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「貸してやるから、ドアは壊すなよっ」
「ギャーッ、ちょっと待てぇ!」

 フランスは出ていった二人を見送って溜息を吐く。
 玄関に次いで地下室の扉まで完全破壊。この分では寝室のドアも蹴り破られかねない。
 やけくそというより、こうなったらアメリカの金で美しく完璧に改装してやると心に決める。
 とりあえずは寝室だ。アメリカと寝るチャンスが消えたのは返す返すも惜しいが、アメリカの初体験を生で見学という美味しい楽しみは残っている。
 秘蔵のデジカメを急いで準備し、ルンタッタと足どり軽く寝室に向う。
 万が一、アメリカが修繕費をケチったらこの録画を日本やハンガリーに売ればいいだけの話だ。きっと高値で売れるだろう。日本は狂喜して秘蔵のDVDをくれるかもしれない。
 ドイツには、これは男同士のセックスの参考録画だと言えば買うだろう。あのムキムキもどうやら兄を狙っているらしいし。兄貴を押し倒すのが強国の本能なのだろうか。ドイツもアメリカもモノはでっかそうだから相手は大変だ。

「アメ、アメリカ、駄目だっ。……待って、待ってくれっ……頼むからっ」
「嫌だ! 絶対に離さない!」

 フランスが初めての情事を録画しに寝室を覗くと、予想通り、二人はベッドの上で格闘中だった。
 イギリスは半分脱げかけのスラックスを脱がされまいと両手で踏ん張っているが、アメリカはそれならば上半身からだとシャツを持ち上げて胸にかじり付く。
 イギリスの身体が跳ねる。

「うわ、何処舐めてやがるっ………や、やめろっ」
「君の乳首…」
「言うなっ」

 動揺のあまり防御力が低下したイギリスのスラックスは無理矢理剥ぎ取られ、黒のビキニがアメリカの前に晒される。

「布が邪魔なんだぞ」
「うぎゃぁぁ!」

 ひっくり返され、下着を足元まで引き下ろされたイギリスがなんとか逃げようと匍匐前進の要領で前に逃げようとするが、足首を持たれ引き戻され、アメリカの下から逃げ出せない。
 危機的状況にイギリスは冷静さを失う。
 首を捻じ曲げてアメリカを見て叫ぶ。

「バ、バカッ、駄目だ、止せ。無理矢理なんてヒーロー失格だぞ、今ならまだ間に合うっ」
「失格でいいよ。今ここにいるのはヒーローじゃなくて、恋に落ちたどうしようもなく愚かな一人の男だ。君を俺のモノにする。卑怯でもなんでもいい、君が欲しい」
「嫌いだと言った舌の根も乾かないうちに態度を反転させてんじゃねえっ。お前と寝るなんて冗談じゃねえんだよっ」

 絶対に嫌だとイギリスは顔色を無くして訴えた。
 イギリスの中に身内と寝る嫌悪感が湧く。

「俺だって冗談で元兄を抱けるもんかっ。君を手に入れなきゃ何処へも進めない。こんなに愛してるのに諦めるなんてできるもんか。俺が諦めるか、君が諦めるかだ。俺は一歩も引かないぞ」

 言いながらアメリカの手は忙しなくイギリスの肌を弄った。
 230年に及ぶ禁欲で、アメリカの性欲は限界寸前だった。いつだって妄想の中のイギリスは淫猥だった。蠱惑敵な瞳でアメリカを誘惑して精を吐き出させた。
 全部想像だったが、今アメリカの下にいるのは本物だ。
 イギリスの身体は片手で拘束できた。アメリカは自分の力がどれくらい破壊的か知らなかったので、イギリスが逃げないのは心の何処かに受け入れる気があるからだと良い方に解釈した。

 イギリスはとにかく逃げる事しか考えられなかった。
 弟と寝るのも男と寝るのも嫌だった。
 男との思い出に良い記憶はない。酒の上での過ちか、戦場での生存本能の欲求か、あとは……。
 アメリカとのセックスは予想外すぎて、ただただイギリスは混乱するしかない。

「イギリス、イギリスッ、好き、好きなんだっ……」

 アメリカがイギリスの身体にむしゃぶりつく。

「アメリカ、止めろっ、お前とは寝たくねえっ」
「俺のだ、俺の……イギリス」

 アメリカはイギリスの首筋に噛みつきながら平らな胸と下半身を弄った。
 イギリスは呻きながらなんとか逃れようとした。
 嫌いな相手なら隙をついてブチのめせばいいし、身体も大した反応はみせず冷静にいられるが、今回は相手が相手だった。
 アメリカはイギリスにとって大事な存在だ。アメリカのセックスがどうか想像した事がないとは言わない。だがそれは女との行為であって、自分がアメリカに抱かれるというのは想像外だった。
 肉親、という壁がある。決して越えられない壁が。
 アメリカが本気だというのは嫌でも分かった。興奮のあまり擦り付けられる下半身はハッキリ反応して熱い。
 男のモノなど擦り付けられたら嫌悪しか感じないが、アメリカだけは別だった。
 だって弟だ。
 かつて可愛いおちんちんを川で洗った事もある。
 オネショの後始末をした事だってある。






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