたかったんだ。最近アイツの顔を全然見ていない。仕事が忙しいのは分っているけど、ちょっとくらい顔を見せてくれたっていいのに。
そんなにアメリカの顔が見たいなら自分からニューヨークを訪ねればいいって?
それを言ってくれるな。
ニューヨークにあるアメリカの本宅。昔は気軽に遊びに行ってたのに最近足が遠のいている。
何故かって。アメリカがオレを門前払いするからだ。
WHY?
アメリカは酷い。元兄のオレを冷たく拒絶する。
そりゃあ確かにオレはアメリカの家を追い出されたけど。……二百三十年前に。
でもでも。仲直りしたよな。国交も続いて最大の友好国だよな。アメリカもオレんちに来るし、時々一緒に遊ぶし。
なのに門前払い。何故だ? あんまりな仕打ち。嘆くよりもかつての海賊の血が燃えた、滾った。
「オレを締め出すとはいい度胸だこるああっっ! 玄関開けないなら窓を蹴破って入るからなっ!」
男らしく怒鳴って宣言したら渋々入れてくれた。通りがかりの一般人に通報されかけたけど。
「なんでオレがおまえんちに入っちゃいけないんだよ!てめえはちょこちょこうちに来るくせにっ」
オレの目の前にアメリカの渋い顔がある。あからさまに嫌な顔しやがって。ムカつく。というより。……泣きたい。
そんなにオレが嫌いか。嫌いだから独立してオレを追い出したんだったよな。忘れてないさ。そうかアメリカはオレを嫌いだったんだっけ。
じゃあ嫌われているのにアメリカの家に押し掛けているオレってストーカー?
いや、でも。
「……今、家の中が散らかってて……」
アメリカの言い訳はわざとらしい。微妙に視線を逸らしている。どこか気まずそうだ。なんでだ?
「定期的にハウスキーパー入れてんだろ。……どこが汚いんだ? 綺麗じゃないか。それをいったら締切り前の日本の家の方がよっぽどアレだ……。問題ないのに、なんでオレを邪魔者扱いするんだ。……もしかしてこれから客が来るのか?」
ピンときた。……もしかして女かっ。
え? アメリカに女ぁっ?
なんかムカついた。アメリカのくせに! メタボでホラーが一人で見られないガキの癖にっ、一人前に女作ってんじゃねえっ!
「へええええええっ! お前がね。……そうか。……アメリカもお年頃だもんな。女が来るのに、客にいられたりしたら迷惑か。……そうか、そうだよな。…………で、相手は美人か? 胸はデカイのか? おまえ金髪が好きだったよな。あと緑の目の。……うまくいったら紹介しろよ。邪魔はしねえよ」
理解ある兄貴の顔でアメリカの肩をポンポンと叩く。
誰が理解なんぞするもんかあああっ! 陰険な小姑のごとく微細なアラまでチェックしたるわいっ。
「君は……。オレに恋人ができても平気なの?」
何故かアメリカは強ばった顔をしていた。
……はっ! もしかしてオレの本心がダダ漏れたのだろうか? 警戒された? ……いやいや。外交の時バリの内心見せない鉄壁の笑顔は崩れていないはずだ。
「そ、そりゃあ。……大事なアメリカの事だからな。健全な男なら美人にグラつくもんだろ。男は女の柔らかさに弱い。お前だって例外じゃなかったんだな」
「……ああ。うん、そうだよ……」
「やっぱりそうか! アメリカにとうとう恋人が…。ちょっと寂しいけど、オレは応援するからな。邪魔なんかしないぜっ」
やべえっ。泣きそうだ。歯を食いしばってないと笑顔が保てない。
アメリカに恋人。恋人のいるアメリカ。美人に寄り添い、オレ以外の他人の肩を抱いて微笑むアメリカ。
分っていたはずだ。なのに。
アメリカはオレのモノじゃない。二百年以上前に思い知らされた。あんなに苦しんで残酷な現実を見せつけられた。なのに、オレはアメリカをまだ愛しているらしい。本当にオレはなんてしつこいんだ。これじゃあ本当にストーカーだ。
……こんなんじゃダメだ。オレはアメリカを思い切らなきゃ。それがオレとアメリカの為なんだ。
アメリカは元、弟。
でも今は……いや、これから先もずっと他人なんだ。
だからアメリカがオレより他人を優先するのはおかしくない。オレには傷つく資格もない。
だってアメリカはオレが嫌いだから独立したんだ。それを忘れちゃダメだ。また同じ失敗をくり返してしまう。
アメリカはどこか呻くような声を出した。
「……応援、するんだ。オレに恋人ができたら……君は……」
オレはなんとか笑顔を保ったままアメリカに言った。
「当たり前じゃないか。応援するさ。……なんだアメリカ。オレに邪魔されるんじゃないかって心配してたのか? オレがそんな悪趣味な真似するわけないだろ。フランスのバカじゃあるまいし。恋をする事は幸せな事だ。オレだって日本に会って本物の恋を知ったんだ」
「え……に、日本に会ってって……!?…」
アメリカの声と顔が驚愕で強ばる。
オレは慌てて取り繕ろう。口が滑った。
「ち、違う、そうじゃなくて…」
「何が違うの? 君、まさか日本と…」
「ち、違うって……」
「どうなんだいっ、イギリスっ!」
アメリカの思わぬ剣幕に思わず怯む。それでつい言わなくていい本音を漏らす。
「……いや。実は……黙ってたけど、オレ、日本に…」
「に、日本と…………まさかっ、君っ?」
「……頼むから。恥ずかしいこと言わせんな」
オレはアメリカに恋人ができたショックを隠すために手で顔を覆った。アメリカにはきっと照れたようにしか見えないだろう。
オレも見えなかった。アメリカが驚愕と悲しみとショックと殺意に似た憎悪の表情を浮かべたのを。
(日本に口止めしとかなければ。日本の作った個人出版本、アメリカ猫とイギリス猫が主人公の『ねこたりあ』本に感動して号泣したなんて。アメリカに知られたりしたら一生からかわれ続けるから絶対に知られちゃいけない。死ぬまで秘密にしておかないと。……それにしてもアレは感動的な恋の話だった。目からウロコだった。日本は天才かもしれない。最後にイギリス猫が死んでしまうラストが納得いかないが、だからこそアメリカ猫はイギリスへの深い愛に気がつくんだよな。二次元侮り難し。これが『萌え』というやつか。『萌えとは魂で感じるソウルなのですっ!』と言ってた日本の言う言葉が以前は全然理解できなかったが、ようやく分った気がする。さすが日本だ。エロが無いのにエロスを感じた。フランスの語る『愛』とは雲泥の差だ。あれがジャパニーズWA・BI・SA・BIか。あんな恋ならしてみたいもんだ。日本に続きを読みたいって催促してみようか)
あれからなぜかアメリカはオレの家に来なくなった。何度誘っても仕事の多忙を理由に断られる。
仕事じゃなく、本当は女と会っているのかもしれない。恋は始めが楽しい。女相手なら仕方がない。アメリカは健全な男なのだ。休日にわざわざ飛行機に乗りジメジメ湿気が多い国に来るより、カラッと爽やかな空気のカルフォルニアで胸のおっきいガールフレンドと、あははうふふ追いかけてごらんなさーい待てよベイビー、なんてやっていた方がよっぽど健康的だ。ちっさいビキニの中で揺れるおっぱいは正義だ宝だ目の保養だ心の栄養だ。
羨ましくなんかないんだからなっ!
たわわなフルーツとあははうふふなんてしたくなんかないんだからなっ!
そんなわけでオレはアメリカ不足だった。アメリカが足りなくて干涸びそうだった。心が。
明らかに避けられているのに会いにいけるわけがない。
アメリカの恋人とはち合わせして、アメリカに「大事なハニーなんだ」なんて照れたように紹介なんかされたらロンドンブリッジが落ちるかもしれない。
チキンと言わば言え。所詮オレはケンタッキーフライドチキンになるしかねえしがないブロイラーだ。大空を飛べるコンドルのアイツとは添えない運命なんだ。飛べない豚はただの豚だからフライになるくらいしか使い道がないんだ。
アメリカ不足のオレだが、用もないのに合衆国の地を踏めなくて、アメリカ自身がヨーロッパに来るのを待っていた。ブリテン島に来るんじゃなくても、ドイツとかフランスとかにアメリカが仕事で来訪するのをじりじりと待っていた。こういう時、情報が自由に手に入る立場というのはありがたい。そうしてアメリカのスケジュールを調べ、フランスに来る事を知った。
ここでフランスに連絡をとると、オレがわざわざアメリカに会いにきたのだと分ってしまう。なのであえてヒゲとの連絡を絶ち、さりげなさを装ってフランスに押し掛ける作戦だった。
オレはフランスに遊びにきて偶然、アメリカがパリにいる事を知る、という筋書だ。なんて完璧な作戦。
ヒゲの家に手土産なんて必用ないが、たまには何か持っていってもいい。あいつは既製品じゃないと受け付けないので(手作りを持っていったら速攻で送り返された。ファック!)手頃な価格のワインを二本買っていく。どうせ大半はオレの腹に納まるけど。
……という作戦だったのだが。
予定は未定。予想外のハプニング、突然の不測の事態に、変更を余儀なくされた。
風の妖精に頼んでアメリカのいそうな場所を捜してもらいながら、オレはのんびりマーケットを歩いていた。山のような食材のつまれた市場は人で溢れている。こういう喧噪は嫌いじゃない。活気があり気持ちまで前向きになれるからだ。
屋台で買った焼き栗を齧りながら、どうやってアメリカと会おうか考える。
アメリカに会いたい。
だがアメリカはオレと会って喜ぶだろうか。あからさまに嫌な顔をされたら、いかなオレでも落ち込む。
なんでもない顔をして「やあ久しぶりだねイギリス。暇ならバーガーでも食べにいかないかい?」とでも言ってくれるといいのだが。
アメリカの事だから「お腹が空いたからマックに行ってくるよ。君も用事があるんだろ。じゃあまたねイギリス」とさっさとバイバイされそうな気がする。そこまで軽く扱わなくてもいいのに。
そりゃあ確かにバーガーばっか食べてると栄養が偏るとかメタボが促進するとか小言は言うけど。
しかし、あれもこれもアメリカの為なのだ。
オレだってアメリカに説教なんかしたくない。
……嘘だ。ちょっとしたい。世話を焼きたい。アメリカはオレの子供だ。オカンの血が燃える。
しかし母親の小言をうざったく感じるのが盗んだバイクで走り出すガラスの十代だ。
あいつの場合、どう見ても強化ガラスだが。
「うるせー分ってるんだから何度も同じ事言うな」と、無碍に愛情の手を振り払うのが愛されているのを知っている子供の傲慢。
三百年以上生きているくせに態度は十代のガキと同じとは。大丈夫かステイツは。
オレはアメリカに会いたい。もはやこれは魂に刻まれた本能に近い。
そうだ。本能だから制御するのが難しい。アメリカに会いたい。何が悪い。
ストーカーみたいに迷惑かけるわけじゃない。ただその姿を見て安心したいだけだ。
メタボがちなわが子の心配をして何が悪い。アイスばっかり食べていて虫歯にならないのだろうか。これ以上の糖分を取ったら糖尿病の危険性大だ。ああ、心配はつきない。
アメリカに会いたい。
だが今のオレはアメリカには会えない。折角フランスまで来たのにアメリカに会えない理由があるのだ。
それは……。
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