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 フランスはへえ、と小馬鹿にしたような目でアメリカを見た。

「とうとうイギリスに告白するつもりか? 土壇場でいつものように誤魔化したりしたら、脚色して全世界に流して笑い者にするぞ。それでもいいのなら協力してやる」
「え、そんなの酷いぞフランス。なんでそんな意地悪を言うんだい」
「誰が意地悪だ。人を散々巻き込んで迷惑かけといて、いざとなったらやっぱり告白できませんでした…なんて、人の良いお兄さんも限界プッツンだよ。逃げる気がないのなら約束できるだろ。アメリカはちゃんとイギリスに恋人になって下さいって正直に言えるんだよな。もう立派な大人だもんな」

 ニヨニヨと挑発され、アメリカはあっけなく玩ばれる。

「も、勿論だぞ。今度こそちゃんと告白して、イギリスと恋人になるんだ。200年以上も逃げられたんだ。もうこれ以上待つなんて嫌なんだぞ」
「相手に対して正直になれなかったのはどっちも同じだろ。イギリスばっかりに非があるみたいに言うんじゃねえ。お前に足りないのは相手に対する思いやりだ。自分の言った言葉に相手がどう反応するか想像くらいできる筈だ。その程度の気遣いができねえなら恋人を持つ資格はない。恋愛とは忍耐でもあるんだからな。相手にばっか忍耐を強いるな」
「忍耐ならロッキー山脈くらいしてるよ。イギリスを諦めないと覚悟した時から苦労するのは分かってた……。あんなウザイ人を愛し続けられるのなんて俺くらいなんだぞ。そういう大事な所も分かってくれなくちゃ」
「へいへい。お前は前向きでいいな。……イギリスの行きそうな場所か。……日本には聞いてみたのか?」
「日本は締めきりが近くなったからって携帯切ってるよ。友達より原稿をとるなんて友達がいがないんだぞ」

 アメリカがBooBooと文句を言う。
 豚のように鼻を慣らすアメリカに、フランスがピシリと釘を刺す。

「都合の良い時だけ振り回しておいて更に甘えるんじゃない。日本にだって一人になりたい時があるんだから邪魔するな。痴話喧嘩に他人を巻き込むのは不粋だぞ」
「だってイギリスが掴まらないんだからしょうがないじゃないか」

 アメリカがブスッと頬を膨らませる。
 大人目線のフランスに苛つくが、うつ手がなくてフランスを頼って来たのだから文句も言えない。
 アメリカは獣のような目でワインの瓶を仇のように睨んで言った。

「イギリスを見つけたら酷いんだぞ。……告白したら速攻ベッドに行って俺の愛がどれだけしつこいか身体に教えてやる。反対意見は認めないし聞かないぞ」

 やる気満々のアメリカに、フランスは呆れる。

「相手の同意はとれ、最初くらい。……ってか、さりげなくレイプ宣言しないでくれる? お兄さん愛の国だからそういう無理矢理系大嫌いなの。プレイならいいけど、マジは駄目。最初が肝心なんだから、せめて自宅か一流ホテルの清潔なシーツの上で優しく抱いてあげなさい。無理矢理やったらあのネガティブ国家の事だから、正反対の意味にとって絶望して引き蘢るか徹底的に避けるぞ。……あ、もう逃亡中か」
「信じないなら信じるまで大声で言い続けてやるさ。ネットで全世界に流したらさすがに信じるかな。俺はゲイじゃないけど、育ての親のアーサーが好きで押し倒してガツガツ貪ってモノにしたって。写真入りで公開すれば、イギリスも俺の気持ちを疑う余裕なんかなくなるぞ、きっと」
「イギリスが外を歩けなくなるから止めなさい。お前の上司が怒るし、知ってて止めなかったのがイギリスにバレたらお兄さんアイツに殺される」
「上司なんて恐くないぞ。何せ200年以上の年季の入った片思いだ。その頃生まれてもいなかったヤツにどうこう言われたくないんだぞ」
「人と俺達の寿命は違うんだからしょうがないだろ。あんまり我侭ばっか言ってると増々イギリスにガキ扱いされるぞ」
「そのアーサーを納得させたくて色々考えてるんじゃないか。
『好きだ、愛してる、恋人になって』……これ以上ないくらい分りやすい告白だろ。なのにその台詞を曲解し誤解してまったく信じない人を信じさせる台詞ってなんだい。膝をついて真っ赤な薔薇の花束と指輪を差出して『結婚してイギリス』って言ったって、ドッキリかと即座に判断、隠しカメラを探し始めるのがイギリスだぞ。ドイツじゃないけど『イギリス男性を絶対に口説き落とせるマニュアル』なんてあったら、読んで参考にするのに。グーグルで検索かけても載って無いんだぞ」
「そんなピンポイントのマニュアルなんてありません。需要が無さすぎだ。……告白なんだからマニュアルに頼らないで、自分のありったけの気持ちをぶつければいいじゃないか。真剣な気持ちなら、相手にはちゃんと伝わるもんだ」
「イギリスには伝わらなかったぞ」
「そりゃお前の真剣さが足りないからだ。いざとなったら『冗談だぞ、本気にしたのかバカだなあ』…なんて台詞を用意しての告白なんて、お兄さんは認めません。愛の言葉を大事に扱わない男が恋を手に入れられるわけないだろ。イギリスは間抜けだけどバカじゃないし、猜疑心強いんだから、心を理解して欲しかったら、まず素直に自分の心を見せろ。保険をかけての告白なんてするな」






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