命に つく
     名前 を 『心』と
            呼ぶ



第七章



#24



 アルフォンス・エルリックの活躍はエドワードの耳にも届いていた。
 エドワードのように派手でないが、確実な作戦と冷静な判断力は高く評価されているという事だ。新人とは思えない経験を感じさせる仕事ぶりに、流石は鋼の錬金術師の弟だと評判は高い。
 堅実で忍耐強い性格のアルフォンスは若いながらも部下に一目置かれ、仕事は中々順調だということだ。
 エドワードが情報を集めなくてもロイが電話で勝手に話しかけてくる。別に聞きたくはないのだが、兄が弟の近況を知らないのはおかしいと一方的に話されて電話が終わる。ヒューズの娘自慢ではないのだから止めて欲しい。
 逆にエドワードの近況は表面上は大人しい。
 停戦で一応西方の平和は保たれているが、それは表面上だけだ。相変わらずゲリラやテロリスト達の活動は活発だし、スパイは横行して情報戦が激化するし、仕事が減らないのに人員を北に持って行かれるしで、エドワードの激務は戦場にいたときと変わらない。
 ドンパチやっている方が楽だとエドワードがロイに愚痴をこぼせば、私もやってきた事だよキミに出来ない筈がない、と笑い飛ばされ面白くない。
 毎日仕事をこなしながら自分は何をやっているのだろうと、自問自答すらしてしまう。
 戦争という体感ゲームがないと生きている気がしない。
 エドワードの心の中はごっそり穴が空いているので、生きている事をリアルに感じられる実体験がないと途端に色を失うのだ。
 こうなったら大総統の地位でも目指して権謀術数の限りでもつくそうかと、暇な時間に黒い事を考えてしまう。出世には興味ないがゲームだと考えるとそれなりに楽しめそうだ。ロイというライバルもいる事だし、駆け引き合戦の日々も悪くはない。
 それともいっそテロリストか何かに転向して、アメストリスを地獄に叩き込もうか。エドワードの力と賢者の石があればこの国を滅ぼす事も可能だ。
 だがそうなると鬱陶しい弟が自分の元にやってきそうだし……。

 エドワードはこの間、アルフォンスから電話をもらった。盗聴されないように公衆電話を使っての会話だった。
「ねえ兄さん。……ボク一度兄さんに会いたい。会って見せたいものがあるんだ。大佐と兄さんと三人で会いたい。……お願い。時間を作って欲しいんだ」
 二人きりで会ってと言われたら承諾しなかっただろうが、ロイと三人でと言われたので何かあるのだと察した。
 アルフォンスと最後に会ってから一年半が過ぎていた。
 あれからすぐにアメストリスとドラクマは開戦し、以後顔を会わせていない。
 アルフォンスは北方で頑張っているし、エドワードも日々忙しい。アルフォンスも成人して兄離れしたのだ。
 それにしてもアルフォンスが今更エドワードに会って何をするのというのか。少しだけ興味が湧く。
 タイミングも丁度良かった。
 エドワードは忙しいのに退屈しているという矛盾の中にいて、ロクな事を考えていない。
 アルフォンスが何を企んでいるのかは知らないが、何かがありそうだと興味を引いた。
 ロイが言っていたがアルフォンスの北方行きは本人のたっての希望だったらしい。人を殺した事のない甘ちゃんのアルフォンスが開戦直前の北方に好んで行くとは驚きだが、かつてのエドワードのように賢者の石を作ろうと考えていればそれも判る。
 だがアルフォンスはエドワードの作った賢者の石を持って行った。賢者の石はもうある。作る必要はない筈だ。
 ならば何故アルフォンスは北に行ったのだろう?
 自分を汚したかった…などとセンチメンタルな事でも考えたのだろうか?
 アルフォンスならありえる気がして、エドワードは苦笑した。
 優しくて弱くて純粋で残酷で子供なアルフォンス。二度と会いたくないと何度も思ったが、久しぶりに会ってみるのも面白そうだと、エドワードはロイの自宅に向けて受話器を外した。