1/9インテ/無料配布ペーパー

 愛 の 酸 化 (not讃歌)







    【01



 イギリスが好きで好きで好きで好きでどうしようもなく愛しているのに全然イギリスに気持ちが通じないどころか嫌われていると思われていて、でも諦められないのでどうにかイギリスとの距離を縮めようと頑張ってアピールしているのにちっともイギリスには通じなくてそれどころか逆に怒らせたり泣かせたり悲しませたり誤解されたりし続けて(後からフラグクラッシャーという言葉が造語された、らしい)いい加減疲れていたのかもしれない。
 イギリスが好きなのは本当で、独立して敵対しても、距離を置いても置かれても、誤解されても仲違いしても、諦めようと努力しても、何をやってもイギリスが好きというスタンスは変えられなかった。
 いっそ呪われている方がまだマシだった。
 呪い、ならばイギリスの得意芸なので他人のせいにできるのだが、オレの気持ちは呪いの産物じゃないのでどう考えたって全部自分のせいだ。
 刷り込みって恐いというより、始末が悪い、手に負えない。
 泣いているイギリスに絆されて大好きになって親や兄弟と慕い、色々な事が見えてくると性格歪なあの人がうざったくなって、自立心芽生えて反抗期迎えてあの人に銃を向けて、ああこれでようやく開放されると悲哀と奮起の両方を持って生まれ変わった気分になったのに、気がつくと『イギリスが大好き』という中身が変わっていない事に気がついて愕然とした。
 イギリスの束縛を逃れたくて、銃を向けてまで独立したのに、イギリスの支配から逃れたどころか、心の奥が支配されたままでいる事に気がついて、悔しかった。
 独立宣言して開放されたのだ。オレはイギリスに勝ったのだ。あの強い人から開放されたのだ。
 イギリスという親から独り立ちしたつもりだった。独りで歩いているつもりだった。なのに。
 つもりばかりでイギリスへ依存していた時と変わらない執着心をイギリスに対して抱え続けていると自覚した時には、呻いて頭を抱えるしかなかった。
 ママンの支配力は半端じゃないらしい。生みの親じゃなくても親は親。子供にとっては絶対の存在。人間じゃないのに人間と同じく『母親』を切りすてる事ができない。
 イギリスはオレのママじゃないと宣言しても、自分自身で認めちゃってたらどうしようもない。
 オレは『国』であって人間じゃないので親に縛られるはずがない。
 なのに、イギリスを恋い慕う気持ちは独立戦争後も消えなくて、心をイギリスに預けたままという事が悔しかった。
 イギリス。オレのママン。兄であり、親であり……。
 ただの他人のはずだった。だから銃を向けたのだ。
 確かにオレのルーツはイギリスやフランスやその他だが、オレという『国』はこの広い大地にひとりだけ。兄弟と呼んでいいのはカナダだけだ。他は………油断できない外交相手でしかない。
 オレの支配や利益を狙って側にいる者達。そんな中でイギリスだけが違った。
 あの人がオレを大事にするのは、オレから得られる利益目的もあっただろうが、それと同じくらいオレ自身の事も大事にしていて、兄弟に恵まれなかった過去をやり直すようにオレに優しく接した。
 こっちが望んでいないものを与えられたり、色々空回りして痛い空気になった事もあるが、イギリスが優しかったのは本当だ。
 オレがイギリスを好きでいる事が止められないのは、そういったイギリスの与えてくれた有象無象の優しさが一因だと思う。
 本気の愛情を与えられたオレは、心からイギリスを慕った。
 独立してイギリスとの縁を一旦清算しようと決めた頃には、イギリスへの気持ちは冷めていた。だから平気でイギリスに銃を向けられたのだ。
 ……いや、本当は平気じゃなかったのだが。平気だと思いこまなければ大好きだった人を攻撃できない。
 自分に言い聞かせてイギリスを裏切った。
 独立戦争後のイギリスの嘆きっぷりをフランスから聞かされても良心は痛まなかったが、荒れたイギリスが荒廃して性的ご乱行をくり返していると聞かされた時は脳が沸騰するかと思った。
 こっちはようやく思春期を抜け出した青年だったわけで、初恋の相手兼、育ての親が自分の知らない所で知らない顔を他人に大盤振る舞いして大事な身体を痛めつけていると聞いて、平静でいられるわけがない。
 だがオレには口を出す権利はなかった。イギリスをそういう風に追い込んだのは他ならぬオレ自身だったからだ。
 自業自得だとフランスは言った。独立戦争に手を貸して共にイギリスを傷つけたくせに、イギリスが壊れるのが嫌らしい。腐れ縁というのはよく分らない。そんなに大事なら傷つけなければいいのに。的確にイギリスの急所を突くくせに、中途半端な情を見せる。自分で傷つけておいて、見捨てず手当し見舞いもするのだから、何がしたいのか分らない。玩びたいだけか。
 軽薄に見えて狡猾なフランスだったら、情に脆いイギリスを陥落させ手玉にとる事だってできるだろうに、何故かそうしない。独立戦争の手助けでさえ、本当の所はイギリスへの嫌がらせなのだから始末が悪い。



 フランスから聞かされるイギリスの様子が気になって、オレは我慢できずにイギリスとコンタクトを取ろうとした。
 あの頃は電話なんてないから通信手段は手紙だけで、連絡は人の手を介さなければならない。
 独立してママンを嘆かせた息子からの手紙をイギリス人達が素直に祖国に手渡すわけがない。
 手紙はイギリスにバレないように検閲され、それからイギリスの手元に渡る。
 イギリス人たちにとって『イギリス』は大事な祖国だから、イギリスを傷つけるような人物からの手紙なんて本当は渡したくなくて、しかし手を切れない大事な貿易相手のアメリカを完全排除する事もできず、渋々アメリカとのコンタクトをとる事を許している……というような状況だった。
 そんな風に邪魔者扱いされながらもイギリスと縁を切らなかったのが、結局オレの弱さなのだろう。
 以前は認められなかったが、今なら認められそうな気がする。
 斜陽になってもイギリスには権力の土台がある。対等につき合っていかなければならない相手だ。……という建前を口にしながらイギリスと会う機会を作った。 
 会いたくないとアメリカが望めばその通りになったかもしれないが(何故なら初めはイギリスの方が会いたがらなかったから。アメリカに嫌われていると思い込み荒んでいた)アメリカは鈍感を装ってイギリスとの縁を切らなかった。
 そんなアメリカの稚気はフランス辺りにはバレバレで
『そんなに好きならなんで独立したのママン泣かせてバカじゃないのこれだからガキは』と言われてしまった。
 しかし独立しなければアメリカはイギリスの弟のポジションから抜けだせず、一人の男にはなれなかった。
 他国に認めてもらうにはイギリスからの脱却が必用不可欠だったのだ。
 オレは今やイギリスも無視できない大国に伸し上がった……いや、世界ナンバーワンになったのだが、それでもやっぱりイギリスが好き、という感情は消せず、消せない自分に腹が立って、アメリカの気持ちに全然気付かないイギリスにもムカッ腹が立って、そんなガキくさい心情がフランスにバレバレなのも腹立たしく、何もかも見透かす日本の『アメリカさんはお若いから』的、年長者上から目線もムカついて、国際会議での提案も古参のヨーロッパ勢に軒並み却下され、つまりムカついて怒って気分は最悪で、イギリスの前では感情を制御してこなかったから今回も制御できず、好きで好きで好きでたまらない恋情と、独占欲と、大事な者が思い通りにならない苛立ちとかがミックスされ過剰反応を引き起こし……理性を崩壊させた。
 つまりはイギリスを抱いた。突っ込んだ。
 オレが悪いんじゃないと言いたいが、百%オレが悪い。
 たとえイギリスが例の防御力ゼロの戦闘服姿で酔っ払って無防備だろうと、裸エプロンがめくれてキュートな臀部が剥き出しになっていようと、いっそ素っ裸の方がエロくないというくらいチラ見えが生々しかろうと、イギリスが『アメリカ〜』と甘えた口調でしなだれかかってこようと、オレを見上げて無防備な笑顔を見せようと、ピンクの乳首が立っていようと、理性を崩してはいけなかった。
 了承のない性交は全部レイプ、OK?
 イギリス式戦闘服。別名裸エプロン、あれはいけない。まるきりセックス推奨スタイル。あれで襲うなという方が無理だ。
 イギリスの顔を机に押し付けて両足の間にこっちの足を挟み逃げられないようにして、擦らずともギンギンだった息子をイギリスのちっちゃなすぼまりにインサートした。
 初めはなかなか入らなかったが、イギリスの持参したスコーンにつけるクリームをジェル代わりにして押し込むと、強い抵抗感と共に中に入れた。
 当然イギリスは抵抗した……痛みと驚愕で。
 イギリスはオレの顔を見てもどうしてもレイプされているって認めたがらなかった。意図的に忘れようとした。実際ヤッているのだから無理なのに。
 イギリスはオレに甘いから、オレが誠心誠意謝罪すれば最終的にはオレを許すだろう。
 しかしオレはそんな許しは欲しく無かった。
 欲しいのはイギリスの本気の感情だ。
 家族へ向ける愛情から、恋愛感情へ。イギリスを恋人にしたい。だって愛してる。二百年前から変わらず。