聖杯様願い
叶えてくれました
……ただし望まない形で
(バサ雁)



 
 俺、間桐雁夜は死んだ、らしい。
 というのは余命一ヶ月を切ってさらに内も外もボロボロになって『あ、こりゃ死ぬな』と思ってたら意識が遠のいたのだから……そりゃ死ぬわ。
 死ぬ間際に見たのが、好きだった人(人妻)と家庭を持つ妄想と、助けようとした子の軽蔑の眼差しという現実なのが非常にアレ(かなり痛い)なのだが、死んだら全部なくなるのでまあよしとしよう。死ねば全部チャラになるのなら痛かろうがみっともなかろうが、どうでもいい。
 生に未練がないといえば嘘になるが、好きな人の首を絞めちゃったり、聖杯戦争に負けて結局は桜ちゃんを助けられなかったりと、生き残っても後がないので死んでチャラの方がマシ…というか……まあ逃げだ。小心者の最期には相応しい。
 そんなボロ雑巾ライフの終わりを悟り、後は消え行くだけだと思っていた。
 サーヴァントじゃあるまいし、死んだ後まで人生が続くなんて誰も思わない。ありえない事を夢みる十四歳中二病じゃあるまいし、英雄でも王様でもない平凡モブが英霊になれるはずもなく、ましてや生まれかわりだとかSFもどきな展開になるなんて絶対思わない。
 俺もいい年したおじさんだから、夢と現実の区別はつく。
 たとえ過去の英雄が甦って魔術師と組んでガチでタッグバトルでやってたとしても。
 ……うん、そっちの方がよっぽど中二病(でも現実なんだよなー)
 …で、敗戦。
 人生オワタと思った瞬間、色々走馬灯が駆け巡り……走馬灯って結構長いというか、一瞬なんだけど体感時間としては何時間もあるんだよなこれが。体験してみないと分からないというか、死んで初めて走馬灯体験して分った。アレだ。長い夢を見てたと思ったら、実際には五分くらいだった、みたいな感じ。
 そんな説明どうでもいいけど、何が言いたいかというと、最後に見た俺のサーヴァントの素顔が意外だったという事だ。ガチイケメンだったので素で驚いた。
 狂化中は本当に『狂犬』って感じでキレキレゴーゴーで人間離れしてたのだが、狂化の解けたバーサーカーは理知的な美形だったので正直ビビった。何、あの顔面偏差値トップクラス。容姿格差社会。
 セイバーとバーサーカーの戦いを見ていたので、バーサーカーがあの名高いランスロットというのが分って、俺のサーヴァント強いはずだ、アーサー王と並ぶ実力者の英雄ランスロットじゃないか。
 あるぇー? そうだったの? 死ぬまで自分のサーヴァントの正体知らなかった俺って結構バカじゃねえ? とか走馬灯の中で思ってた。
 んで、思ったのが。
 ………悪かったな。と反省。
 だってそうだろ。バーサーカーはあの有名なランスロットだったんだ。アーサー王と並ぶ英雄。俺ごとき魔術師なり損いに使役されるような存在じゃない。なのに俺みたいに半端で未熟な魔術師と契約しちまったから理性を無くし、かつての王とガチバトル。結果敗退。
 あいつらの国が割れたのはあいつが主人の妻を寝取ったという自業自得ミッションのせいだけど、その主人が女じゃ不倫じゃないし。レズじゃなくて、形式上の政略結婚で同性夫婦じゃ、イケメン部下と恋に落ちても文句言えない。だからアーサー王はランスロットを咎めなかったんだろう。
 だって自分の立場で考えてみろよ。
 そんな事にはならないだろうけど、もし俺が惚れてもいない男と仮面夫婦やる事になって(↑すんごい仮定だな絶対ありえねえっ)そいつが女と浮気したら?
 ……うん怒らない。当然だと思う。つか、俺だって女と浮気するぜ。
 …って感じでランスロットは主君の妻とデキちまった。…で、それが色々拗れて国がまっ二つで戦争勃発。
 ……そりゃ狂いたくもなるか。どう考えても国を壊した原因は自分だもんな。
 ランスロットかわいそ。巻き込まれた周りはもっと可哀想だけどさ。
 そんな悲劇の英雄様がさ。折角英霊としてまた主人に巡り合えたのに、狂化して戦って、死んで。
 なんの為に現界したんだよって思う。
 つまり俺はランスロットに悪かったなと思ったのだ。
 たぶん桜ちゃんの事とか葵さんの事とか色々現実逃避したかったのだと思う。今まで自分がしてきた事が全部自己満足で、誰も救えず無駄な努力で最後は自分も死んですっごく惨めだ……なんて思いたくなかったんだ。だからランスロットに意識を集中させた。
 まさかそれが。
 こんな結果になるなんて。その時の俺は思いもしなかったのです。
(……何かの伏線のような台詞だな。一度言ってみたかったけど、あきらかに死亡フラグだよなこれ)


 あ、死んだ。人生オワタ。…と思ったのに。
 走馬灯ロードショーで見て、人生詰んだ、と思った。
 ……のに?


 なんで俺は時臣なんかと一緒にいるんでございましょう?


 気がついたら学生服着て、教室にいた。……何故?
 ここはどこ? わたしは誰?
 あるえぇー???


「なあ雁夜。……人の話聞いてる?」
「……時臣?」
 目の前には憎っくき遠坂時臣?
 ……若い? ってかガキだ。若い時臣が制服着てる。
「だからさっきから言ってるだろ。雁夜はそうやってよくボケてるから気をつけろって。だからあんな変態ストーカーにつけ込まれるんだよ」
「ストーカー?」
「やっぱりボケてるな雁夜。あの男の名を出したのに、いつものように拒絶反応を示さないなんて」
「……あの男? ……時臣? 話が見えない……ちょ、ちょっと待って!」
 俺は突然の展開についていけず、目の前の遠坂時臣と教室の風景を眺めて愕然とした。
 頬を抓ってみたが、どうやら夢ではなさそうだ。痛みとか感覚とか全部ちゃんとある。都合の良い夢ではないのか。
 自分が時臣と学生やってる現実に愕然とくる。どう考えても天国でも地獄でもない。普通の……現実だ。
「……雁夜。やっぱり疲れてるんだね。そうだよ。毎日ストーカーに付きまとわれたら頭もおかしくなる。やっぱりあの男を警察に突き出そう」
 キリリとした表情で真摯に言う時臣には悪いが、俺は『てめえ誰だよ、時臣はそんな凛々しい顔はしねえんだよ、あいつは常に優雅たれと言って、優雅垂れ流してる貴族臭バリバリのカビ臭野郎なんだよ、そんな洗剤の匂いしそうな好青年じゃねえんだよっ』と思っていた。
 今、頭ん中はちょっと凄い事になっている。他人の走馬灯が勝手に頭の中に入ってくるのだ。その情報量たるやすごくて、気持ちを落着かせるので精一杯だ。……で、他人といったがそれは『もう一人の俺、間桐雁夜』なので正確には他人ではない。なんというか、パラレルワールドの自分、というのが正解だろう。
 なんという中二病展開、でも事実。
 頭の中の情報を単的に説明すると、聖杯がぶっ壊れた瞬間俺も死んだらしい。…で、その万能の願望器様は関わった魔術師やらサーヴァントの願いを中途半端に叶えたらしい。もともと聖杯は汚染されていて、その異常をきたした聖杯が悪意の下で望みを叶えようとしたから、俺は自分が望まない世界にきてしまったらしい。
 で、俺が望まない世界というのは、間桐雁夜が時臣と親友の世界、らしい。
(恋人、じゃなくて本当に良かったと心から思う)
 頭の中の情報によると、
『この世界の俺は絶賛ストーキングされているよ、なう』

 うーん。俺がまさかのストーカー被害者。
 それにしても俺なんかにつきまとって何が楽しいんだか。顔だって可も不可もないモブだし(時臣がやたら凛々しい美少年なのがまた腹が立つというか死ね、マジ死ね時臣)なんで時臣じゃなく俺にストーカーが付きまとっているんだか。
 ……で、ストーカーってどこのどいつだ?

「雁夜。気を確かに持つんだ。あいつが来ても私が護ってやるからな」
 誠実オーラを出して言うんじゃねえ。無駄にキラキラしてるから周りの女生徒が熱い目で見ている。私も時臣君に護られてみたい、っていう視線だ。
 いつでもかわるぜお嬢さん。俺はこいつが大嫌いなんだ。
 胡乱な目をして時臣を見ている俺を、時臣は俺が疲れているのだと勝手に勘違いしている。うん疲れてるよ、てめえの存在に。 
 ……というか。この世界でも葵さんと時臣は恋人なのだろうか。考えるだけでヘコむ想像だ。時臣に聞けばいいのだろうが、なんか肯定されたら立ち直れそうもないのであえてスルー。
「雁夜。今日は隠れなくていいのかい?」と時臣が心配げに言う。
「隠れる? どこに?」
「教室にいるとあの男が来てしまうよ?」
「あの男って……ストーカーってもしかして同じ学校のヤツかよ?」
 頭の中の情報が段々整理されてきた。俺が生まれ変わったパラレルワールドの世界では、間桐雁夜はモブ顔ながら同じ学校のイケメンにつけまわされている。
 ……で、『俺』はそいつを蛇蝎のごとく嫌っていて、蔑むことゴ●ブリのごとく、らしい。
 そして、なぜあからさまなストーキングが問題にならないのかというと、そいつが品行方正な生徒で教師も手と口を出しかねているからだ。あまりに非の打どころがないので、まさかあの生徒がストーカーなわけない、という認識らしい。なんて酷い。
 その優等生ストーカー野郎は日夜間桐雁夜にまとわりつき『俺』はすっかり心をすり減らしている、らしい。
 そんな俺を親友の時臣が心配している、というのだが。
 ………何やってんのパラレルワールドの俺。
 時臣と親友というのもありえないが、ストーカーというのもなんだかなあと思う。
 だって俺だぜ? イケメンでも優秀でもなんでもない、そこいら辺にいる凡人だ。なんでその俺にストーカー?
 そのストーカーは毎日俺の教室に来て、俺の顔を見て口説いていくらしい。休み時間中ずっとだ。その優等生ストーカーの友達も来てその犯罪者予備軍を止めているので今の所はなんともないが、日々殺伐グレーライフ。
 さっきから時臣がソワソワしているのも、そいつが来るからと身構えているからだろう。
 ……で、俺は何をしているのかと言うと、そいつが来るのを待っている。
 記憶がまだ整理されていないというか、頭の中が雪崩状態でごッチャゴチャなのでストーカーの顔が思い出せない。にやけた勘違い野郎なら股間蹴とばして、男としての機能を停止させるのもやぶさかではない。しかし今はストーカーより時臣の過保護な視線が鬱陶しい。
 ザワッと空気が波立つ。途端に時臣の顔が険しくなったから、ああストーカーが来たんだなと瞬時に分った。説明なくても分かるっていいなあ。
 で、好奇心で振り向くと。そこいたのは。

「……雁夜。」
 ……今、ハートがついたのが分ったぞ。甘ったるい声と顔。目の前には…………うわあ、イケメンだ。顔面偏差値最高値の美形様がいた。モデルですかっていう美形だが、モデルにしては品がありすぎる。貴族的な高貴オーラがきらっきらに光る、非のうちどころのない美しい顔と身体があった。
 そしてこの顔には見覚えがあった。というかさっきまで見てた。(パス繋がってたからな)
 思考停止。

「……ランスロット?」
「はい、雁夜」
 あ、嬉しそう。ふわっと綻ぶ柔らかい笑顔からは白い花が溢れそうだ。もちろん幻覚だが、周囲の女生徒達から黄色い悲鳴があがるから、あながち幻覚じゃないのかもしれない。
「ど、どうしたんだい雁夜。いつもなら名前を呼ぶのも嫌がって、あのヤロウとか、ベンなんとかとかまともに名前を呼ばない君がっ!」
 時臣がびっくりした様子で言った。

 よし、状況を整理しよう。

 俺、絶賛ストーキング被害者。
 時臣。俺の親友でいいヤツ(認めねえっ)
 俺のストーカー。……ランスロット・ベンウィック。

 なんだろうこの状況。
 バーサーカーが俺の先輩で……ストーカー?
 誤情報…………じゃなくて?
 あるえぇーー?

 高校に入学した新入生の俺を見初めて、いきなり「結婚して下さい」とプロポーズかまして、断るとストーカー化した残念な優等生イケメン。その美形っぷりから女にモテまくって、だからまさかランスロットが本気だと教師は思わず放置されて、ノイローゼぎみな俺……が現状らしいが。
 目の前の男の顔はどう見てもバーサーカーで。
「ストーカーってお前かよ」
「ストーカーじゃありません。私はあなたを愛するただの男ですよ雁夜」
 低い声が耳に優しく響く。やべえ。いい声。
 しかし相手は男。俺ゲイじゃないから。

 そんな俺達の間に時臣が入る。
「ベンウィック先輩。いい加減雁夜につきまとうには止めて下さい。雁夜はこんなに嫌がっているじゃないですか。ゴキ●リ並に大嫌いだとまで言われてまだ付きまとうんですか?」
 時臣の厳しい声に緊張が走る。
 うーん。この世界の俺、そんな酷い事をランスロットに言ったんだ。どの面下げてこの美形にそんなおこがましい事言ったんだろう。こんな美しいゴキがいるか。
 この世界のランスロットは、元の世界の時臣ポジションらしい。間桐雁夜の天敵っていう立ち位置って事は、好意の欠片も抱けない間柄かよ。
 なんでそんな事に?
「あなたには関係ありません。私は雁夜に会いにきたのです。愛しい雁夜。あなたの顔を見ないと一日が始まりません」
「どうせ隠し撮りした雁夜の写真を部屋中に飾ってるんだろ。気持ち悪いけどそっちはまだ無害だからずっと写真を眺めてればいいのに」と、時臣。
 その顔は嫌悪で憎々しげに歪んでいる。
 時臣くん、優雅が家出中ですよ?
「実物に勝るものはありません。雁夜は私の愛の形そのものなのです」
「気持ち悪い事言うな。雁夜は先輩の事なんて何とも思っていないどころか、むしろ嫌悪を抱いているんですよ。迷惑です。二度と来ないで下さい」
「そんなことあなたに言われる筋合いはありません。……雁夜。私の存在は迷惑ですか?」
「毎日『迷惑!』『死ねっ!』『消えろ!』『ホモ野郎!』…と罵られているのに今さらそれを聞きますか? 迷惑に決まってるじゃないですか」
 ランスロットと時臣の間に険悪な空気が漂うどころか溢れている。
 間に挟まれる俺ってヒロイン? キャスティング間違えてますよ? 
 てか、ランスロットって俺の事好きなの?
 ありえないんですけど。

「失礼。…またこっちにきていたのですかランスロット。後輩達の迷惑です。せめて一日一回にして下さい」
 あ、セイバーだ。女子高生の服を着た、JKセイバーがいた。元々美少女だから制服が似合っているというか、似合いすぎてただ美しい。
 ランスロットと並ぶと、なにこの美形見本市という感じだ。
 そうかこの世界でセイバーはランスロットの主君ではなく、親友というポジションか。
 ランスロットも奇特なヤツだ。こんな美少女が側にいながら俺みたいな男に恋するなんて、運命の神様はかなり意地が悪い。
「申しわけありません雁夜。ちょっと目を離した隙に逃げられてしまいました。あなたの所へは行かせないと約束しながら約束を守れませんでした」
 セイバーに頭を下げられて俺は慌てる。美少女に頭を下げさせるなんて男のする事じゃない。
「アルトリアのせいじゃない。君が謝る事なんて何もない」
「しかし私は雁夜に約束しました。ランスロットを見張ると。あなたに迷惑をかけないように努力すると言いました」
「……そんなに迷惑じゃないし、大丈夫だ」
「え、そうなんですか?」
「そんなに驚く事か?」
 セイバーがうっそぉ、信じらんなーい、みたいな顔で驚くからこっちも驚いた。
「雁夜、無理しないで下さい。あなたがランスロットの事を『ド変態、死ねっ!』と思っているのは知っています。我が親友は優秀で高潔で自慢の友なのですが、あなたに対しては常軌を逸するというか……盗撮する、後をつける、匂いを嗅ぐ、場所を選ばず口説く、家まで押し掛ける、休み時間ごとに教室に顔を見に来る、という奇行をくり返して犯罪者ギリギリな態度なので……。あなたがランスロットを忌避するのも理解できるのです」
「どんだけ残念な美形だよ」
 俺は呆れるというか……唖然。
 うん、色々頭の中に浮かんできた。付きまとわれる日々にうんざりする俺とか。自室から窓の外を見たら木に登ったランスロットと目があったり、振り向いたらカメラ構えたランスがいたり、たまに体操着がなくなったり、風呂に入っているとどこからか視線を感じたり。
 すっかりノイローゼ気味だ、この世界の俺は。
 で、その元凶のランスロット君は、今日も元気に俺を口説きにきているというわけだ。
 時臣が警戒するのも分かる。この世界のランスロットは残念すぎる。優秀で美しい外見を持っているのに、どうしてこんな平凡な男が好きなんだ? 呪われているとしか思えない。
「……本当に俺の事、好きなの?」
 聞いてしまったのは当然だろう。だってありえない、そんなこと。
 この世界のランスロットには英雄だった記憶なんて残ってないけれど、その魂というか資質は過去と変わっていない。強く正しく美しく。王と並び立つ美丈夫で誉れ高き高潔な魂。
 それがストーカー? しかも対象者、俺。
 ツッコミどころ満載で、逆にツッコミづれえよ。

 ランスロットがそっと俺の手をとった。背を屈めて俺を見る。目に浮かぶは真摯な色。
「疑わないで下さい。わたしの口はいつだって真実のみを語ります。あなたが好きです雁夜。初めて会った時からずっと。いえ、会った時よりもっと沢山。どうしてあなたを好きになったのかわたしにも分かりません。でもあなたに会った時に分ったんです。これが運命だと。わたしの心がそう言うのです。あなたが恋しいと。愛してます雁夜」
 熱い、熱を持った声だった。
 あ、ヤバッと。思ったけど時遅く。
 ガツン。心臓が撃たれた。
 心臓がキュウッと痛くなった。この感覚には覚えがある。葵さんを目の前にした時と同じ痛みだ。
 誰かを特別に好きだという心臓の音。
 顔が熱くなる。
 違う、俺は葵さんが好きなんだ、と言い聞かせる時点でもう手後れだ。
 見た事もないような美しい男が俺を真剣に愛してると言う。いくら綺麗でも男だ。同性には興味ない。……ランスロット以外は。
 俺の空気が変わったのがランスロットにも伝わったのだろう。戸惑ったような、空気が伝わってくる。
 この世界の間桐雁夜はランスロット・ベンウィックが大嫌いだ。
 だけど、今の俺は聖杯戦争をランスロットと組んで戦った雁夜なのだ。
 葵さんの事とか桜ちゃんの事とか色々考えなければならない事があるのだが、今目の前にいるのはランスロットだ。俺の力不足で敗退させてしまったサーヴァントが俺に愛を求めている。
 俺は赤くなった顔を伏せて「……と、とりあえずはお友達から」と言った。言ってしまった。
 時臣とセイバーの叫び声がなんか聞こえたが、それより早くランスロットの硬い腕の中にしまいこまれて、あ、なんか早まったと羞恥一杯で思った。学校で言う事じゃなかったと、変に常識持ちの俺は小心にもそう思ったわけで。思ったけど……仕方がないのでスルー。
 溢れた水が元に戻らないように言ってしまった言葉もなかった事にはできない。
 つまり俺はこれからこの美形と恋をする予定らしい。
 色々あって頭痛が酷いのでとりあえず気でも失う事にする。
 とりあえず死ね、時臣。悪いのは全部時臣のせい。




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