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「愛してるよ、おにいちゃん」
「今それを言うなっ」
イギリスは怒鳴り、アメリカは後悔を未来への想像で押し隠した。
「じゃあママ・イギリス」
「どこまで変態だよお前は…」
「イギリスだけには言われたくないね」
「こんな時、それを言うか……空気読め」
「読める空気はまだ見付かってないよ。見つけたら教えてくれよ」
「バカ、お前本当のバカだ」
アメリカはイギリスの髪を撫でながら「バカなんて酷いんだぞ」と甘く囁いた。
イギリスの泣いて腫れぼったくなった瞼を舌でなぞれば、イギリスはギュッと目を瞑り、ちょっと困った顔になる。
眉は太いし、髪はボサボサだし、身体は硬いし、魅力なんてない筈なのに、イギリスの全てが好きだと思ってしまう。
アメリカの溜息に、イギリスは何だよと不機嫌な声を出した。
「……君の好きなところが分からない。貧相だし性格悪いし……」
「てめえっ」
アメリカはチュッと音を立ててイギリスの頬にキスをした。
「でも好きなんだ。好きで好きで…。どうしてこんなに好きなのかな……」
謡うように言われ、イギリスの耳が赤くなる。
「……っ、知るかっ」
絶対に聞けなかった筈の告白のオンパレードに正気に戻りつつある心は耐えられない。
喜びも過ぎれば苦痛に近い。
イギリスはアメリカが恐い。裏切られるのが恐い。気持ちが変化するのが恐い。
だからアメリカには恋はしない。絶対に。
どんなにアメリカが懇願しようと抱こうと縋ろうと、同じ思いだけは返したくない。いつだってイギリスの感情の方が重い。その重さに相手は耐えられず逃げ出す。かつてのアメリカのように。
だからイギリスはアメリカを好きになんてならないのだ。失いたくないのなら、始めから手に入れなければいい。失うくらいなら孤独の方がマシだ。孤独は寂しくて冷たいけれど痛くはない。
「君が何を考えているのか知ってる。……逃げ続けていいよ。俺は追い掛け続けるから、走り疲れて動けなくなるまで逃げるといい。……でも走れなくなったらもう俺のモノだ。……諦めて俺の側にいて」
「……諦めるもんか」
「どっちでもいい。俺が追い掛け続けてれば、いつだって隣にいられる」
「……ストーカー野郎」
「マザーファッカーよりマシだろ」
「どっちもどっちだ」
イギリスはアメリカの腕の中で心の葛藤と戦っていた。
アメリカを愛するものか、絶対に……。
アメリカに抱かれて幸せだなんて、ただの錯覚だ…。
そんなイギリスをアメリカはお見通しだった。
臆病で狡猾で自分が一番可愛いイギリス。
アメリカの育ての親、兄であり母であり、今は恋人。
あいしてる。その言葉だけが真実だ。
母なのか兄なのか、それとも他人としてなのか、形や立場を深くは考えない。
考えたり空気を読む事は幸せに繋がらないと本能が気付いている。
イギリスの身体はどうしようもなく美味だった。アメリカの興奮は収まっていないが、それでも我慢した。
アメリカの欲しいのは身体だけではない。心がなくては意味がない。
230年も待ったのだ。
これでようやくスタートラインに立った。
走り出したら全力疾走だ。
必ずイギリスを掴まえる。
「口説くのに230年もかかるなんて思ってもみなかった…」
情けない声に、イギリスは吹き出し、身体が痛んだのか顔を顰めて、それでも笑った。
「笑うなんて酷いんだぞ」
「笑わせたのはお前だろう」
「賠償を請求するよ」
「へえ? 断ると言ったら?」
「強引に奪うだけだ。略奪は得意だろ、海賊さん。君の武勇伝はスペインとフランスから聞いてるんだぞ」
アメリカのキスを、イギリスは柔らかく受け止めた。
それは幼い頃にイギリスとしたキスと何も変わらなかった。
ちなみに。
フランスの撮影した『アメリカ脱童貞おめでとう、イギリス編』の撮影会に招待されたのは日本だ。
日本はフランスからディスクのコピーを何枚も買いとり、観賞用、保管用、いざと言う時の保険用として隠し持っていたが、何故かあっさりイギリスにバレて、泣きわめくイギリスに没収されホゾを噛んだという話だが、オタク魂溢れる日本がただ負けるわけがなく、ちゃっかりコピーをパソコンに保存済みだった。
撮影者のフランスはフルボッコされてしばらく病院から出られなくなり、その間に異常気象で葡萄の木が萎れた事を知って絶叫した。
ちなみに叫んだ言葉はこうだ。
「やりやがったな、あのエロ大使!」
シーツをビリビリに破いてイギリスを呪うフランスだったがそれも自業自得と、誰も同情してくれなかった。
→END
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