命につく名前を「心」と呼ぶ
最終章・肆
風呂から出ると、兄さんはベッドに寝転がって賢者の石を眺めていた。
「石は無くさないようにちゃんとしまっておいて。盗まれないように肌身離さず持っているんだよ」
ボクが言うと兄さんがふくれる。
「アル……オマエ本当にオレの事年下扱いしてないか? いつのまにそんな生意気な口きくようになったんだよ」
「そう? 兄さんて強くて恰好良いのに子供みたいなところがあるから、つい口を出したくなるんだ」
ベッドに腰掛けると、キシッとベッドが鳴る。その音に兄さんの背が緊張した。
「……何だかアルがアルじゃなく、大人みたいだ」
「ボクはボクだよ。兄さんを愛するただ一人の男だ。そうして兄さんの伴侶でもある。その覚悟がボクを変えた。…こんなボクはイヤ? 子供っぽい方が良かった?」
「バカな事言ってんじゃねえ。アルならどんなアルでもいい。オマエこそオレの愛をみくびってんのかよ」
「みくびってないよ。兄さんがボクヘの愛を無くすなんて考えた事もない。そんなの…あっちゃいけない事だ」
「安心しろ。何があろうとオレが愛するのはオマエだけだ。アルフォンスがオレの全てだ」
「ボクの全ては兄さんだよ。…誓ったでしょう?」
「ああ……互いにな」
兄さんの上に覆い被さると、兄さんは更に身体が硬くした。かなり緊張しているみたいだ。
「兄さん。……リラックスして。緊張するのは判るけど、ちゃんとボクが何をしているのか感じて」
「アル……オマエ随分余裕だな。まるで……経験者みたいだ」
兄さんの髪を指に絡ませる。シルクみたいだ。
「……何バカな事言ってんのさ。……ボクのこの心臓の音、聞こえない? 兄さんと同じでドキドキしている」
兄さんが身体を起こしてボクの胸に触る。
「……本当だ……アルの心臓の音……凄く早い」
「緊張しないわけないじゃないか。兄さんとの初めてなのに、冷静になれるわけがない」
「アル…………あの…………」
兄さんの瞳が陰る。
「なに、兄さん?」
「……ゴメンな」
「何で謝るの?」
「だって……オマエ、これからオレしか知らないじゃないか。折角人の身体に戻れたのに、女の子とも付き合わないで……こんな固い身体の男しか知らないなんて…。オレじゃ満足させてやれないかもしれないのに」
「そんな今更な事……。兄さんとそい遂げると決めた時からそんなの判りきっていたじゃないか。兄さんこそいいの、ボクしか知らないで? ボクは兄さんの浮気を絶対に許さないよ?」
「バーカ。オレはオマエ以外に興味なんかない」
「始めに言っておくけど、兄さんが浮気したら、ボクもするよ。等価交換だからね」
兄さんが焦る。
「な……アル、オレは浮気なんてしないって。オマエこそ浮気すんな」
「さてね、兄さん次第だ。兄さんがもし少しでも心を他に動かしたら、どうなるか判らないよ?」
「動かすわけねえだろ」
「ボクに誓って」
「誓うよ、アルフォンスに」
「ボクも誓う。兄さん以外はいらないと」
兄さんの唇の上でキスを弾ませながらシャツの下に手を伸ばすと、兄さんが「ア……アル……」と何か言いかけたので、唇を離す。
「なに? ……兄さん」
「もしかして……オマエがオレを抱くの?」
少しだけ興を削がれる。
「今更な事言わないで。ボクが抱くって前に兄さんに言ったでしょう? 不服なの?」
「……いや、そうじゃないが……」
「丁寧に扱うから、兄さんはただ感じてくれればいいよ」
「わ、判った」
間近で兄さんを見ると、兄さんのマツゲの一本一本まで詳細に判った。見慣れている筈なのに新鮮だ。
瞳の表面が濡れて見えるのはボクに感じているからなのか、動揺しているからなのか。
石鹸の良い匂いのする肌を触って、唇を落とす。兄さんの身体は予想よりも柔らかくて弾力があって驚いた。流石に女の人とは違うし鍛えているからそれなりに引き締まっているけれど、成長期過程の兄さんの身体はまだ子供仕様で、きめ細かく滑らかだ。
兄の身体の構造は目を瞑っても判る程知り尽していると思ってたのに、実際に触れた身体は他の誰とも違い、ボクを感動させた。
触れる度に小さく漏れる声が刺激となって鼓膜を打つ。
「兄さん……」
胸にキスを落としながらシャツを剥ぐ。ボクも勢いでズボンと下着をとった。
「アル……それ……」
ボクの屹立したモノを見て、兄さんが戸惑っている。斜め上を向いたソレは固く熱い。身体は正直だ。兄さんを欲していた。
兄さんの視線がそこから離れない。
「アルのそれ……なんかデカくねえ?」
「身体の大きさに比例してるんだよ」
「なんか……ズルイ。オマエばっか……」
「兄さんだって、ほら……」
兄の脚の間に手をやれば兄のも熱くなっている。
下着を一気に剥ぐと、元気のいいものが飛び出して見えた。
「兄さんも感じてるじゃないか」
「ア……」
触って欲しそうに天を向いているソレを、上下にゆっくりとあやすように撫でる。
こういう目的で兄さんのを触ったのは初めてなので、興奮する。自分でするより気持ちがいいと感じて欲しい。
「ねえ……気持ちがいい?」
「……ふっ…………んんっ……いい……」
「そう、いいんだね。じゃあもっといっぱい兄さんに触っても大丈夫そうだね」
「……っアル……」
兄さんの腹は平らでスベスベしていて温かい。触れあう感触が心地良く、したい事をした。お腹の上を舐めて、吸って、軽く噛む。一度この柔らかい腹を思いきり触ってみたかった。
歯を立てる度に兄さんの声が挙がる。跳ね上がる腰を押さえる。ついでに手で脇と脚を擦ると兄さんがボクの下で身悶えた。
感じているのだ。嬉しくなって夢中で肌に吸い付く。
「…アル……イヤ…ふぁ……ああ…………アル……」
嬌声をあげながらボクを呼ぶ兄さん。
感じている身体を自分の身体で押さえ込んで、舌を舐め下ろす。中心を外し太股を甘噛みしながら脚を開かせて、身体を間に入れた。
立ち上がったものにワザと触れずに、股の内側を噛んで吸ってと繰り返す。
ボクの目の前に兄さんの欲望がある。
兄さんの棹の先端からはトロリと蜜が流れ落ちて、下腹を湿らしていた。お菓子のように甘そうなそれに魅入られた。口に入れたい衝動を抑え、視線で楽しんだ。
更に脚を開かせながら股を噛んで歯形をつけた。内股はとくに柔らかい。
恥ずかしい恰好に兄さんが脚を閉じようとするが、両手で兄の脚を押さえて開かせる。真っ白な内側の肌にボクの吸ったアトが残る。その所有の印に興奮して、また歯を立てた。
「……っ。……アル、なに……」
「ゴメン……痛かった?」
歯形の上を強く吸うと赤く斑点ができる。兄さんの柔らかい肌にボクのアトが増えていく。
自分では絶対に付けられない場所へのサインに満足すると、はしたなく涎を垂らしている欲望ではなく、兄さんの右腕の機械鎧の付け根に触れる。
金属と肉体のジョイント部分は異質で、今は痛みがないと判っていても痛々しかった。この皮膚の下に金属が埋まっているのかと思うと可哀想でたまらない。兄が手術とリパビリでどんなに苦しんだか知っている。この空いた右手と引き合えに今の自分がいる。
この腕に値する物を自分は兄に返せるだろうか?
あらためてこの人を守りたいと思った。
|