11



「真剣に告白したら、イギリスの事だから
『からかってるんだろう、騙されないぞバカァ』って言いそうだよ。もしくは
『悪いものでも食べたのかアメリカ。バーガーばっかり食べてるから情緒不安定になるんだ。化学調味料が脳に及ぼす影響は…』…なんて、変な方向に話を転換しそうだ」
「うっ…。それは充分ありえる。……だがそれもこれも全部お前が悪い。今まで散々冷たくされからかわれた経験から、イギリスはお前が絶対に告白なんてしないって学習したんだ。信じればバカを見ると思い込むイギリスを作ったのはアメリカだ。反省して自業自得の文字を噛み締めろ、若造」

 フランスは容赦がなかったが、これくらいの叱咤は当然だった。
 アメリカの今までの所業の積み重ねにより、イギリスの不信は巨大に成長したのだ。
『ごめんね本当は大好きだよ』…なんて今さら言ったところで、素直に信じられるわけがない。
 自業自得の四文字にアメリカは頭を抱えた。

「……だから反省して今度こそ真剣に告白しようって決心したんじゃないか。……謝る機会くらいくれよ。逃げるなんて酷いんだぞ。イギリスのバカ」
「ヤツに二度と会いたくないとマジ発言しといて、舌の根も乾かないうちに真逆な事言ってんじゃねえ。そんなんだから信用されないんだよ、お前は」
「俺がイギリスを見限るわけないじゃないか。そんな事も分からないからむかつくんだよ、イギリスっ」
「こんなに愛してるのに、どうして分かってくれないってか? そんなの言わないのに分かるわけがねえ。何も行動しないくせに相手が分かってくれないって拗ねてんなら、恋愛する資格はない。努力なしに大事な者を手に入れようなんて考えるなら、近場の手頃な娘で満足してろ。お前には真剣な恋愛は無理だ」
「無理かどうかはやってみなくちゃ分からない。過ぎ去ってしまった時間は取り戻せないけど、未来はこれからやってくるんだ。適当な相手でいいのなら、200年以上も引き摺ってないし、イギリスを軽んじたつもりもないよ。オレはオレなりに真剣だ。……ただ、オレが子供で、イギリスに甘えてたのは悪いと思ってる。反省してる。……もう逃げない。イギリスを掴まえたら、今度こそ告白して恋人になる。イギリス本人にだって邪魔はさせないぞ」

 アメリカの目がギラリと光る。

「その御本人様は何処へ雲隠れしてるのかね。こりゃマジで女王陛下に頭を下げるしかないかもな。 ……親に結婚の報告にいく男みたいだな。お嬢さんを僕に下さい、イギリスを俺に下さい、大事にします幸せにします」
「からかわないでくれ。本気でそうするしかなさそうで笑えない」

 アメリカは悲鳴のように甲高い声を出した。

「笑えよ。お前のような若造に大事な国家はやれないって女王陛下に言われたらどうする」
「うっ……。それは困るよ」
「アメリカ、余裕を持て。一度くらい駄目でもキレずに何度でも頼み込んでイギリスの所在をつきとめろ」
「イギリスぅ…。何処にいるんだ。愛してるけど、引き蘢りと逃亡癖はNGだよ。逃げるくらいなら怒ってよ。他のヤツにはそうしてるじゃないか。俺を相手にした時だけ逃げるなんて酷いんだぞ」
「愛してるから否定が恐いんだろ。他人なら何を言われてもへっちゃらプーだが、大事な相手からの仕打ちは堪える。アメリカにとってイギリスが兄だった事は遠い過去かもしれないが、保護者はいつだってガキを大事に思ってんだ。たとえ裏切られてもな。元ヤンでも愛には敏感なんだって分かってやれ。そういうイギリスだから惚れたんだろ?」
「分かったよ。だけどまずはイギリスを見つけてからだ。本人がいないと会話も虚しいよ」
「関係ないのに付き合ってやってるお兄さんになんという暴言。そうやって空気読まないとイギリスを見つけてもまた逃げられるぞ」
「読める空気の話は後でいいよ。……とりあえず今日は大使館に行ってイギリスが見付かったか、相談する。捜索の手を北欧にも伸ばしてみる」
「せいぜいロシアを刺激しないように気をつけろよ。あとフィンランド達に迷惑をかけるんじゃないぞ」
「誰に向って言ってるのさ。俺は合衆国アメリカだぞ。他人に迷惑をかけた事なんかないぞ」

 胸を張って言うアメリカに、フランスはKYってすげえ…と呆れを通り越して遠い目になった。これだけ周りの気持ちを無視できるのは一種の才能だ。アメリカのような性格に生まれたら幸せだろう。他人を踏みにじっても気がつかない。
 現在過去未来で迷惑をこうむり続ける日本が聞いたらどうするだろうと想像して、やめた。日本が哀れすぎる。
 アメリカはプロイセンとは別の意味で友達ができない性格だ。

「……現在進行形でお兄さんに迷惑かけてるバカがどの口で言ってる。その台詞を世界会議で言ったら一斉に物を投げられるぞ」
「ワオッ。皆ストレス溜まってるのかな。投げるのならいっそパイ投げ大会でもするかい? きっと楽しいぞ」

 そんな大会があったらまっ先にクリームまみれになるのはきっとアメリカだ。サブプライムを含むクソ政策のせいで世界中が頭痛持ちなのだ。報復のチャンスがあれば皆やる、絶対に。






 →12


 novel top