第二章
ロイとウィンリィはエドワードを通して会った事がある。
今ウィンリィの相手をしている暇はないのだが、虫の知らせかなんとなくというか、ロイはウィンリィと話してみたくなったのだ。
エドワードは行方不明の父親を自力で見つけだし故郷に連れ帰ったのだが、その辺の事をあまり話したがらず、ロイはエドワードの家族の話を聞きたかった。
レストランでは奥の目立たない席に座り、三人はそれぞれ注文した後、会話を楽しんだ。
「ウィンリィ嬢はどうしてダブリスに?」
「ウィンリィで結構です、マスタング大佐」
「今はプライベートな時間なので大佐はやめてくれ。プライベートとはいっても実は仕事絡みでこちらに来ているので、軍人とは知られたくない。ロイと呼んでくれ」
「あ、やっぱりお仕事なんですか。じゃあロイさんと呼ばせてもらいます」
ホークアイと一緒だったのでデートかと思ったのだがホークアイの表情はごく真面目で、たしかに恋人達の旅行とは違うようだ。
仕事の内容は知らないが、軍人て本当に多忙だとウィンリィは感嘆した。エドワードが帰ってこないわけだ。
「休みの日までお仕事なんて大変なんですね」
「仕事なんて真面目にやればいくらでも沸いてくる。特に今は移動前で忙しいんだ」
「移動されるんですか?」
「今度セントラルに転勤になった」
「へえ…」
「鋼のから聞いてないか?」
「全然。エドは仕事の事は何も話してくれないから」
「鋼のらしい。……そういえば鋼のの父親が見付かったのだろう? 故郷に連れ帰ったと聞いた。ウィンリィ嬢は鋼のの父親の事を知っているんだろう?」
「ええ勿論。お隣だし会いましたよ。背の高い恰好良いおじさんなんですよね。エドに似てなくて」
「似てないのか?」
「顔立ちは似てるんですけど、背の高さは全然。そこだけ母親似みたいです」
クスクスと笑うウィンリィの様子にエドワードの家族はうまくいっているのだと推測できた。
「鋼のも折角の家族団欒なのだからもっと家族サービスすればいいものを、早々にセントラルに戻って来るし。鋼のは家族とうまくいっているのかね? どうもあの子は父親が嫌いらしいが」
「エドの家族はみんな仲が良いですよ。まあ、エドがおじさんに反発する気持ちも分かりますけれど。十年も放っておくなんてちょっと酷いですよね。……でもエド以外の家族は素直に喜んでましたけど」
「そうか」
「それにエドは家族サービスはしませんでしたが、兄弟と幼なじみにはサービスしてくれましたよ」
「ほう? 何か貰ったのか?」
「ええ、旅行をプレゼントしてくれたんです」
「旅行を? どういう事だい?」
「うふふ。実は……」
ウィンリィはエドワードがラッシュバレーの旅行費用を出してくれた事を話した。
「……じゃあ君はラッシュバレーからの帰りなのか」
「はい。エドは仕事でとんぼがえりしたし、アルも先に故郷に戻って、私は知り合いになった機械鎧技師の紹介でしばらくラッシュバレーの工房にいたんです」
「そうか、君は機械鎧技師なのか……」
「はい。だからエドがラッシュバレーに連れていってくれてとても嬉しかったんです」
ウィンリィの楽しげな様子にロイは釈然としない気持ちになる。
エドワードはリゼンブールからまっすぐセントラルに来たのではなかった。
エドワードは寄り道した事をロイに言わなかった。
別にエドワードがラッシュバレーに寄り道したからといって咎められる事は何もないのだが、エドワードらしくない行動だと思った。
故郷にいて家族サービスをするなら分かる。
だがわざわざラッシュバレーに来た理由はなんだ?
エドワードは友人とラッシュバレーで待ち合わせしたと聞いたが、エドワードにわざわざ待ち合わせて会うような友達がいるとは聞いていない。
「鋼のがラッシュバレーに寄っていたとは初耳だな。まあプライベートをいちいち報告する義務はないが、その後すぐにセントラルで会ったのだから一言くらい言っても良さそうなものだが。……もしかして会っていた相手は女性とか?」
ウィンリィにカマをかけてみる。ウィンリィは特に口止めされていないようだからエドワードの行動の詳しい様子が聞けると思ったのだ。
「いいえ、男の人……というより男の子でした。ちょっと変わった感じの」
「変わった感じ?」
「ええ。全身鎧姿だったんです。二メートル以上もある大きな。一見すると大男みたいなんですけど、声はまだ変声期前で小さな子供みたいでした。十四歳と言ってましたけど、それにしては身体は大きいし声は幼いし全体がちぐはぐな様子で、すごく変わってる子でした」
「それは……確かに変わっている。というか変わっているどころの話じゃないぞ。明らかに変だと思うがそうは思わなかったのか?」
ウィンリィの言葉にロイはなんだそれは? と思った。ウィンリィが言ったのでなければ冗談かと思ったが、ウィンリィは笑いながらも口調は真面目だし嘘をつく理由がない。
「確かに初めて会った時には驚きました。でも性格は良さそうな感じだったし、病気だと言っていたから変だと言うのは失礼かと思って」
「病気?」
「日光に当たれない病だと言ってました。私も医者の娘なのでそういう病気があるのは知ってます」
「そうか……それで……」
ロイも医学は詳しくないがそういう病気がある事は知っている。直射日光が死に至る病は確かにある。全身鎧姿でもそれならばおかしくはない。しかし。
「鎧姿なんて重いしそれにこの気候では暑いだろうに。鋼のも友人ならもっと楽な恰好を考えてやればいいのにな」
「そういえばそうですね。でもアイツ趣味悪いから」
エドワードの好みが一般的でない事を知っている幼なじみは、エドワードに作らせたらきっと変な物ができあがるからと笑う。
「鋼のはイーストシティでもあまり友人というものを作うとしないが、ウィンリィ嬢と同じようにリゼンブール時代からの友達なのかな?」
「セントラルで知り合った錬金術師仲間だって言ってましたよ。それ聞いて、アルがヤキモチ妬いちゃって」
「錬金術師仲間? セントラルで知り合ったのかね?」
「ええ。しかもなんと名前まで一緒なんです」
「その子もエドワードという名前なのか?」
エドワードという名前はこの国ではそう珍しい名ではない。
「いいえ違います。その少年の名前はアルフォンスっていうんです。アルフォンス・トリンガム。エドの弟と同じ名前なんです」
「アルフォンス? その子の名前はアルフォンスと言うのかい?」
「はい。アルと同じ名前だから、一回で覚えちゃいました」
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