#25



 数時間後、中継地点のツェルマーに到着した。ここでイーストシティ行きの列車に乗り換えをする。
「乗り換え? これってイーストシティ行きじゃなかったっけ?」
 エドワードは降りてキョロキョロと辺りを見回した。まだ山の中。広い駅には沢山の列車と人がいた。
「リゼンブールからの直通はないぞ。ツェルマーで乗り換えするんだ」
「……そっか。イーストシティまで路線が直結すんのは二年後だっけ。忘れてたぜ」
「何か言ったか?」
「何でもない」
 つい六年後のつもりで行動していたが今は六年前なのだ。その頃リゼンブールとイーストシティには直通列車はなかったらしい。
「タイムスリップって色々面倒……」
 知らないはずの事を知ってしまっているから、色々と気をつけなければいけない。
「列車の数が多いな。……どれがイーストシティ行きかちょっと聞いてくる。エド、此処で待ってろ」
「うん」
「絶対に動くんじゃないぞ」
「判ってるって」
 エドワードは荷物番をしながらそういえば人が多いなと思った。軍人の姿もある。
 何かあったのか?
 六年前……九歳の頃の記憶はどこか曖昧だ。
 この頃何があっただろう? 東部は戦争が終わったばかりでテロが横行していた。やれ爆弾だ強盗だと事件が多発して新聞は毎日記事に事欠かなかった。
 思い出せ、エドワード。おまえ天才だろ、と自分にハッパをかける。
 六年前の三月頃か。
 列車強盗は……五月だったし、宝石店が襲われたのは七月だったな。イーストシティ近くの駅が爆破されたのは四月だった。たしか『蒼の炎』という組織が起こしたテロで。そう、連続爆破という事で話題になったんだっけ。……連続? 続いたから連続なんであって、後に続いたんだっけ? 前にあったのか?
 うーん。記憶が曖昧モコモコ。
「エド。お待たせ。列車が遅れてるそうだ」
「何かあったの?」
「何か事故らしい。そのせいでみんな足留めくらってる。オレたちの乗る列車もいつ出発になるか判らん」
「テロとかじゃなく?」
「どうしてそう思う?」
「青い服着た軍人がいっぱいいるし、空気がピリピリしてる」
「……そうだな。だが詳しい事は何も教えてもらえなかった。だが心配しなくていい。エドはオレがちゃんとイーストシティに連れて行くから」
「うん、全然心配してない。それより発車が判らないんじゃどう時間潰す?」
「とりあえず列車が動くまでメシでも食うか? 丁度昼だし」
「うん、食べる」
 駅に隣接した食堂は同じく列車を待つ人間でごった返していた。
「相席で宜しいですか? ……ではこちらへどうそ」と案内されてみれば。
「ハボック?」
「ブレダ?」
「「どうしてここに?」」
 ハボックと同僚のハイマンス・ブレダは互いに顔を見合わせた。


「……で、こいつが中佐の連れて来いって言ったガキだって?」
 エドワードをジロジロとぶしつけに見るブレダに、エドはなんだよ? と真っ向から視線を受け止める。
 心の準備なしに知り合いに会うと動揺する。
「エドワード・エルリックです」
「おう、ハイマンス・ブレダ准尉だ」
「ハボックさんの同僚の方ですか?」
「おう。腐れ縁だ、ボウズ」
 素直なエドワードにハボックがニヤニヤと笑った。
「そんな面してっけど、本性は結構したたかだぞ。大人顔負け。もー生意気で」
「ガキがしたたかで生意気なのは当然だろ」
「したたかの質が違う」
「どんな風に?」
「いずれ判るよ」
 エドワードは運ばれてきたピザを齧りながらロイ・マスタングがこの場に来ている事を聞き、内心で舌打ちしていた。
(イーストシティに行くまでに心の準備をしようと思っていたのに。計算違いだ)
「で、中佐は?」
「ハクロ准将に呼ばれてる。どうぜまた嫌味の嵐だろ。中佐が目障りで仕方がないらしい」
「あのオッサンも来てんのかよ」
「わざわざ中佐がお迎えに来た時にテロが起こらなくてもなあ」
「やっぱテロか?」
「例の『蒼の炎』らしい。中佐が連中を追い込んでいる最中に来るから、こういう面倒なことになるんだよ」
「中佐に手柄を取られるのがイヤなんだろ。だからわざわざニューオプティンから出てきたんだ。あわよくば漁夫の利を狙って」
「そんでテロにあって足留めされちゃな」
「中佐も探索を准将に邪魔されて御立腹だ。いま中佐に会うと当られるぞ」
「会わなきゃ後でイヤミの嵐だ」
「違いない」
 二人の軽口から状況が把握できる。ロイ・マスタングは『蒼の炎』とうテロ集団を探索、追い詰めつつあったらしい。その情報を聞いてのこのこ出てきたハクロ准将。そして起こった爆発。混乱する現場と足留めされた人々。
 爆破が起こったと聞いたがどの程度なのだろう? 雰囲気からして怪我人などは出ていないらしい。線路が破壊されただけなのか。
「ブレダはこんなところでノンビリとメシ食っていてもいいのか?」
「阿呆。誰がノンビリしてる。ここ数日働き詰めでメシもろくに食ってないっていうのに。今日はこれからメシを食う暇もなくなるだろうから、先に食っておけとの命令だ。さらにテロが起これば不眠不休だぞ」
「うわ……御愁傷様」
「丁度いいからおまえも手伝ってけよ」
「オレはエドのお守。こんな場所でガキ一人を放っておけっか」
「……だな。羨ましい」






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