03



「で、そろそろうちに来た目的を言えよ若造。今度は何をやってイギリスを怒らせたんだ? ……んん?」

 ニヨニヨ笑われて、アメリカはうう、唸ってから、ガバッと顔を上げた。

「フランス! イギリス何処に行ったか知らない?」
「坊ちゃんなら家にいるんじゃないのか?」
「いないから聞いてるんだよ!」
「家にいないなら仕事で出張か、休暇だろ。やつの秘書にスケジュールを聞け」
「口止めされてて、秘書を筆頭に誰も教えてくれないんだよ!
 『カークランド卿は現在休暇中で、居場所は聞いておりません』…だってさ! 本当は知ってるくせに! 偽証罪で訴えるぞ!」
「本当に何やったのお前。またイギリスを怒らせたのかよ」

 アメリカは口を尖らせた。
 ムスッとしたまま横を向く。

「……イギリスと喧嘩した」
「喧嘩ならいつだってしてるだろ。例えば料理ネタ。『君の作るものはどうして全部生物兵器になるのかな。ひょっとして合衆国の毒殺を狙ってるのかい? ……バカァ、お前なんか嫌いだーっ!』……ってやりとりを何度飽きずにしてるんだよ。すでにデフォルトだよ、定番コントか、お前らは」
「イギリスの手料理を食べたらそういうコメントしか出てこないよ。そんなの世界共通の認識だぞ。完食してるんだから、文句を言わないで欲しいよまったく。イギリスの料理を食べてる時点でもの凄いボランティア精神だよ。賠償金を請求しないのは俺の優しさだ」

 そんな事を言うアメリカだが、実際イギリスがアメリカに食事を作らなくなったらなったで難癖つけるに決まっている。
 フランスは変わらないやりとりに苦笑いした。元兄弟は飽きもせずに同じ諍いを繰り返している。すでにコミュニケーションの一環だ。

「毎回完食してんのか。そりゃすげえ愛だよな。イギリスもそろそろお前の気持ちに気付けばいいのにな。……でもアメリカも悪いぞ。ガキ扱いされたくなきゃそろそろ大人の対応をしろ。あの坊ちゃんは捻くれ者の天の邪鬼だが、好きな人間の言う事は素直に聞くからな。身内にゃ甘くて隙だらけだ」

 だからアメリカがその気になって大人の対応をすれば、イギリスはイチコロだ。
 周囲はそう踏んでいるのだが、当人達にはそれが分からないから大抵拗れる。
 ワイングラス片手にアメリカはキーッと拗ねる。

「そこが可愛いんだからしょうがないだろ。……俺が大人の対応なんかしたらイギリスはショックで引き蘢るよ。あの人の中の可愛いアメリカ像はティーンの頃で止まってるんだから。どこまで妄想の中で生きてるんだよ。ファンタジー王国もいい加減にして欲しいよ」
「あいつはどんだけお前に夢見ちゃってんのかね? ……で、お前はそういう扱いをされるのに我慢できずイギリスに当って泣かせて怒らせて、挙句にイギリスに逃げられて、焦って俺の所に来たってわけだ」

 図星をさされたアメリカはふてくされた顔で頷いた。

「いい加減認めてくれればいいのにさ。意地っ張りなツンデレも可愛いけど、過ぎると可愛くないんだぞ。遊ぶには事欠かない友達も仲間もいる俺が、毎週休みのたびに湿っぽい島国に来る理由をちゃんと考えればいいんだ。俺はイギリスの家族じゃないんだって何度も言ったし、他人がしつこく遊びに来る理由がたまたま暇だったからなんてあるわけないって気が付けよ」

 フランスはヘラヘラと「そりゃあ無駄だ」と笑った。

「どうしてさ?」
「だってお前、イギリスの家に通いつめる前は日本の家に遊びに行ってたじゃないか。条件ならあっちだって同じだろ。日本は島国だし、夏の湿気はイギリス以上だ。極東の湿っぽい島国に通っていた理由はなんだ? ただ単に遊びに行ってただけだろ。日本はお前に甘いから我侭を押し付けに入り浸っていたくせに。日本に対してそうなんだから、イギリスが自分も同じだと思ったって仕方がない。友達じゃなく恋人として認識して欲しかったら、ちゃんとアプローチしろよ。つまり明確な言動を避けた弱腰のアメリカが悪い。原因はおまえの保身だ」
「だって…。日本は友達だし。ゲームや玩具は沢山あるし、原稿があると放っておいてくれるからだらだらし放題だし、食べ物はイギリスと違って美味しいし……」
「日本の家は居心地良いからな。本命に相手にされないくらいなら、って日本に甘えてたアメリカが悪い。あの坊ちゃんは愛情にかけちゃ自信なんか欠片もないんだから、ちゃんと愛してるって言ってやれ。ひとこと言や済む話なのに、なぜ意地を張って遠回りするのか、お兄さん全然分かんない」

 正論でやりこめられるとアメリカは分が悪く、ますます口を曲げる。

「好きだって言ったよ」
「へえ? 本当に? いつ?」
「ずっと前に。……なんで俺の家に来るんだってイギリスが聞くから『君が好きだからに決まってるじゃないか。ニブチンアーサー』って言ったら」
「ちゃんと言えてるんじゃないか。男前だな。その時のイギリスの反応は? 『嘘言うな、バカァ! 騙されないからなっ』…か?」

 真っ赤になって震えるイギリスが容易く想像でき、フランスは人の悪い笑みを浮かべる。
 アメリカは短く「NO」と言った。






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