第1.5章
数日前。
「アル〜どーしよー」
「どうしたの、兄さん?」
「大佐にバレた」
「え?」
「…というかバレそう」
「バレそうって…どの辺が?」
「大佐はオレ達が誘拐犯じゃないかって疑っている」
「なんで? 疑われるような証拠は何も残してない筈だよ?」
「実は……セントラルに来る前、それらしい事を匂わせちゃった」
「……ええっ? 本当なの兄さん? なんでそんな…」
「いやあ。大佐ってやっぱり鋭いぜ。迂闊な事言えねえな」
「ちょっと! 兄さん一体何を言ったのさ?」
「ははは……」
エドワードはロイに疑いを抱かれる事になった経緯を説明した。
「……呆れた」
「うっ……」
弟の冷たい視線にエドワードは身体を小さく縮める。
「これだけ慎重に動いているのに兄さんがやらなくていいポカしてどうすんのさ? 信じられない」
「……すいません」
「どうして兄さんてツメが甘いのさ。大佐にそんな事言ったら疑惑の材料を与えるようなもんだろ。なんでそう考え無しなのかな? 本当はバカなの、兄さん?」
「いや…つい」
「つい、じゃないでしょ!」
「……はい」
「どうするの? 大佐は鋭いから兄さんに注目したよ。ヒューズ中佐にも伝わるかもしれない。二人に睨まれたら今後動きにくくなる」
「あの二人の事だから外には洩らさないと思うぜ。調べるんなら自分達で地道にやるだろ。真実に行き着いても、その頃はもう最終段階だ。全部バラしても大丈夫だ」
「楽観的に言わないでよ。もっと早く証拠を掴まれたらどうするのさ? 今、軍に拘束されるわけにはいかないんだよ?」
「だ、大丈夫だ……たぶん。大佐も中佐も忙しいからすぐには動けない」
「二人が動かなくても部下を動かすかもしれないよ? 後をつけられたりしたら厄介だ」
「うーん」
「唸ってないで対応策を考えて。いっその事、誘拐はもう止める? 目的は果たしたし、これ以上は必要ないでしょ?」
「だがエリシアが最後というのは不味い。あともう一度やって関係性をうやむやにして誤魔化したい」
「そうだねえ。やっぱりやるしかないか。……でも正直警護が厳しくて子供を攫うのも大変なんだけど」
「それを何とかするのがアルの手腕だろ。頑張れ」
「そんな手腕磨いても一文の得にもならないよ。犯罪スキルなんか磨きたくないよ」
「手伝ってやれなくて悪い」
「兄さんは兄さんで用心しなきゃならないからしょうがないよ。……あと少しだ。頑張ろう」
「おお」
「……でも兄さんがポカミスした事は忘れないよ。この減点は後で請求するからね」
「アルフォンス……」
エドワードはガックリと肩を落とした。
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