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「あいつもいくつも違う名前のパスポート持ってるからな。逃亡はお手のものだろ。髪と目の色変えて特徴のある眉毛を隠したら探し出すのは困難だぞ」
「分かってるよ。リッツカールトンに泊まってるのが分かったけど、所在が分かった途端に煙みたいに消えちゃうんだよ。つい先日も逃げられないはずのエレベーターから忽然と消えて、英国はジャパニーズ忍者の弟子だなんてうちの部下達の間で持ちきりだよ。あのスキルを別の所でいかせばいいのに。余計な技ばっかり習得してなんなんだよ、あの人は」
「マジで?」
「マジだよ。ヒキダテンコーみたいに消えたって」
「エレベーターの箱の中から忽然と消える術か。……俺も知りたいな、そのイリュージョン」
「感心してる場合かい」
「イギリスが最後に消えた場所は何処だ?」
「香港だよ。もう宗主国でもないくせに、保護者面で香港とマンダリンオリエンタルホテルでアフタヌーンティーだって。ペニンシュラは日本の観光客だらけなんで落着かないって前に言ってたからね」
「香港か。……眉が宗主国似だが顔つきは上品で結構可愛いよな。中国の弟でアジア顔なのに、イギリスの文化をガツガツ貪って眉が似ちゃったんだよな。不憫な」
「アジア人の顔はみんな同じに見える。特徴なさすぎ。あれって影武者のつもりかな。……イギリスは香港で足ツボマッサージを受けた後、ホテルでアフタヌーンティーをして、エレベーターの中で消えた。足ツボマッサージってかなり痛いらしいね。イギリスはごりごりやられて、悶絶してたらしい。なんでお金払って痛い思いするのか分かんないよ。ソフトなSMクラブみたいなものかい?」
「東洋医術といかがわしいクラブを一緒にするんじゃありません。中国に訴えられるぞ。東洋の医術はよく分かんないけど神秘的だよな。足裏に身体中の神経が集中してるなんて、レントゲンも放射線もなかったくせに、誰が発見したんだか」
「それこそ見えない空気を読むように見えない神経の繋がりを心の目で見たんだろ。日本も良く言うぞ。アメリカさん、真実は目で見るのではありません、心の目で見るのです、肌で感じるのです…だって。読める空気がある国には心にも目があるんだぞ。知らなかっただろ」
「日本はイギリスに継ぐ不思議国家だからな。若く見えても紀元前から生きてるんだから化石もびっくりだ」
「わおっ、だったら日本も博物館に飾れるかな。イギリスを捕獲したら日本も捕獲しよう」
「国を見せ物にしたら国際問題になるから止めなさい。……イギリスが潜伏しそうな場所か。……インドは?」
「あそこにもエージェントを潜り込ませてあるよ」
「スウェーデンとフィンランドはどうだ? あっちにはシーランドがいるからな。弟に会いに行ってんじゃないのか?」
「北欧か。そっちはまだ探してない。スウェーデンとフィンランドのどっちを先に探そう」
「イギリスはスウェーデンよりフィンランドの方と仲がいいぜ。ヨーロッパの二大味オンチ国家同士だし、フィンランドも妖精が見える不思議ちゃんだし」
「フィンランドも妄想系不思議ちゃんなのか。スウェーデンも苦労するだろうな」
「あの無愛想男はそんな女房が可愛いって惚れなおすさ。恋は盲目というが、目だけじゃなく脳まで侵されてフィンランドにメロメロだ。フィンランドはどっかの島国と違って性格もいいし、スウェーデンもどっかの若造と違って大人だ。あのオシドリ夫婦みたいになりたかったら、早く大人になんな」
「他人の事なんてどうだっていいんだぞ。……じゃあ早速北欧を捜索してみる」

 アメリカは携帯を取り出した。

「北に行く時には気をつけろよ。ロシアには触れないようにな」

 フランスは神妙に忠告した。

「ははは、頼まれたってあんな氷の国なんて御免だぞ。それにイギリスはロシアが嫌いだからロシアの近くには行かないよ、きっと」
「そうかもしれないが、イギリスもキレると何をするか分からない所があるから、案外ロシアにでも匿ってもらってるのかもしれないぜ。ロシア姉妹は美人揃いだし、姉はイギリスの大好きな巨乳系だ」

 こんなんだ、とフランスは胸の前で手で山型を作り、盛り上がりの大きさを説明した。
 まるでイギリスがそうしたかのように、アメリカの顔が不機嫌になる。

「ふ、不道徳だぞ。女の人を胸で判断するなんて。これから行って不良中年の素行を正してくるんだぞ」
「ウクライナは性格も悪くないって聞くぞ。優しい巨乳ちゃんに甘やかされたら、イギリスも落ちるかもな。エロい事大好きだし、寂しがりやだから甘やかされる事に弱い」

 フランスにからかわれているだけだと分かっていても、アメリカは冷静ではいられない。






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