友達のお父さんにせまられてる


- あらすじと人間関係-



-STORY-
DIOとの戦いの七年後に、花京院が生まれ変わる。
徐倫と同学年で同じ高校、友達設定。
徐倫がグレぎみ、アナスイと付合ってる。実はファザコン。
ずっと花京院の事が忘れられなかった承太郎と再会 →花京院の前世の記憶が戻る。……って話。


承太郎×花京院




「ホントやばいよ。このままじゃマジヤバい」
 ……なんて嘆いているのは空条徐倫だ。
 JKの会話の方がよっぽど〈ヤバイ〉と思う。
 美味しくても綺麗でも危険でも楽しくても全部〈ヤバイ〉で表現するのはどうかと思う。表現が豊かなんだか貧しいんだか、日本人の微妙な曖昧さ極まれりだね。
 ……なんて突っ込みはしないけど。女の子に余計な事を言うと何倍にもなって返ってくるから。
 女性の遺伝子はよっぽど男より発達してる。口で負けて勢いで負けて迫力で負ける。唯一勝てるのが腕力くらいだけれど、ぼくの周囲の女性達は腕力でも男に勝ってるから、余計に迂闊な事は言えない。
「あんたのオヤジさん、そんなに厳しいの?」
 エルメェスが机につっぷしている徐倫の顔を覗き込む。
「……昭和の頑固オヤジでもまだ柔らかいってくらいガチガチに硬いわ。まるで岩みたい」
「ウハッ、ガチガチに硬いって、ヤラシー、ヒヒヒヒ」
「昼間っから下ネタにすんじゃないわよ」
 どこのオヤジだっていう顔でニヤつくエルメスを、徐倫が睨む。
 全く同意だ。飲み屋にいるオヤジじゃないんだから、女子高生が男のアソコを想像してにやけるのは止めて欲しい。女の子が可愛いだけの存在じゃないと分っていても、女性に夢見てたいのが男なんだ、分かって。
「なにがヤバイって?」
 パックのジュースを飲みながら聞くのはフー・ファイターズだ。徐倫とエルメェスの友達で、二人と比べるとまだこっちの方が女子高生らしく性格丸くなかなか可愛い。見る度、何か飲んでる。喉が乾く体質らしい。
「徐倫。俺は君の為ならどんな試練も耐えてみせる。お父様に交際の御挨拶を……」と徐倫の傍で唱うように言ったのは徐倫の恋人のアナスイだ。
 徐倫のアナスイを見る目がヤバイ。
 あ、こういう時に使うのか。なんか養豚所の豚を見る目だ。恋人を見る目じゃないね、君たち本当に付合ってるの?
「したらあんたは即入院で、たぶん重症だから留年確定ね……で、わたしはオヤジに強制的にどっかの高校に転校させられるかも。最悪海外。二度とあんたには会えなくなるわねアナスイ」
「えっ…」と、アナスイの顔が青ざめる。
「大げさじゃね? まさかそこまでしねえよな?」とエルメェス。
「そこまでするオヤジなの。……だから絶対言えない。彼氏ができたなんて」
 徐倫が頭を抱える。
「別に。オヤジさんに全部報告する事ないじゃん。適当に嘘言っとけば」とF・Fが気軽に言う。
 ぼくも同意見だ。親にバカ正直に彼氏できました報告する事ないと思う。
「わたしだってバカ正直にオトコの事言うわけないじゃん。なるべく隠すわよ。……でも」
「でも?」
「あのクソ親父、勘が良いというか、嫌な所で鋭いの。気になったら徹底的に調べて真実を暴き出すわ。お抱えの調査会社を使ってでもやるわよあの男は」
「調査会社? …そこまでする? たかが娘の彼氏調べるのに? うわっ、そりゃきっついわ。あんたも大変だ」
 エルメスが同情的に徐倫を見た。
「しかし困った親父さんだね。娘が可愛いのは分かるけど、プロに頼んでまで行動把握しなきゃ気が済まないなんて……ちょっとおかしいんじゃない? 普通そこまでしないよ? いきすぎてる」
 徐倫がここにはいない父親を蔑むように顔を歪める。
「あいつはあたしが可愛いわけじゃないわ。普段は仕事仕事で放っておいて授業参観だって来た事もないヤツよ? それどころか誕生日だってすっぽかす事何回…。あいつは娘が可愛いんじゃなくて、自分の所有物が自分の知らない所で勝手にしてるのが気に入らないだけの利己的な男よ。最低なの。でもお金と力あるから周りが従っちゃう」
「親父さんと仲良くないんだ?」
「アレと仲良いヤツなんているもんか。横暴で人の言う事全然聞かないし、いつも上からの命令口調。他人が自分の言う事を聞く事を当然と思ってる王様体質。……どうやったらあんな性格が出来上がったのか知りたいわよまったく」徐倫が忌々しいと吐き捨てる。
「そりゃ親の遺伝とか教育でしょ? あんたのバアちゃんかジイさんからの」
「それがね。親父のママ、おばあちゃんは陽気で人懐こくて優しい人だし、その父親…曾祖父は、おしゃべりで笑顔が堪えなかった人だったらしいわ。……父方の遺伝子何処に消えた…。あれは突然変異よ」
「へえ。親に似てない子か。あんたは親父さんに似てるの?」
「あたしはママ似よっ! あんな男と似てるなんて冗談じゃない!」
「頑固親父に苦労する娘か。ハハハ、悩めリア充め。さっさと一人でオトコ作った罰だ」
 言うほど怒っても妬んでもいないのがエルメェスだ。
 空条徐倫とエルメェス・コステロとフー・ファイターズ(通称F・F)は仲良し三人組だ。女が三人集れば喧しい。
 女子の会話をなぜぼくが盗み聞きのような真似をしているのかと言えば……彼女の席がぼくの隣だからだ。自然に会話は耳に入ってくる。それだけじゃなく、徐輪の彼氏はぼくの友達でもある。
 徐倫の彼氏のアナスイはイケメンというよりスカート履いたら美少女に間違われそうな綺麗系の顔立ちだが、中身はちゃんと男だ。いき過ぎなほど徐輪にベタ惚れてるアツイ男だ。見た目は爬虫類系っぽいけど。
 徐倫とアナスイのカップルは異色だ、色々と。
 空条徐倫という女の子の評判は様々だ。
 元スケバン(死語)だとか、喧嘩番長だとか、この町の不良を全部締めてるとか。要するに女性ながら強面で周りに恐れられている。周囲にいるのが強面のエルメェスとかF・Fみたいな子ばっかりだから噂は勝手に一人歩きするし、誤解されっぱなしだ。彼女達は全然気にしてないみたいだけど。
 実際の彼女は喧嘩っぱやいし腕力にものいわせるし一匹狼風で周囲に迎合しないし、女子高生としては規格外だけど、話してみると中身は案外普通だ。
 彼女と親しくなってから知った事だけれど。
 きっかけはF・Fことフー・ファイターズだ。彼女が水分不足で校舎裏で倒れているのをぼくが見つけ、保健室に連れていったのが始まりで、徐輪のグループと話すようになって、なんとなく友達になった。
 徐倫達は普段男は相手にしないのだけれど、なぜかぼくは眼鏡に適ったらしい。
 徐輪曰く「花京院は優男に見えるけど、熱いスピリッツを感じる」と言う事らしい。どういう意味だろう? 褒められたのかな。中身はただのゲームオタだよ。
 エルメスはぼくを見て「細っこくて好みじゃないから惚れるなよ」と言い、F・Fは「ありがとう。花京院が倒れてたら今度はわたしが運ぶから」だって。
 例え倒れても女子には運ばれたくないなあ。
 ぼくが比較的他の男子より彼女達と壁が低いのは、ぼくが彼女達に興味がないからだと思う。興味がないというと失礼な表現だけれど、男は本能的な生き物で、女子に近付かれると自動的に恋愛脳にジョブチェンジする。
 始めは何とも思っていない相手でも、ちょっと優しくされたり親しくされたりすると、すぐその気になってしまうという思春期脳のお手軽さ。
 女の子の方も相手に好かれると悪い気はしないのか、そんな感じでおつき合いが始まる。
 でもそんな中身のないエア交際を徐倫達は気に入らない。ハートがないって事らしい。
 恋愛脳に侵されて勘違いしてベタベタされるのはゴメンだ、という事なので恋愛脳にジョブチェンジしないぼくは安全圏の男だと思われているらしい。
 男としてどうかと思う。
 ぼくはどうしてか、女性を見ても他の男子のようにウキウキソワソワしない。可愛いなと思う事はあっても心臓が跳ねるような感じはないのだ。男にはまったく全然興味がないからゲイじゃないけれど、女子にも食指が動かない。
 男は普通、可愛い顔と膨らんだ胸と丸いお尻があればそれでいいと思うものらしい。
 中身は? 人間、外見も大事も中身も大事だろ。
 ぼくは他の男子と違って中身が伴わない子にはまったく興味が湧かない。……とバカ正直に言うと、お前インポかゲイか? 格好つけてんじゃねえっ。……と言われてしまうのだけれど、どっちも違う。異性に対する引力には個人差があるだけだ。ただ単に嗜好の違いだ。
 女性に犬みたいにハアハアしないからって、EDかホモの二託とは単純すぎるというか、思考の貧困さにオマエらバカじゃないかと思う。発情期の男はバカばっかだ。
 そういう意味で言うのなら徐倫やエルメェス達はぼくの守備範囲ではある。中身がちゃんとある女の子は素敵だ。
 しかし彼女達を見るとどうしてもその気になれない。猛獣を前にしている草食動物の気持ちというか……恐い。とって食われそう。肉食系女子マジ恐っ。
 徐倫達もぼくの事は兎か何かと思っているらしく、適当にあしらわれている。普通男女逆だろ。
 そんな硬派な徐輪に彼氏ができた。
 ナルシソ・アナスイという男は徐輪のタイプじゃなかったらしが、アナスイが突然告白してきて断られてもガンガン押してきて、どんなに邪険にしても食い付いて諦めず、最後は粘り勝ちだ。色々あって徐輪は諦めたらしい、色々と。何があったんだろう。
 向合ってみるとアナスイは徐輪の事が本気で好きで、その真剣さが徐輪の心の扉を開いたみたいだ。
 かくして男女交際は成立し順調な経過を見せていると思いきや、徐輪が父親に彼氏の存在がバレそうでどうしよう、と頭を抱えている。↑今ココ。
 徐輪からは想像できないけれど、彼女の父親はとっても厳しい人らしい。
 しかも下手にお金と行動力があるから、徐輪の彼氏の存在を知れば海外に転校という力技でさっさと別れさせる手段だってとっちゃうよって話。
 本当にいるんだね、そういう子供を所有物扱いする酷い親が。徐倫はその横暴父と日々戦っているらしい。
 アナスイは「お父様にご挨拶!」とか言ってるけど、アナスイみたいな綺麗系な男は親父様の気に入るところじゃない、むしろ嫌いなタイプだから駄目…と徐輪。
「おい花京院。おまえも徐輪が困ってるんだから知恵貸せ」とアナスイがぼくの背中を叩く。
 痛いな、ぼくは関係ないんだけど。まあいいか。
「知恵ったって。……せいぜいバレないようにうまく立ち回るしかないんじゃない? 学校にいる間の事は親だって知らないんだし、放課後だってそんなに遅くならなきゃデートだってできるだろ。なにがそんなに問題なんだい? 嘘つく事に罪悪感でもあるの?」
「デートも難しいのよね。うちの門限六時だし」と徐倫。
 みんなが驚く。
「どこの小学生だよ、六時? 本当に?」
「マジだよ、オールマジ。普段は家にあんまりいないんだけど、あたしがうっかり六時過ぎて帰った時に限って親父がいるんだよ。タイミング悪いってか、変なアンテナついてんじゃないのあの親父」
「じゃあ嘘つくしかないよ。徐倫は硬派なんだし、男なんてうざいって顔してれば男親なんて案外簡単に騙されてくれるんじゃない?」
「だといいんだけど。バレたらお終いだから困ってるんだ」
 そうまでして別れたくないと言う徐倫にアナスイはデレデレと幸福そうだ。やに下がっている。
 はいはいご馳走様。
 徐倫は本気で困っているようだけれど、バレなきゃいいだけの話じゃないかなあ。
 そこまで深刻だとは思えなくて、ぼくは女の子ってこんな事でいちいち悩むんだと思った。