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「やーなこっ…」
「修繕費を踏み倒したら、今後300年はイギリスとの間を邪魔してやる。お兄さん、お前に嫌がらせする為だったらイギリスにランパブもコールガールもおごっちゃう。女の胸に顔を埋めてやに下がってるイギリスの動画を送ってやるから覚悟しとけ」

 フランスの冗談の欠片も見られない目付きに、アメリカはゾッとした。
 フランスは本気だ。

「………請求書は自宅に送ってくれていいんだぞ」
「分かればいい。……その前にごめんなさいは? イギリスは何処だ? まさか逃がしたのか?」
「ごめんよ、謝るからイギリスを一緒に探してくれよ。何処にもいないんだ。突然消えちゃったんだ」
「イギリスはこっちにきたのか?」

 姿の見えないイギリスに、フランスが不思議そうに聞いた。

「キッチンのドアは一つしかないし、窓は小さすぎていくら貧相なイギリスでも通り抜けは無理だ。……忽然と消えたんだぞ。イギリスは本当に忍者の弟子になったのかな」

 フランスはキッチンを一瞥し、納得した。

「消えたんじゃない。たぶんあそこに隠れてるんだろう」
「あそこって?」

 期待を込めた目でアメリカはフランスを見た。

「お兄さんのキッチンには貯蔵用の地下室があるんだ」
「え、何処に?」
「キッチンのデザインを損ねないようにタイルの模様に合わせて入口のデザインを…」
「そんなのどうでもいいから、入口は何処だい……ここ?」

 床にバッタのように這いつくばり地下室の入口を探すアメリカに、フランスは「ちょっとどいてろ。……いいか、焦って地下室の入口は破壊するなよ」と釘を刺す。

 白黒のマス目に並ぶタイルの一つを押し、隣のタイルの下にスライドすると、把手があらわれる。

「把手はタイルの下にあるんだ。これなら地下への扉があるなんて分からないだろ。この仕掛けとデザインを考えたのは日本とイタリアで……」
「そんな説明は後だぞ。早く開けてくれよ」

 自慢のキッチンの説明を遮られたが、不承不承フランスは頷き、諦めた。
 肉を目の前にした犬には食欲しかない。目をギラつかせるアメリカをこれ以上焦らせたら、また無理矢理入口を破壊されかねない。車を引き摺ってランニングできる超パワーをキッチンに注がれてはたまらない。小さくても、ここはフランスの城だ。

「おーい、眉毛。もう逃げられないから諦めて出てこい。今なら情状酌量の余地はあるぞ」

 地下への扉を叩いてフランスはのんびり会話を投げた。

「う、うるせえヒゲっ。そこを開けたらお前のシャトーマルゴーを飲み尽くすぞ」
「やめてっ! そこにあるのは何年も寝かせた高級品なのよっ。ガブのみするなんてワインに失礼だぞ」

 焦ったフランスはドアを開けようとしたが、軽く開くはずの扉が何故かウンともスンともいわなかった。

「ちょっと、お前うちの扉に何したの。いつのまに細工した?」

 板を叩くが、何かで覆われているように鈍い音が返るだけだった。

「俺を舐めるなよ。これくらいの事、朝飯前だ。ふはははははは」

 イギリスの高笑いが足元から聞こえ、フランスは焦る。後ろではアメリカが今にも鎖を引き千切りそうだ。

「お前が早く出てきてくれないと、アメリカの忍耐が切れてお兄さんのキッチンが破壊されるんだよ。床板ひっぺがされて捕捉されたくなかったら自分から出てこい。お兄さんが間に入ってやるからアメリカと仲直りしろ、頼むから仲直りして。哀れなお兄さんをこれ以上虐めないで」

 フランスの泣き言にイギリスはさらなる高笑いで蹴とばした。

「はははは、お前の不幸は俺の幸せだぜ」
「そんな事言うと、本当にアメリカをけしかけるぞ」
「やれるもんならやってみな。今回ばかりはアメリカのバカ力でも破れないからな」

 自信満々のイギリスに、アメリカの力をよく知っているはずのイギリスがどうしてそこまで確信的なのかと、フランスは不思議に思って聞いた。

「お前さん、うちの地下室に何したの?」
「ふははは、俺にはいざという時に助けてくれる仲間がいるからな」
「仲間って……お友達の少ないお前の仲間って日本とかカナダとか? …………もしかして、妖精達か?」
「正解だ。彼らはみんな俺の味方だからな」

 自信満々に言うイギリスに、フランスは嗚呼と思う。人外助っ人なんてチートすぎる。

「空ならシルフィールがいるし、地下ならドワーフとか、何処にでも味方はいる。逃げるなんて雑作もないぜ」
「妖精の手を借りるなんて、反則だ…」

 フランスは納得した。イギリスがどうやってアメリカ機関の目をかいくぐったか分かった。さすがのCIAも妖精の力や魔法は認識外だ。

「お前、逃げる時に『妖精の回廊(フェアリーロード)』を通ったのか」






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