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 アメリカは考えるより前に怒鳴った。

「ああ、だから恋人ができてもすぐにフラれたよっ。いざベッドに行っても何もしない男に女の子は侮辱されたと思って怒り心頭だからねっ」
「……えっ?」
「正直に告白するよっ。俺は童貞だよ。君を諦められなくてずっと清い身体を守ってきたんだぞ。愛のないセックスなんて動物以下だ。……ああ、君は動物以下だったっけ。君のご乱行は海を超えた俺の耳にまで届いたんだぞ。俺がどんなに悔しかったか君には分からないだろうねっ。モテて、素敵な女の子とベッドインのチャンスに、思い浮かぶのが変な形の島だなんて、悪趣味にも程がある。脱・童貞のチャンスなんていくらでもあったのに、俺が挿入したいのは女の子の柔らかい身体じゃなくて、魅力に乏しい君の尻なんだ。我ながらどうかしている」
「……あ……ううっ……アメリカ………嘘…だろ…?」

 イギリスの声は恐れるようにか細い。

「嘘はつかないって言った。君は疑いすぎだ。もう恥ずかしいなんて思わない。俺は未経験だ。誰にも入れた事はない。初めての相手はイギリスだと決めてたんだ。俺が童貞なのは君のせいなんだから、イギリスは責任をとって俺に抱かれるべきだ」
「だっ……責任て…………んな事言われても……」

 ここぞとばかりにアメリカはたたみ掛けた。

「ここまで守った貞操を愛してもいない適当な娘に捧げるべきだと言うのかい? そんなつまらない真似をさせたいの? 愛のないセックスをした方がいい?」
「だ、だからこれから好きになった女とやればいいじゃないか」
「誰も好きになれなかったら? 君を忘れられず誰とも付き合う気になれなかったら? 俺は一生童貞でいなくちゃならないのかい? アメリカ合衆国が童貞だなんて、他の国に知られたら世界中の笑い者だ。俺がそんな目にあってもいいのかい」
「アメリカ……」

 アメリカは扉を撫でた。

「出てきてよイギリス。君を見て愛してると言いたいんだ。俺のモノになってくれ。俺を抱き締めて恋人にして欲しい。愛してるのはいつだって君だけだった」
「…………」

 無言の扉の向こうの葛藤をアメリカは待つつもりはなかった。出てこないのなら向こうが出てきたくなるようにするまでだ。

「イギリス。君が俺に抱かれてくれないのなら、俺は長年守ってきた童貞を、今すぐ捨てるぞ」
「……う?」
「この場でフランスと寝る。君が受け取らないのなら、君の側でフランスに捧げてやるっ」
「ブッ!」

 他人顔でニヨニヨしながら聞いていたフランスは吹き出した。
 地下では何かが倒れる音がした。

「あ、あめりかさん?……」

 突然の発言に流石のフランスも虚をつかれ、冷静さを失って乱暴者の弟を凝視した。

「俺と寝てくれよフランス。イギリスに見せつけてやるんだ。君の尻に突っ込ませてくれ」

 突然の提案に、フランスはらしくなく動揺した。

「ちょっ……いやいやいやいやいやっ。お兄さんエロい事大好きだけどお前は弟だし、第一やる方ならともかくやられる方だとすると未経験の相手は辛いというか、ぶっちゃけ流血沙汰になるから遠慮したい。痛いだけのセックスなんて勘弁だ。同性のセックスは抱く方に技術がいるんだよ。童貞のお前じゃ動物セックスしかできないだろ。入れて出すだけがセックスじゃないの。相手を気持ち良くさせて自分も気持ち良くなって初めてセックスって言うの。出すだけならセルフで充分だ」
「大丈夫だろ、フランスは変態だから。弟の初めてを貰うっていう背徳だって楽しめるだろ。痛いのだってSMプレイだと思えるくらいには慣れてるくせに」
「そりゃあお兄さんは慣れてるけど、そこまで自棄にならなくても…」

 フランスは地下からの不穏な空気に怯えながら期待に心を高鳴らせた。
 イギリスの報復は恐ろしいが未経験の弟の手ほどきというのは魅力的だ。アメリカは中身を考えなければそれなりに美男子だし、ベッドの相手としては不足はない。経験皆無の男と寝るのは恐いものがあるが、その辺はなんとか自分がリードすればいい。むしろ真っ白なアメリカを自分の色に染めてしまうのも面白い。テクには自信があるから身体だけでも夢中にさせてしえばいい。心はイギリスにあっても、理性と下半身が別々に独立しているのが男だ。アメリカをセックスの虜にするのも面白そうだ。

「よし、お兄さんがアメリカの初めてを貰ってやろう。恐くないぜ。優しくしてやるからな」

 その気になったフランスに地下から大音量の叫び声が聞こえた。

「待て待て! ちょっと待てぇっ! 殺されたいかヒゲッ! 思い直せアメリカっ。そんな汚いヒゲの尻相手に初めてを経験するなんて間違っている。地球が反転するくらい間違ってる! セックスしたかったら外に出て美人か美少女をひっかけてこい。口説く手間が面倒だったら、モンマルトルに行け。あそこなら遊ぶ相手には事欠かない。とにかくヒゲだけは止せっ。一生消えない黒歴史になるからっ!」
「君の目の前でヤル事に意味があるんだよ」






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