モラトリアム
第参幕


第一章

#0.5
◇エドワード15歳◇



 幸せになりたい。
 そう願っているのに、どうしたら幸福になれるか判らない。
 いいや。優先されるのは自分ではない。
 自分が守るべき者達の幸福が先だ。
 彼らを守ってこそエドワードの幸福は成り立つ。
 かあさん、アルフォンス。……大事な母と弟。
 大切な事は分かっている。自分がすべき事も分っている。
 分かっていながら、自分の行く先が見えずに戸惑っている。
 恐怖しているといってもいい。正直怖い。
 エドワードの知る未来は十五歳で止まっている。
 それから先は濃霧の向こう側にある。
 エドワードは今霧の中を歩いている。先が見えない。どちらに行けばいいか分らない。
 分らないが、前に進み続ければどこかに辿り着く。
 エドワードは立ち止まる事ができない。
 なぜなら背後の道はもう断たれている。
 エドワードの道は前にしかない。だから進むしかない。行き着く先が、例え道なき断崖絶壁でも、エドワードは進み続けるしかない。
 エドワードは何故自分が前に進んでいるのか判らない。
 迷ったのなら立ち止まって何もしない事も選択肢の一つだ。
 だが足を止める事は怖い。
 間に合わないかもしれない、その事が怖い。自分にできる事があるのに何もせずに終わる事が怖い。
 怖くて、怖くて。
 エドワードは足を止める事ができない。
 そんなエドワードの背を心配そうに見ているいくつもの目がある事にも気付かず、エドワードは歩き続ける。
 自分が孤独だと信じて。
 足の下がイバラの道だと思い込み。
 自分が不幸と思わず、知らず、絶望と希望を両手に携えて。

 エドワードの目の前は霧の道。
 エドワードの行き着く先にあるものは…………未だ見えず。