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 気持ちが悪いようなザワザワとした違和感と、愛しい人を抱いているという興奮が混ざりあい、後悔と喜びを同時に感じて収束し、腹に溜まって下半身に流れていく。
 早くイギリスの中に出したい。だが終らせたくない。
 相反する心も身体の欲求には勝てなかった。

「イギリスッ…」

 アメリカはイギリスの腰をギュウと押し潰すように掴み、一番奥までペニスを含ませると、身体を数回震わせて荒い呼吸と共に放出した。イギリスの内部が収縮してアメリカのペニスを絞る。
 全部を出し切ると、思わず安堵の溜息がもれる。
 熱かった。頭も身体も、繋がっている場所も。
 額から垂れる汗に、いつのまに汗まみれになった事に驚く。

「……け…………ぬ、け……」

 腕の中でハアハアと息を吐きながらイギリスが言うので、アメリカは仕方がなくイギリスから離れた。
 ズルズルと抜かれるペニスにはまだ力があった。芯を残すアメリカは全然足りなかったが、さすがに初めてで2度は無理だろう。イギリスが持たない。
 絡み付く襞にもっていかれそうになるが我慢しカリまで全部外に出すと、大きなモノを含まされて拡がっていたイギリスの孔は凋む事を忘れたようにゆるりと空いて閉まらず、孔からタラタラと液体が漏れ出た。
 透明なローションに赤や白が混じる。
 怪我をさせてしまったかと労るように孔の縁を撫でる。
 内側の濃いピンクの肉が覗き見え、アメリカは目の奥にその色を焼き付けた。
 いつか絶対その中を自分の精液だけで満たしてやると思った。

「……もう、やめろ」

 イギリスが掠れた声で言う。
 もとより続けるつもりはなかったが、アメリカはまだイギリスが足りなかった。
 中に入らない分のスキンシップを続けたかったが、弟に強引に抱かれて衝撃を受けているイギリスの心情も分かるので、それ以上は触れないように我慢する。

「……大丈夫、イギリス?」
「これが大丈夫に見えるなら、眼科に行け」

 イギリスはぐったりして見えた。
 疲れて動けないらしく、足を広げて大事 な場所を晒したまま、下半身に残る違和感と痛みに耐えている。
 とろとろと孔から漏れる液体が淫猥で、アメリカは目の毒だと目を逸らすが、いや待て、こんな美味しい光景を見なければ男がすたると、自分の欲望に葛藤した。
 イギリスのだらしなく開いた口に、アメリカは口付け、垂れた涎を舐めた。
 イギリスの体臭はいつも良い匂いがしたが、キスまで甘いとは思わなかった。
 バラと紅茶の混じった匂いにアメリカはクラクラする。
 ずっと欲しくてたまらなかった宝物を手に入れたのだと、抱いた時より強く感じ、諦めずにいて良かったと心から思った。
 独立した時からイギリスは変わらない。変わってしまったのはアメリカだけだ。アメリカはイギリスの望む子供にはなれなかった。

「……アメリカ?」

 イギリスは様子のおかしいアメリカに目を向ける。

「……どうした?」

 アメリカは両手で顔を押さえて泣いていた。

「……何処か痛むのか? それとも後悔の涙か? お前はもうヒーローじゃなくなっちまったからな」

 自業自得だと乾いた声で言うイギリスに、アメリカは首を振った。
 涙が数滴シーツに落ちた。
 精液で汚れたイギリスの身体。子供のアメリカの前では欠片も見せなかった姿を、アメリカは強引に暴いた。
 どうしても見たかった。アメリカによって汚れたイギリスが。
 だがイギリスは汚れなかった。
 身体は汚れても、その目に浮かぶ鬱陶しいくらいの慈愛はまだ肉親のものだ。
 アメリカはそんな人を汚したのだ。

「……きみを、愛してる」
「……アメリカ?」
「君を愛してるんだよイギリス」

 子供のようにしゃっくりをあげるアメリカは、言い訳するように言った。
 稚拙なその言葉遣いが逆に感情を表しているようで、イギリスは困る。
 昔の小さなアメリカを思い出す。行っちゃイヤだと泣いていた子供をイギリスは置いていったのだ。

「……アメリカ、泣くな」
「きみが好きなんだ」
「……無理だ」
「イギリスを愛している」
「……止めてくれっ」
「あいしてる」
「聞きたくない」
「愛してるよイギリス」

 イギリスは枕に顔を伏せる。
 泣いているアメリカに手は伸ばせなかった。気持ちに応えられないからだ。
 今手を伸ばして涙を拭えば、アメリカはイギリスに受け入れられたと思う。だからできない。






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