永
|
遠
|
モ
|
ム
|
 |
ラ
|
ア
|
リ
|
ト
|
「止まった……」
列車は止まった。だが外を見て、エドワードは再び緊張した。
列車の前半分はもう橋の上に乗っている。
「ほうら、ボウズ。何ともないだろ」
エドワードに、というより自分を安心させるように機関士が言った。
確かに何事も起こらなかった。橋が爆破される様子もないし、空気は穏やかだ。
だが。
「汽車を後退させて」
孕む空気はどこか違和感があった。エドワードの知る歴史では確かに列車は崖から落ちたのだ。
「おいボウズ。やっぱり何事もないじゃないか」
「後退するんだ。橋の上にいちゃいけない」
「何ともないぞ。またこのまま走らせるぞ」
「駄目だ!」
エドワードは叫んだ。
確かに何も起こらない。何所も爆破されないし、その気配もない。
「絶対前進させるなよ」
言ってエドワードは再び車外に出た。屋根に昇って前と後ろを見る。下は谷で、その高さに見るとくらくらする。背後には作業をしてた軍人達が、何故列車が止まったのかとこちらを見ている。乗客達も窓を開けて外の様子を窺っている。
おかしい。何故何も起こらない?
もしかして橋ではなく、列車に爆弾がしかけられているのか? それとも日付けが違うのか? この列車じゃなく次の汽車なのか?
その時。
何かの音を聞いた。
気になったので耳を澄ます。
キシッ。
「おい、ボウズ。そんな所に登っちゃ危ないぞ!」
「ちょっと黙って!」
窓から怒鳴る男に怒鳴り返し、エドワードは耳を澄ませた。
何も聞こえない。さっきの音は気のせいだったのだろうか?
「ボウズ、なにしてんだ?」
エドワードは下を覗き込んだ。ここからではよく見えないが、線路にも橋にも異常はなさそうだ。
ミシッ。
また音が聞こえた。
何の音だ?
イヤな感じのする音だった。本能がビリビリと警戒を発している。
エドワードは飛び下りると、汽車の前に出た。屈んでレールを触る。
線路は隙間が空いており、谷底が見えた。足を滑らせればまっ逆さまなので慎重に屈んで橋桁を見回す。
ミシッ。
下の方から音がする。何故?
エドワードは立ち上がった。段々顔から血の気が引いてくる。
ミシッ、ミシッ、ミシッ。
軋む音。
下から橋が軋んでいる。
まさか。
エドワードは背後を振り返った。窓から身を乗り出した機関士と目が合う。
「ボウズ、どうした?」
エドワードの顔は歪んでいたのだろう。
「……ヤバい」
「どうした?」
「列車を後退させろ! 橋が落ちる」
エドワードは怒鳴ったが、状況が判らない男達はエドワードを見て首を傾げている。
「そんな所にいちゃ危ないぞ。早く上がってこい」
「早く! 橋が列車の重みで壊れる!」
「何だって? 本当か? ……ちょっと待て」
車掌の一人が慎重に線路に降りてきた。
「音が聞こえるだろう。橋が軋んでいる。もうすぐ橋が壊れる。早く汽車を後退させろ!」
男の耳にもミシミシと軋む音が聞こえたようだ。エドワードと同じように顔が青ざめる。
「わ、判った。ボウズも早く戻れ。……おい、橋が壊れそうだ! 列車を後退させろ!」
必死な顔で怒鳴った仲間に行動は早かった。慎重に列車は後退し始めた。
「早く戻るんだ」
車掌とエドワードが汽車に戻ろうとした時。
ミシミシミシッーーーー!
音と共に線路がたわんだ。
エドワードと車掌は身体のバランスを崩した。
「うわっ!」
乗務員は慌てて汽車に掴まったが、身長の足らないエドワードは汽車を掴み損ね、屈んで線路に掴まる。
「ボウズ!」
「大丈夫! 早く汽車を戻して!」
|