わたしの彼氏は男前
の親友も男前
02
セイバーからの突然のプレゼントにわけが分からず戸惑う雁夜。
「……セイバーなにそれ。セイバー、雁夜に何買ってきたの?」
好奇心につられてウェイバーが紙袋に注目する。
「えっと…? なにこれ?」
雁夜はセイバーから手渡された小さめの紙袋を反射的に受け取って中を見る。
袋は駅前のドラッグストアのものだが、中身は何だろうそれにしてもセイバーからプレゼントを貰う理由はないんだが誕生日はまだ先だし……と思っていたら。
「?……??? !!!!!!!」
雁夜は慌てて紙袋を閉じた。
今見たものが幻ではない事を確認し、反射的にマジ切れる。
「せ、せ、セイバーぁぁぁぁぁ! なんでこんなものをっ!」
雁夜の問い(怒鳴り声)に、セイバーは煌めく星が光るがごとく好意全開、魅力大な笑顔で告げた。
「我が朋友ランスロットに聞きました。二人のつき合いは順当だけれど、雁夜の身体は華奢で脆く、愛しあう時に慎重に扱わないとすぐに出血すると。まるで毎回処女のごと……げふんげふん。部下の失態は上司の失態です。ランスロットの無茶は代わってわたしがお詫びします」
「……うおあええええええっ?」
「その薬が雁夜の身体に合えばいいのですが。もし市販の薬が効果ないのなら一緒に医者に行きましょう。御同行します」
「王よ。それは私の役目です。雁夜はわたしの恋人なのですから」
美しい主従関係。
しかし話している内容は…。
「それもそうだな。だが雁夜は恥ずかしがりやだ。恋人と肛門科に行くのはきっと嫌がると思う。その点わたしは女だ。わたしが雁夜に突っ込んだとはさすがに周囲も思うまい」
「なるほど。御明察です。王よ。しかしわたしは周囲にバレても一向に構いません」
「雁夜は構うと思うが」
「わたしの恋人は恥ずかしがりやですからね。しかし慣れてもらわねば困ります。わたしの恋人だという事実に」
「ランスロットは雁夜を守るのだな?」
「身命に代えましても」
「ならば良い」
(よ・く・な・い! 何が明察? わけ分かんないんだけど。肛門科ってなに? おまえら爆発しろっ!)
「ちょととまてえええええええっ!」
「なんでしょう雁夜」
「ほらほら雁夜。食事途中でそんな大声を出すと消化に悪いですよ」
いつでも凛々しく清々しいセイバーと優しい目で雁夜に接する恋人ランスロットに構われても、雁夜は照れるどころか焦った。
というかこの主従何か変。絶対変!
「ちょ、ちょっと、ちょっと待って…。わ、ワケが分からない。どうしてセイバーがこんなのをオレに寄越して、いや、寄越す理由は聞いた。ランスロットだな。あいつが余計な事をポロッと漏らしたのか。ランスロットはあとで殴るとして、セイバー。……あの。ええと……。心配してくれるのはありがたいけど……オレは平気だから。だからそういう事を悪びれなく言わないで欲しいというか……羞恥で死ねるお願い止めてよして言わないで頼むから。聞かなかった事にして…………うん、ランスロット死ね」
雁夜のライフはゼロだった。
なんて攻撃だろう。予想外すぎて防御できない。天然マジ恐い。
アルトリアは動じない。
「どうしてですか雁夜。あなたの身体はあなたのものだけではありません。わたしがわたしの大事な友のランスロットの恋人を心配するのは当たり前です。雁夜。可哀想にランスロットに無体をされて。辛かったですね。あなたは何も心配せずにわたしに寄り掛かってくれればいいです。さすがに男同士の性行為については知識経験不足ですが、これから努力してあなたが頼れるように頑張ります。安心して大船にのったつもりでこのアルトリアを頼って下さい」
泥船の方がマシだと雁夜は思った。
頼りがいありすぎる、かっこいい美少女の王子様フェイスに雁夜はクラクラした。
どうしてこいつら無駄にイケメン。
「頼むから頑張らないで……」
雁夜はキラキラと「オレを頼ってくれさあさあ」とやる気満々のアーサー王に頭を抱える。
どうしよう、この人。悪気がないから余計にタチ悪い。百パーセント純粋な好意しかないよ。歪みなくキラッキラしてるよ。やる気に満ち満ちてるよっ。
でも内容はオレとランスロットのセックス……っていうかオレの痔疑惑? 物凄く嫌すぎる。
なにこの試練。どっかのマーボーの愉悦?
雁夜はポカンとしているウェイバーにヘルプの視線を送る。
(頼む。おまえだけが頼りだ。つか助けて)
「……雁夜。それ見せて」
ウェイバーが食事の手を休めて雁夜が持っている袋に手を伸ばした。
「ウェイバー……いやこれは…」
「会話からなんとなく想像はつくけど。もしかして×××の薬?」
ズバリ指摘されて、雁夜は察しの良い友人に力なく頷いた。
ウェイバーは紙袋の中を確認してまじまじと雁夜を見る。
「雁夜。……痔なの?」
「違う!」
「じゃあなんでセイバーは雁夜にそんなのプレゼントしたの?」
「オレが聞きたいよ…」
「なんでセイバー?」
ウェイバーがストレートに聞くと、セイバーは隣のランスロットを見て応えた。
「ランスロットの『無毀なる湖光(アロンダイト)』は立派だからな。雁夜が受け入れるには少々荷が重いのではないかと思い、ランスに聞いたのだ。雁夜とのセックスは大丈夫かと。そうしたらランスロットは雁夜の身体は華奢でなかなかランスロットの『無毀なる湖光(アロンダイト)』を受入れられず、入口を怪我させる事もあると言うではないか。まったく、今まで数多の遊撃をくり返してきたのに男の子一人満足させられないとは腑甲斐無い。それでも円卓の騎士筆頭か」
憤る美少女は男前だった。
「申しわけありません王よ。女性との性交は慣れておりますが、男の子との性交は雁夜が初めてで勝手が分からず雁夜にも苦痛を与えてしまいました。腑甲斐無いわたしをお許し下さい」
「許すのは雁夜であってわたしではない。雁夜。このような未熟者ですがそれでも大事なわたしの友なのです。どうか見捨てず許してあげて下さい」
真面目な主従のやり取りに雁夜は死にたくなって現実逃避しかける。なにこの主従面倒臭い。
うん。この二人仲良いよね。
そんな事まで喋っちゃってるのおおおお? 怒っていいよね、恋人として怒るべきだよね。でも二人とも一点の曇りもありません、って顔してて、こっちが間違ってる気にさせられる。オレが間違ってるの?
……悔しい。なんだか魔術バカの時臣の魔術トークに負けかけた時の気分だ。
「セイバーとバーサーカーって仲良いけどさ。下ネタ……するの? 二人が?」
雁夜が聞きたかった事をウェイバーが代わりに聞いてくれた。
過去グレにグレた際にそれまでの品行方正と真逆に走って、夜の校舎窓ガラス壊してまわったり盗んだバイクで走り出したりしないけど、寄ってくる女の子を食い散らかしてポイだよ入れ食い状態でメシウマだよ、を実践したランスロットはともかく、品行方正純粋無垢一生処女を通したセイバーが下ネタとはあまりに予想外というか、ないだろうそれは。
思わず雁夜もマジマジとW美形のW真面目主従を見る。
「下ネタとはなんですか? それって寿司のネタの一種ですか? おいしいですか? 回転寿司にありますか?」と涎を垂らさんばかりのセイバー。
真面目な顔に、セイバーはその単語すら知らないんだな、ああそういえばこの人イギリス人だっけ。と雁夜は思った。ウェイバーも同様らしい。
「王よ。下ネタとは、性の事に関する話題を話し合う際の略語でございます。この間学友から聞きました」
ランスロットが丁寧にセイバーに教える。教えんなっ。
アルトリアががっかりした顔で涎を拭いた。
「なるほど。ランスは物知りだな。……だがしかしなぜそれを『下ネタ』というのだ? 普通に、性の話題、で充分ではないか」
「そこまでは聞きませんでした。日本語は奥が深く、我々からすれば面妖で説明がつかない単語がいくつも存在しております。現に大人でも正しい日本語をマスターしているものは僅かとか」
「ふむ。さすが千年以上歴史が続く国は違うな。奥が深い。なればこそ学ぶ価値があるというものだ」
「まったくです」
この二人が話しをしているとどうして典雅な詩を詩っているようにしか見えないし聞こえないと、雁夜はキラキラしい美形主従の真面目な会話を聞いて、疲れた。
もしかしてオレがこの二人に下ネタとは何ぞやと説明するの?
雁夜は食事途中だけど、走って逃げたくなった。しかし今抜けても翌日話題を蒸し返されるかもしれない。真面目な彼らは自らの無知を放ってはおかないだろう。
それにしてもランスロットに下ネタの説明したやつ偉い。よく逃げ出さなかったと思う。この穢れなき美形に日本語のスラングを誰が真面目に説明したんだろう。
「性の話題を『下ネタ』というのか。覚えておこう」とアルトリア。
「「いやいや。覚えなくていいからっ!」」
ウェイバーと雁夜の声が美しくハモる。
「どうしてですかウェイバーに雁夜」
ウェイバーが呆れを隠さずセイバーに説明する。
頼りになるなあと、雁夜は男なのにヒロイン臭のする友人に任せる。
「ランスロットは間違っちゃいなけど、説明が足りない。下ネタっていうのはぶっちゃけスラング。ありていに言えば、男が女を吟味してセックスやあれこれ非常にいかがわしい事を男友達と会話するのが『下ネタ』っていうんだ。この場合、女同士や男女でも可だ。……というわけで聞くが、セイバーとバーサーカーってバーサーカーのセックスについて話したりしてるの? してるから雁夜の尻がどうこうって話題になるんだよね。そこんとこどうなの?」
ウェイバーがいてくれて助かったと雁夜は思った。聞き辛い事を聞いてくれて。自分じゃとても聞けない。当事者だから余計に。
ランスロットとセイバーが真面目な顔で自分の尻具合を会話する場面を想像して雁夜は死にたくなった。なにこの仕打ち。羞恥プレイ?
セイバーが機嫌を損ねた顔つきになる。
「わたしはいかがわしい気持ちでランスロットと雁夜のセックスについて論じたわけではない。そのような下品であさましい気持ちは微塵も持っていないと誓う。信じて欲しい雁夜」
「信じるもなにも。始めから疑ってないって。……けど、なのになんでランスロットとオレの……あれこれを知ってるんだ? ランスロットが話したのか?」
なんでそんな事をペラペラと喋るんだとランスロットを睨むと。
アルトリアが説明する。
「話したというか、ふと疑問に思ったのだ。雁夜とランスロットは恋仲ですでに肉体関係もあると聞いた。それは良いのだ。愛する者同士が性交するのはごく自然な事だ。性別など関係なく。……しかしランスロットの『無毀なる湖光(アロンダイト)』は大きい。処女では入らんと宮廷で噂だった。それがはたして雁夜に入るものかと疑問に思ってランスロットに聞いたのだ。雁夜はちゃんとランスロットのアロンダイトの鞘になれるのかと。ランスロットは『槍に鞘は必要ありません』と応えたのだ。つまり、ランスロットの槍が立派すぎて、雁夜の細い腰では受け止めきれずなかなか大変だと。それでわたしは友の為に薬局に行ってきたのだ。これで安心してまた励めるぞ」
「王の気遣い、このランスロット感激です」
「いやなに。以前きみに言われた事が堪えているのだ。『王は人の気持ちが分からない』と。わたしは男同士の性交はちっとも分からないが、分かろうとする努力は怠らないつもりだ。もしわたしに至らないところがあるなら遠慮なく行って欲しい。わたしはいつでも話し合う用意がある」
「王の真摯な姿勢と誠意に、感謝と感激に言葉もありません。雁夜もきっと喜んでいるでしょう」
ランスロットは感激してセイバーを信頼の眼差しで見つめる。セイバーは鷹揚に頷いた。
「……なぜそう思える」
(真面目主従爆発しろ)
雁夜は膝を抱えて小さくなった。逃げちゃダメだ逃げちゃダメだと自分に言い聞かせる。この使徒(サーヴァント)達は雁夜が逃げたら更なる破壊力で雁夜に攻撃するに決まっている。
雁夜はランスロットと恋人になった事をちょっぴり後悔した。
「あの……。一つ聞きたいんだけど」
ウェイバーが手を上げる。
雁夜と同じく顔が強ばっている。
「セイバーってランスロットのナニ……がおっきいってなんで知ってるの? まさか見た事ある、とか?」
雁夜はギョッとした。女の子になんて質問を。
しかしウェイバーの問いが気になった。もしウェイバーの言うとおりなら。二人は特別な関係という事になるのではないか? 美しい男女。似合いの二人。なぜそんな関係にはならないと思い込んだのだろう。
セイバーは高らかに唱った。
「あるに決まっているだろう。我々の間には隠し事などない。何一つ疾しい事などない明鏡止水のごとく心情でわたしはランスロットと雁夜の恋を見守っているし、ランスロットも過去はともかく今は雁夜しか見ていない。当然私はランスロットの男の象徴だって見た事がある。我々に隠し事などない。それに部下の身体を把握しておく事は当然だ」
「隠せよっ! 色々とっ! 当然とか言うなっ!」
怒鳴った雁夜に罪はないと思う。
ウェイバーが考えている事が分かる。雁夜も同様だからだ。
(わーこの主従面倒臭い。心清く純粋にも程があんだろっ。下半身露出で動じない王様かよ)
「……えっと。もしかしてランスロットのナニの勃起時のサイズも知ってるとか?」
さすがにそれはないだろうとウェイバーは自分の言葉の下品さに顔を顰めながら聞くと。
「当然ではないか。私とランスロットは臥薪嘗胆を共にした仲であり、わたしは彼に全面の信頼を置いている。お互い隠す事など何もない」
誇らし気に堂々胸を張るセイバーは清々しく美しかった。そしてそれに同意するランスロットも穢れの一点もなく下心を理解しない妖精のようだった。……が、雁夜はこいつの下半身がバーサーカーだという事を身を持って知っている。
「……あの……いくら親友でも男の下半身を女の子が見るのはどうかと思う……」
雁夜の精一杯の常識提唱は世界で一番男らしい美少女によって一蹴された。
「わたしはエクスカリバーを抜いた時に女である事も人である事も捨てた。私はあの時から『王』なのだ。男の下半身云々は笑止。世の中には男か女しかいないのだから、女でなければ男だろう。人類の半分がぶら下げているものをいちいち気にしてられるか。性欲などわたしにとってはフライドチキンの骨も同じ。つまり食えない」
「ソ、ソウデスカ…」
ウェイバー助けてと隣を見れば。
ウェイバーは遠い目をしていた。
「あー……そういえばライダーも自分がこうと決めたら、それが百%正しくて世界の常識だと疑わなかったな……。いくらボクが口を酸っぱくしてお前は間違ってると正解を教えても右から左。……王様ってみんなそうなんだろうな……」
雁夜の目も遠い。
浮気じゃないのは分っている。
こいつらにとって裏切りは死に等しい。雁夜を裏切るくらいならセイバーの刃がランスロットを倒すだろう。
……重いよ。色々と。
「雁夜。わたしと王の仲は信頼と友情のみですよ。愛する人はあなただけです」
ランスロットが雁夜の前で膝をつく。まんま中世の騎士の姿。
雁夜は目の前の恋人の恰好良さに動揺する。
愛する男に熱っぽい目で見られてクラッとくる。これが学校で昼間じゃなかったら抱きついてキスするのだが、正直昼間の学校ではやめて欲しい。周囲の視線が痛すぎる。
パスが繋がっていると色々バレるので大変だ。その分隠し事がなくて楽なのだが。
雁夜の恋人は美しすぎるので二人でいると雁夜はすぐに平常心を無くす。恋人がイケメンすぎて辛い。
もう一人のイケメンは雁夜の手をそっと握った。
「わたしは王として、いや友として親友の恋を見守っているのです。……というわけで、雁夜。ランスのアロンダイトが大きくて辛いのなら、私が毎回薬を塗ってさしあげます。トイレでもいいですが私が男子トイレに入る事は校則で禁じられてますから。雁夜が女子トイレに入るという手もあります」
「ねえよっ! セイバーが男子トイレに入る以上にヤバいよ、バレたらすっごい誤解だよっ。つか、その前に薬を塗るってどこに? セイバーが? オレに? 本気? 本気だろうね、止めて!」
「何処って雁夜のおし…」
「みぎゃーーーっ! 何故に?」
「王として友としての友情と義務です。わたしが可憐な雁夜のお尻を守らねば。ランスロットに止めろとは言えないので」
「可憐が名前にかかるのか尻にかかるのか知らないけど知りたくもないけど、色々嫌すぎる! 女の子に尻に薬塗られるってどんなプレイ? そんな趣味ないよっ」
真っ赤になる雁夜に、アルトリアは男前の表情で微笑み、大丈夫だと安心させるごとく揺るがない。
「恥ずかしがる事はありません。たかが尻の穴です。というか雁夜の尻なら見たいです。きっと可愛いのでしょう。あとで二人きりになれる場所でじっくりと見せて下さい」
堂々とした痴漢宣言に雁夜は泣きたくなった。世の中の痴漢がみんなこんな男前だったら、世の女性達は喜んで下着を脱ぐだろう。というかその時点で痴漢じゃなくなって合意だ。
「どこから突っ込むか突っ込みどころ多過ぎて絞れないけど、今言いたいのは一つだけっ! オレの事は放っておいてーーーーっ、お願いだからーーーっ!」
「あーー……小さな親切大きなお世話ってこういう時に使うのかぁ……」
ウェイバーの呟きが耳に痛い。
セイバーには善意しかない。というか邪気あったらそれはセイバーじゃない。
アルトリアはランスロットの股間を見ながら言う。
「ランスロットのアロンダイトは巨大です。雁夜のお尻が心配です。どうか安心してわたしに全てを委ねて下さい」
「だが断る!」
こんな場面でなかったら胸キュンキュンして一も二もなく頷くのだが、こんな場面なので丁重にお断りする。
「なぜ?」
「何故って……」
この世の真理を調べつくして正否を知った私に間違いはない、と自分を信じる王様を雁夜は説得できそうもなくて、つい恋人になんとかしろという目を向ける。
なぜこのおかしな上司を止めない? 恋人が困っているというのに。
セイバーほどではないがランスロットも面倒な男だ。童貞でないのに、むしろヤリヤリの入れ食い状態野郎イケメン死ね! ……なのに心は純粋無垢ってどういう事? と雁夜は疲れる。
まあそういう所も好きなのだが。
雁夜は美しいものが大好きだ。美しい顔に美しい身体に美しい心を持ったランスロットは歩く理想だ。なんでこんな完璧超人が雁夜のような凡人以下を好きになったのかさっぱり分からない。前世の縁があるとはいえ、主従の関係になったのはたった数日間だ。
奇蹟を大事にしたいが、中世の騎士と恋愛するにはスキルがいるようだった。というか天然パなさすぎてライフが削れまくりだ。
倒れそうな雁夜を支え、ランスロットがアルトリアの前にズズッと出る。
「王よ。あなたの好意は光栄ですがお断りします。雁夜はわたしの恋人です。恋人の身体はたとえ王だとしても見せたくない。わたしだけのものです。雁夜のお尻はわたしが手当します」
ランスロットの堂々とした『オレのもの』宣言に雁夜はキュンときた。いかん。萌え死にしそうだ。
「そうか。ならばランスロットよ。おまえが責任もって雁夜の尻を手当するのだぞ。おまえのアロンダイトは凶器だ。使い方を誤るな」
「心得ております、王よ」
「雁夜を頼んだぞ」
「言われずとも」
信義友情揺るがない主従はキラキラ美しかったが、雁夜は見ないフリした。
話題が自分の尻だから色々虚しい。
心配してくれたのだからありがたいと思わなければいけないのだろうが。
「……という事ですから、後で二人きりになれる場所へ行きましょう。わたしが雁夜の尻を手当します」
ランスロットのキラキラというよりギラギラした目に雁夜はブンブンと横に首を振った。ネギしょって鍋に入るのは嫌だ。
「いやいやいやいや、大丈夫。そこまで怪我してないし。……というか学校で二人きりになれる場所はないからっ」
「しかし雁夜。わたしはあなたの身体が心配です。雁夜が怪我をしたのはわたしのせいなのですからわたしが責任持って手当します」
「しなくていいから。……つか。ランスロットは……その…………あの時、て、丁寧にしてくれるから………そこまで怪我しないし。そ、そりゃあお前のはかなり……でっかいから動かれると切れちゃうけど……でも大丈夫だから。平気だから。そんなに痛くないから。……というかそういう会話は昼メシん時すんな。他の人間のいる前で言うな」
雁夜は爆発寸前でなんとか言った。
セイバーはともかくウェイバーの白い目が痛い。お願いそんな目で見ないで。もうオレ、ライフないのよ。
「じゃあ二人きりならいいんですね?」
黎明の空のごとき薄紫の瞳が雁夜を射抜く。美しすぎる男は、憂いさえ魅力にして雁夜を幻惑する。
雁夜は恋人の魅惑のオーラに圧倒されて頷くしかできない。
「ふ、二人きりなら…」
雁夜は同意した。というか同意しなかったら更なる羞恥プレイだ。
「雁夜。恥ずかしがらなくてもわたしは気にしませんよ」
「セイバー。オレが気にするんだ」
やる気いっぱいの美少女に雁夜は稲穂のように頭を垂れる。
他人の悪意はキツイが、悪意ゼロの純粋無垢も別の意味で辛い。
「畜生。全部時臣のせいだ」
つい口癖が出る。悪い事は全部時臣のせいにする癖がついた雁夜だ。
食事は残っていたが雁夜にはもう食欲がない。
アルトリアとランスロットはとっくに完食して、雁夜の食べ残しをジッと見ている。
「雁夜。……良かったな」とウェイバー。
「な、何が良かったんだ?」
「今のおまえは立派なリア充だ。爆発しろ」
「え、本気で言ってる? マジで? リア充に見えるの? 本当にそうなの?」
雁夜の叫びにアルトリアが言った。
「雁夜。『りあじゅう』とは何ですか? 果汁の仲間ですか、それって美味しいですか?」
腹ぺこ王の輝いた瞳に、雁夜は「ウェイバーに買ってもらえ」と言った。
オフライン「Change THe World」の続編ですが、本編と違って100%ギャグテイスト。
本編シリアスなのに色々ヒドイ…。
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