わたし彼氏

親友

Change The World…後日談


01

「雁夜。あなたに買ってきました。必要かと思って」
 差し出された紙袋。
「……なに? セイバーがオレに?」
 きょとんとする雁夜。
 昼休み。昼食時。
 四人で昼食を取っている時だった。
 四人とは、オレこと間桐雁夜、クラスは違うが友人のウェイバー・ベルベッド。そして恋人(…照れる)のランスロットとその親友のアルトリア・ペンドラゴンだ。
 いつも昼は雨生龍之介と一緒なのだが、諸事情により龍之介はしばらく学校を休んでいる。
 その理由というのが……やめよう。あまり楽しい話じゃない。
 雨生龍之介は前世で殺人鬼だった。冬木の殺人鬼といえば地元はおろか日本中で有名な猟奇殺人を引き起こしたシリアルキラーだ。で、龍之介はその生まれ変わり。プラス聖杯戦争にも参加したキャスターのマスターだ。
 そのキャスターことジル・ド・レェも現界……じゃなく転生してて龍之介と恋人同士になってる。
 同性云々より、悪魔信仰してたサーヴァントと殺人鬼の恋愛ってどんなんだ? と好奇心よりおぞけが振う。
 うん、恐いから関わらない。ようにしているのだけれど、龍之介が「旦那がね〜」と雁夜を掴まえて惚気るのだから知りたくもない二人のラブラブっぷりを始め、ベッドの中のあれこれまで全然まったく聞きたくないのに知っている。
 他に惚気られる友達がいないから仕方がないのだろうけれど、雁夜としては男同士のアレソレはあまり聞いてて楽しいものではない。
 雁夜だって恋人が男なのだから参考にできないかとちょっと思ったりなんかしたけれど、龍之介達のアレソレは特殊すぎて参考になるどころか真似したらただじゃ済まない……というか普通死ぬ。
 なんでMじゃないのにSM楽しんでるのかちっとも分からない。
 本人達はSMのつもりじゃないだろうけれど、切り刻んだり血を吹き出させたりするのは立派なSMだ。龍之介は内臓&血液マニアという事らしいが。素人にその差は分りにくい。つか分かりたくないし。
 で、その龍之介がしばらく学校に来ていないのはサボりではなく、恋人とのアレコレが過ぎて今療養中らしいから。
(おいおい……)
『加減を間違えてヤり過ぎちゃったテヘペロ』と雁夜はメールを受けた。画像つきの。いらん!
 速攻で削除したのはショックを受けた精神を守る為だ。えすえむ恐い。



 龍之介ととくに親密な関係を築いているつもりはないのだが、雁夜にとってクラスでは龍之介だけが友達なので、彼がいないとちょっと暇というか手持ち無沙汰だ。別にハブられているわけではない。ただ単にコミュ障なだけで。
 雁夜の外見は一言で言うなら異相だ。頭部は全部白髪で、鎌で切りつけられた顔は大きな傷跡と片方失明というハンデが残った。
 というワケで雁夜は精神的ヒッキーだ。精神的というのは身体はちゃんと学校に来ているから。
 しかし精神的ヒッキーなので友達はできない。自分の容姿が人とはあまりに違いすぎて、雁夜はまともに人と付き合えない。

 雁夜の側に龍之介がいないと、逆にウェイバーが寄ってくる。ウェイバー・ベルベッドはクラスは違うが雁夜の友達だ。
 聖杯戦争を生き残ったウェイバーは雁夜にとって楽に会話できるありがたい相手だ。ただしウェイバーは龍之介が嫌いなので龍之介がいると近くに来ない。
 雁夜自身が嫌われているのではないと分っているので異存はない。雁夜だって殺人鬼の側にいたいわけじゃないので気持ちは分かる。


 一人ぼっちの雁夜をウェイバーがランチに誘うと、なぜかランスロットとアルトリアがついてきた。

 ランスロットと雁夜はめでたくつき合う事になった。つまり恋人同士。万歳。
 つき合いは以前からあって、その時はセフレというか、雁夜はランスロットの気持ちを誤解していて身体だけだと思っていた。
 どうせ愛されるわけがないと卑屈になっていたというか、当然の見解だ。
 女好きで最高の美形でモテモテの絵に描いたようなイケメンが、あちこち欠けまくっている自分に好意を抱くわけないというごく普通の解答に帰結しただけで。
 そう、今でも信じられないがランスロットは雁夜を好きらしい。
 本人に真面目に告白されて雁夜の小さな心臓はバーサクしそうだった。
 なにこの奇蹟。聖杯のバグ? と雁夜は疑った。今でも半信半疑で疑っている。
 掴んだ幸福が手の中からこぼれるのが恐いので口には出さない。ひたすらこの幸せが続く事を願っている。
 ともかく。ランスロットいわく、わたしと雁夜は恋人同士なのですから、食事を一緒にするのは当然の事です。…なんて言われてしまえば雁夜にはノーと言えない。
 だってランスロットが雁夜を愛してくれたのは本当に奇蹟なのだ。
 わー、愛が重いとか、ギャラリーの目が恐いなんて思ったらバチが当る。
 それに雁夜にとって愛は重たい方がいい。
 十歳以降、誰からも愛されないと愛を諦めていた雁夜の中にはぽっかり穴が空いている。その大きな穴をランスロットは埋めてくれたのだ。
 つまり雁夜はものっ凄くランスロットが好きで好きで大好きで、この恋に夢中だった。そんな素振りは絶対外に漏らさなかったけれど。
 ランスロットとはパスが繋がっているのでバレバレだったが、そんな状態もなんだか通じ合っているようで雁夜としては恥ずかしいけれど悪くない……なんてバカっぷる状態というかバカだった。初めての相思相愛に溺れていた。
 ランスロットが雁夜と昼を一緒にというと、セイバーもついてきた。
「雁夜はわたしと友達ですよね」と言われてしまえばノーとは言えない。
 セイバーは凛々しく男らしくて恰好良くて雁夜には眩しくて、これほど気持ちがいい人間の正面攻撃を防御できるわけがない。全面降伏。
 もともとランスロットとセイバーはいつも一緒にいたので、そこに雁夜が入り込む形になっている。
 ウェイバーはわりとセイバーと仲がいいので問題ないらしい。
 例の一件でセイバーはウェイバーが気に入ったみたいだ。ウェイバーは時々策士だが、精神的にまっすぐで歪んでおらず、利己的というより理性的だ。その辺が真面目なセイバーと合うのだろう。
 完璧美少女のセイバーは可愛いモノ好きで「ウェイバーは可愛いのでペロペロしたいです」という事らしい。分からん。セイバーは時々ナゾだ。