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「自棄っぱちになるな、折角守ってきた童貞をそんな汚物にやるなんて後で絶対に後悔するぞ。第一そのヒゲ相手に勃つのかよ」
「それは大丈夫。お前さんほどじゃないけど、お兄さん口技もかなり上手よ。アメリカをビンビンにする自信大有りだね」
「黙ってろヒゲ、アメリカに手を出したらヒゲを毟るだけじゃなく御自慢のブツを根元から切り落としてやるからなっ。今回は冗談じゃなくマジだ。魔女と契約して永久インポの呪いをかけてやる。その為だったらどんな生け贄だって捧げるぞ。妖精達に頼んでフランス中の葡萄の木を枯らすからな。フランスワイン全滅だ、ざまあみろ」
「ちょっ、それは止めろ! ワインはお兄さんの血だぞ。血がなくなったら干涸びちゃう。フランスワインを全滅させるなんて悪魔か」
「抵抗しても無駄だぞ。妖精の呪いはお前には解けないし、妖精の仕業じゃ裁判にもならない」
「ヨーロッパのワインが廃れるぞ。アメリカワイン一色になっていいっていうのかよ」
「アメリカワインなんてチャラいもの輸入しなくったって、ワインは世界中で採れるんだぜ。ドイツだってスペインだって。……そういやロシアとの関係が拗れてウクライナのワインがロシアで売れなくて余剰在庫を抱えてるって話だから、今なら買い叩けるな。輸入量を増やすと需要と供給のバランスが崩れて市場が荒れるから二の足踏んでたが、フランス産のワインが市場から無くなればその心配もないし、一石二鳥だ。ワインならイタリアもあるし、何の心配もない」
「イギリス! 本気でやめろっ」

 フランスは焦って怒鳴ったが、イギリスはフランス以上に頑固で依怙地だった。

「お前がアメリカに手を出さないのなら葡萄への干渉もねえ」
「お前…」

 フランスは頭を抱えた。これだからファンタジー国家は嫌だ。
 いざとなれば人外の手を借りてやりたい放題。拳で殴られた方がすっきりする。
 イギリスの言い様にフランスの忍耐力の水準が枯渇レベルまで下がった。
 ドアは壊されるし地下は占領されるし、大事なワインは人質ならぬワイン質にされるし、フランスの優雅な休日は台無しだ。
 ブチッとこめかみで音がした。

「……分かった。お兄さんも覚悟を決める。……アメリカ。寝ようぜ」

 ユラリとフランスからオーラが立ちのぼった。

「へ?」
「来年のワインは諦める。ワイン分、楽しませろ。イギリスの悔し気な顔を見る為ならお兄さん身体中の血が干上がってもいいや。さあ、スラックスを脱げ」
「いや、ちょっと…」

 目の据わったフランスにアメリカはたじろぐ。
 フランスと寝ても構わないと思ったが、イギリスとフランスのやりとりで気を削がれたら、フランスが切れた。
 イギリスの言った通り、フランス相手に勃つとは思えない。アメリカはヘテロで男はイギリス限定だ。フランスの毛だらけの身体に勃つとは思えないし、奇跡的に勃ったとしても挿入前に萎れそうだ。イギリス以外の男に尻に入れたくはない。ヘテロの理性が男を拒む。

「ちょっと待ってよフランス」
「恐くないからリラックスしてお兄さんに任せな。天国にいかせてやるよ」
「別の天国に行っちゃいそうで恐いよっ。近付かないで、目が血走ってて恐いよ、フランス」
「童貞はしばらくぶりだ。どれくら成長したかお兄さんがじっくり見てやるからな。お前の身体はもう俺のものだハアハア」
「俺の身体は俺のものだよっ! 助けてイギリス!」
「やめろ、クソヒゲッ!」

 地下水が吹き出るように扉が宙に浮き、イギリスが飛び出してきた。

「大丈夫か、アメリカ?」
「イギリス」

 ジーンズを脱がされかけたアメリカが涙目でイギリスを見た。

「ヒゲ、てめえよくもアメリカに手を出そうとしやがったな」

 覚悟しろと拳を鳴らすイギリスの顔は日本の阿吽の像にそっくりだった。
 フランスの怒りを上回る憤怒の形相にビビりながらもフランスは「いいのか?」と余裕ぶる。

「なにがだ。お前の地獄行きの切符の購入代金か? 大丈夫だ。俺が立てかえておいてやる」
「そうじゃなくて」とアメリカを指す。
「お前が出てきたって事はアメリカに抱かれる覚悟ができたって事だろ。アメリカは襲う気満々だぞ」

 ほれ、とフランスの指の先にいるアメリカの顔は怯えから一転して爛々とした獣の目だった。

「ア、アメリカ……」

 イギリスが一歩下がるが、二度の逃亡を許すほど呑気ではないアメリカは、猛獣の素早さでイギリスを担ぎあげると怒鳴った。

「フランス、寝室借りるよっ」






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