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 若さならドイツだって変わりないだろうに、どうしてここまで違うのかと思ってしまう。
 育て方の違いだと言ってしまえばそれまでだが、あんまりだと思うのだ。
 イギリスではなく自分が育てていたらどうだろうと想像するが、うまく想像できない。
 アメリカは誰が育てようといずれは独立しただろう。アメリカは他人の器の中に収まる大きさではない。
 しかし、アメリカが急激に成長したのにはイギリスに責任がある。甘やかして育てたからだ。
 そして独立されてしまったのだから、哀れと言えば哀れだが、間抜けと言えば間抜けだろう。
 アメリカに手を貸したフランスの言い分ではないが、イギリスは賢いくせに馬鹿なのだ。
 馬鹿だから、何事もなかったかのように家に来るアメリカを許してしまう。
 あれだけ傷つけられたくせに、イギリスはアメリカに冷たくしきれない。
 イギリスは友達が少ないからしょうがない。誰だって寂しいのは嫌だ。
 アメリカはイギリスの家に通うようになってからは、フランスや日本の家に来なくなった。時間があればその分イギリスとの距離を縮めようと必死だ。
 外見通り、アメリカは若くて、若いという事は未熟と同義だ。
 イギリス以外の誰もが知っている公然の秘密だが、アメリカはイギリスが大好きだ。
 手を振り払って独立したのだって、イギリスならば最後には許してくれるだろうという甘えがあったからだ。
 それを200年も許されず距離を置かれてしまい、マザコンで大人になりきれないアメリカは困って焦って、当人のイギリスに八つ当たりするという悪循環を繰り返し、関係改善は遅れに遅れた。それでも持ち前のKYを生かしイギリスを構い倒しているうちに、ようやくイギリスのハリネズミのようなトゲも抜け、段々と距離も近付きつつある。

『イギリスに余計な事を吹き込んだり近付いたら、報復しちゃうゾ★』

 アメリカの独占欲のせいで、イギリスは平和な時代を迎えても孤立無援状態だ。
 フランスや空気を読まないプロイセン、大人しいがやる時はやる日本くらいしか、イギリスの周りにはいない。あとアメリカの兄弟のカナダ。しかしいかんせん物理的な距離がある。
 アメリカの一番の強敵はシーランドだ。
 イギリスそっくりの弟は身内の気安さでイギリスに甘えやりたい放題し、イギリスも生意気で我侭なシーランドにはつい甘く接して、イギリスの全てを独占したいアメリカはギリギリしている。
 シーランドが競売の挙句にスウェーデンの養子になり、さあ今度こそ二人きりだ、存分にKYを生かしていちゃつくぞ、とアメリカはやる気満々だったはずだ。
 イギリス以外の誰もが知っている事だが、アメリカはイギリスの恋人になりたがっている。
 アイラブユーと囁きキスして、ゴートゥーベッドでぶっちゃけメイクラブしたい。
 巨乳好きのイギリス相手にそれは難しいが、アメリカに甘いイギリスの事だからそれなりにつけこむ隙はある。最初は拒んでも、泣き落としで迫られれば最後は拒みきれずにあれよあれよとなし崩し、あとは悩む暇を与えず強引に回数を重ねれば自然に恋人同士のできあがり、だ。
 ムードも駆け引きもない力押しだが効果はある。というかイギリスに婉曲な駆け引きは通用しない。アメリカはやる気だけは満々だ。
 ……といっても、まだその段階ではないが。

 イギリスは粘着質でしつこいところがある。故に一度ヘソを曲げると延々と恨みを持ち続ける。最悪200年くらいは。
 身を持って知っているアメリカはイギリスを怒らせるのが恐くて、強引には出られない。
 力はアメリカの方が上なので、抱くだけなら簡単なのだが、アメリカが欲しいのは金や力では手に入らないものなのだ。
 無理矢理ヤってしまったらイギリスがどんな誤解をするか、想像に難くない。
 千年かけて築いたネガティブ精神は伊達ではない。裏切りと孤独という土壌に大量の血が注がれて育った大木がグレートブリテンだ。

「宗主国を組み敷きたかっただけだろう」
「女の代わりに遊んでみたかっただけか。玩ぶのは楽しかったか?」
「屈辱を与えるにはこれ以上はねえ仕打ちだ。……お前は最低だ」

 ……容易く想像できてしまうイギリスの対応に、普段は無礼強引でも恋愛にはチキンなアメリカは二の足を踏んでいる。

 愛があるから強引に踏み込みたいが、愛してるから誤解されたくない。
 心ごと抱き締めたいのだと言ったらイギリスは信じるだろうか。……信じないからアメリカはイギリスの周りをウロウロするだけで何もできない。
 アメリカの愛しい人は猜疑心の塊で、イギリスのネガティブマインドを作った経緯にアメリカも関与しているのだから、因果応報とはよくいったものだ。






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