IROGOTO・2
第三者視点では?
(獄寺とツナの出てこない獄ツナ)






「なー、チビ」
「……ん?」
「なんでお前二人の事、何も言わないんだ?」
「二人の事って、ツナと獄寺の事か?」
 山本に問われリボーンは銃を磨く手を止めて、顔を上げた。
 ツナの部屋にたまたまリボーンと山本の二人がいた。
 ツナはビアンキを見て倒れた獄寺を別室で看病している。
 二人が部屋からいなくなってから、山本は天気の話でもするかのようにリボーンに話し掛けた。
「そー。チビもとっくに気付いてんだろ?」
 山本の顔は明るい。赤ん坊が手に余るような武器を磨いていようと、いつも何も変わらない。
 鷹揚なのか演技なのかイマイチ読めない男だとリボーンは思った。
「……まあな」
「なんで?」
 山本は面白そうだ。他人の恋バナなど興味がない男だと思ったのに。
「反対する理由も少ないからな」
「へ? そうなのか?」
「ああ」
 山本は首をこころもち傾げる。
「俺はてっきり大反対だと思ったんだが」
「どうしてそう思う?」
「だって男同士だし、ツナはともかく獄寺は一生気持ちは変わらないだろうから、ツナの方を何とかしなきゃ、あの二人はこのまま一生ひっついてるぞ?」
「山本は反対なのか?」
「俺はどっちでもないな。二人ともダチだから二人が幸せならいいや」
 山本はサバサバしている。
 リボーンの細い眉がチラリと上がる。
 この男は……。
「オメーの方がサバけてんじゃねえか。保守的な日本人にしちゃ話が分かりすぎだぞ」
 赤ん坊のくせにリボーンの声は皮肉げだ。
「男と女だって一生モンで引っついてる方が珍しいからな。本気だって言うなら第三者がどうこう言う話じゃねえだろ」
「オレだって第三者だが?」
「チビはツナの家庭教師なんだろ。それにボンゴレの御意見番みたいなもんだし」
「まあな。オレの言葉はボンゴレの言葉だ」
 リボーンはコクリと頷く。
「なら聞くけど、ツナの後の跡継ぎ問題とか。その辺はどう考えてんだ?」
 リボーンはさらにニヒルな顔になる。
「いざとなりゃどうにでもするさ。アルコバレーノなんてものを作り出したマフィアの科学は秀逸だ。人口受精なんて簡単だぜ」
「ツナがそんなの納得するかな?」
「する、んじゃなく『させる』のさ。獄寺を人質にすりゃツナは何でも言う事を聞く。チョロイ生徒だ」
「……それでツナと獄寺の事を反対しないのか」
「おうよ」
 リボーンはフッと嘲笑った。
「ツナの馬鹿は俺が特訓しようと殺しかけようと敵に殺され掛けようと、ちっともマフィアらしくならねえ。才能はそれなりにあっても適正は水準以下だ。いまだに諦めず『マフィアのボスなんか嫌だ』と言いやがる。だが獄寺がいるからな。あいつは生っ粋のマフィアだし、ツナがボスになるって疑ってねえ。獄寺がいる限り、ツナは引きずられて嫌がおうでもマフィアボスの階段を上るしかねえのさ。惚れた男が足枷になって運命から逃れられない。同性愛なんて褒められたもんじゃねえが、逆を言えばボロボロ愛人とガキを作られて後継者問題で揉める心配がないとも言える。ボンゴレは名門だからな。男が二人生まれりゃ争いは当然だ。ボスが貞淑ならその辺で揉めなくても済む」
「ツナの人生はすっかりチビに握られてんな」
「それがツナの運命だ」
 全てを悟ったように言うリボーン。
「ははははは」
「何で笑う?」
「だって可笑しいじゃねえか。ボスと腹心、両方の伴侶が男ってえのは笑える」
 リボーンは首を傾げる。
「腹心っていうのは俺の事か?」
「他に誰がいるんだよ?」
「俺が誰を伴侶にするって? ビアンキに聞かれたら殺されるぞ」
「ビアンキの姉さんには内緒にしといてくれよ。……小僧の相手って四歳年上のあの子だろ?」
 リボーンの眉がピクリと動いた。しかし表情は余裕のままだ。
「……何の事か分からないな」
「ははは。年月って恐ぇな。鼻水垂らしてるガキが十年後には美少年かよ。ヘタレな所もツナと共通して保護欲そそるよな。俺の好みとは違うけど」
 リボーンは人の事言えるのかという顔で反撃する。
「山本の趣味はたんぽぽやスミレじゃなくトゲだらけのバラだろ。このツンデレ趣味め。オメーの方がいい趣味してんじゃねえか」
 リボーンの皮肉に山本はまあまあと誤魔化した。
 やっぱり気付かれていたかと思う。山本の本命は年上の風紀委員長だ。
「オレの事はどうだっていいじゃん。今の話はツナと獄寺の事だろ」
「山本もお節介だな。他人の恋路に口だして面白いか?」
「少し面白いかもな。それに小僧の出方が分からねえとこっちも困る。アイツらの味方をするのに守り方が違ってくる」
 山本の顔は明るい。リボーンはツナは良い友人を持ったなと思った。この男は全力で友の恋路を守るだろう。例えリボーンを敵に回しても。
 リボーンは獄寺とツナを別れさせるつもりはないから安心しろと言った。
 跡継ぎ問題も大事だが、それ以上にボンゴレの結束の方が大事だから。ボスと右腕と幹部の信頼が強固なら、たいていの事はなんとかなるものだ。獄寺は側に置いておけば必ずツナの為に全力を尽くすだろう。リボーンはボンゴレさえ無事ならそれでいい。
「家光辺りがうるさく騒ぎそうだが……ま、なんとかなるだろ」
 ふふふふと笑いながら、リボーンはレオンを撫でる。
 今日は何事もなく終わりそうだなと珍しくリボーンが穏やかな気持ちになった時だ。
 ランボが部屋に入ってきた。
「がはははは。ツナとゴクデラがチューしてたぞー。男どうしなのに変ー」
 リボーンはレオンを銃に変え、牛に引き金を絞った。
 この阿呆が十年後に自分の愛人になると信じたくないと思いながら。 









リボーンは利益優先、山本は友情優先。でも友情って結局自分の為だよね。