聖杯様が願いを
叶えてくれました
……ただし望まない形で ……が続いたよ
『聖杯様は語る』
(バサ雁)
はい、わたくし聖杯と申します。
なんでも願いを叶えちゃう、素敵で無敵な願望器でございます。
なんでも願いを叶えられるっていえば七つの珠のドラゴンボールがメジャーですが、あっちはアニメにハリウッド進出にと目覚ましい活躍で、勢いに押されて肩身が狭いです。
あちらは何百万部という売り上げを誇る週間発行漫画『飛翔』できらびやかにデビューしたので、認知度格差が出るのは仕方がない事ですが。
だから実力の差じゃありません。わたくし、龍ごときには負けません。
マイナーにはマイナーの魅力があるんです。マイナーの方が濃いファンとかいて、結構楽しいですよ。負け惜しみじゃありません。
「龍珠バルス!」……なんて心にも思っちゃいません。
こっちだって願望器です。名前が売れてなくてもチートなオーパーツのプライドってものがあります。
…え、昨今の人間に作られた人工物だからオーパーツ(ロストテクノロジー)じゃないって?
そんなツッコミは無しにして下さい。作った本人達が制御できずに聖杯戦争なんて儀式やって英霊六体ぶっこまなければ起動しないくらいもったいぶった願望器なんですから、オーパーツって呼んでも誰もJAROに訴えたりしません。
……で、その偉い願望器のわたくしですが、この度ドラゴンボールの龍のようにまたまた呼び出されました。
いちいち龍珠を比較に出すなですって?
だって仕方がないでしょ。あれが一番分りやすいんですから。
閑話休題。
『聖杯』なんて聖典にも出でくるような素敵な名前のつくわたくしですが、やってる事はドラゴンボールと変化ない……なんて愚痴は言いません。
まあ言いたい気持ちはやまやまですが。察して下さい。
だって聞いて下さいよ。
聖杯にかける願いっていうと、それなりに壮大なものを想像するでしょ?
現実不可能なファンタジーとか、もっと現実的方面だと、世界平和とか世界征服とか。……真逆じゃないかって? どっちだっていいんです。だってどっちも世界を自分の望みのままに強引に改革しようっていう一種の革命ですから。
英語で言えばレボリューション。ほら何も変わらない。
…で、何が言いたいかと言いますと。わたくしに願うのならもっと壮大な願いにして欲しいって事なんです。
『僕をバカにしたやつらを見返したい』とか、
『王様の選定をやりなおしたい』とか、
『王に裁かれない』とかって。
……小さい。
……別にわたくしに願わなくてもいいんじゃね? ……とか思いません? 思いますよね?
でもそれはまだマシです。
金ぴかなんて『あれはもともと我の物だ。我の物を我がどうしようと我の勝手だ』とか言いやがって。何様だ。
『我』と書いてオレと読ませるバカのくせにっ。わたくしを作ったのはずっと後に生まれた人間であって、わたくしはお前に生んでもらった覚えはありません!
愚痴ばっかりですいません。あんな金ぴかなんてどうだっていいんです。蛇に永遠の命を食べられて泣きべそかいてた阿呆なんですから。
友達一人しかいないんですよあの男は。
聖杯として生きて何百年。そろそろ飽きました。
だってやっている事はいつもいつも同じ。
戦争があって、わたくしの中に英霊が入って、はい願望。
「パンツおくれ〜」なんてバカな台詞言われた事がないのがマシですが、毎回毎回バカみたいな願いを叶えさせられていい加減飽きました。
そこに来たのがアンリさんでした。
アンリ・マユさん。知ってますか?
『この世すべての悪』とか言われてるサタンより死神より最低の人です。ゲスの中のゲスです。
こんなの飲み込まされたら消化不良起こすの当然です。胃痛に悩まされ、太田胃散を飲むはめになりましたよ。忌々しい。
しかし飲み込んでしまったものは仕方がありません。吐き出せないのですから。
リバース不可なんですわたくし。そういう風にアインツベルンさん達が作りました。
だからアンリさんの事は諦めて妥協するしかありません。
そして六十年間、アンリさんと嫌々同居する事になりました。
本当に嫌でしたね。あの六十年は。だって悪意の垂れ流しをずっと聞かされ続けたんですよ?
どんな温厚な人間(器)だって性格曲ります。
わたくし、あの人に大分影響されました。どっかの胡散臭い宗教みたいに。
だって二十四時間三百六中五日一緒なんですよ。どこにも逃げ場がないんです。お腹の中にいるんですから。
小姑のお小言みたいに四六時中悪意ばっかり聞かされ続けました。アンリさんによるDVです。
わたしをイジメて、言う事聞かないと胃を痛くするぞと脅すんです。
だからわたくし『普通の願望器』から『悪の願望器』に変貌する事になっちゃいました。
時代の流れってやつですよ。
権力者の意向でその時の政治も正否も逆転するじゃないですか。あんな感じです。
というわけで、今回からわたくしは『この世全ての悪』の影響を受けた『悪の願望器』として再デビューしました。
生まれ変わったわたしを見て下さい。
見せた人の殆ど死んじゃいましたけど。
仕方がないですよね。これが運命ってやつです。
生き残った人達もみんなほどほど不幸になったのでアンリさんは大満足です。
わたくしに対するイジメも少し止みました。
全然不幸になっていない、むしろ生き生きした人も約二名、例外でいましたが。
あの人達は生きてる方が災厄をふりまくので、生かしておいた方がアンリさんの趣向に合うらしいんです。「この世全ての悪」の趣向に合う人格っていうんですからロクなもんじゃありません。
特に金ぴか。
あいつわたくしの中で素っ裸ですよ。全裸でした。
どこの変質者ですか。まったく嫌になります。
これでもわたくし元は『アイリスフィール』という人妻だったんですよ。
それが聖杯に脱皮したとたんこの仕打ち。
アインツベルンを恨みますね。
なんで全裸の男吐き出さなきゃならないんですか。
夫(切嗣)に申しわけなくて。
浮気じゃないんですよ、浮気じゃ。
あんな金ぴか男、趣味じゃありません。可愛げの欠片もない。
わたくしの旦那様と言えば、あの人大丈夫だったんでしょうか。
ストーカー(言峰綺礼)に狙われて。
あのガチムチ男、人の旦那の尻狙ってくれて、マジで呪いますよ。
…と、呪ったら不死になっちゃったんだっけ。
愉悦、愉悦ってそればっかりでバッカじゃないの。
そんなんだから人生つまんないって思うハメになるんじゃない。ざまあみろですね。
……って事はあの男、元々呪われてたのね。
だから呪いが効かないんです。
…っと。そんな余所事言ってる場合じゃありませんでした。
わたくしは聖杯なんです。人の願いを叶えてナンボなんです。
根本的な存在意義ってやつです。
アイデンティティーの危機なんです。
どういう事かっていうと。
『他人の願いを最悪の形で叶える』願望器に再デビューって事でしたが、よく考えればそんなのは願望器でもなんでもないわよね? …って思うでしょう?
ただのガラクタと変わらないじゃないですか。
A級品からB級品に格下げです。
神聖性とかカリスマとか奇蹟とか、どこ行っちゃったんですか?
衛宮切嗣がわたくしを拒否ったくらいですよ。
最愛の妻に三行半です。酷すぎます。
でもあの人を絶望させたんですから、それくらいは当然ですね。
アンリ・マユにイジメられているわたくしですが、やはり願望器としてのプライドは捨てられませんでした。
…ので、頑張って本来の聖杯の役目をしようと思いました。
…が、やはりアンリマユに気づかれてしまいました。
……わたくしのストーカーですかアナタ。
ホント死んで。
「そんなに奇蹟を叶えたいのならやれば? ただし相手はオレが選ぶ」とかアンリが茶々入れてきて、選ばれたのが……間桐雁夜だったのです。
私「なんで間桐雁夜なんですか?」
アンリ「だってあいつ面白えじゃん。初恋諦められず人妻に想い続けて、恋敵の娘を助ける為に蟲プレイ、最期は好きな女の首絞めて。おもいっきりボクごのみだよ」
私「…うざいから一人称をコロコロ変えないで下さい」
…というわけで間桐雁夜を生まれ変わらせる事にしたんですけど、正直面倒臭いのでパラレルワールドで生きてる別の『間桐雁夜』の身体の中に魂だけ同化しちゃいました。
手抜きじゃありません。エコですよ、エコ。リサイクルは省エネの基本です。資源の有効利用です。
「ほらほら見て見て聖杯。面白い事になってるから」
アンリが差してるのは間桐雁夜です。
彼は別世界で平和な高校生でしたが、わたくしの世界の雁夜と同化した為に頭の中が混乱中です。
しかも。
「……アンリ・マユ。あなた性格悪いですね」
「何を今更」
別の世界の間桐雁夜は普通の高校生なんですが、ちょっと普通じゃなくて、現在進行形でストーカーにストーキングされていました。
なんとなく共感します。
しかもそのストーカーが、自分の元英霊というふざけた現実。
もちろん今までの雁夜はそんな事は知りません。
しかし今のneWバージョン、雁夜ダッシュは戦争の記憶持ちです。
だからストーカーが英雄ランスロットだって知っちゃてるわけです。大変ですね。
もともと雁夜という人間は身の程知らずの面食いです。
そんな人に、最高の美形を置いてごらんなさい。
かつおぶしを前にした猫と同じですよ、猫と。
案の定、雁夜は一瞬で恋に落ちました。
ストーカーに一目惚れってどんな悪意ですか。
最悪ですよ。
でも雁夜自身は幸せそうなので問題はないみたいです。
今までが最悪でしたからね。
人妻への想いを粘着質に引き摺って自分自身を捧げちゃうなんて、あまりに惨めったらしいじゃありませんか。
ストーカーだろうとなんだろうと、一目惚れした美形とラブラブになれるのなら、それはそれでハッピーです。わたくしそう思いました。
そしてアンリマユもそう思ったみたいです。
自分の思惑が外れてあいつは御機嫌斜めです。ざまあ。
「……じゃあ今度はこっちで遊ぼう」とアンリ。
懲りない人です。
「こっち?」
「ほら。優雅バカ。こっちの方が面白そうだ」
「……なるほど」
アンリマユが面白そうというのならロクなもんじゃないですが、あえて止めようとは思いません。
なぜならこの遠坂時臣という男、極めつけのうっかりで、うっかりなんて生易しい、死んで当然の無責任男なのです。
自分の娘を鬼の住処にくれてやって「これが魔術師の定めだよ」なんてワイン片手に御満悦だった男です。
したり顔で長女に魔術師としてのウンチクを垂れ流している頃、次女はまっぱで蟲レイプですからね。
バカ父死ね! って思います。
こいつがアンリ・マユの興味を惹いたというのなら見物です。どんな結果になる事やら。
(ここからは雁夜ビジョンでお送りします)
「……雁夜。相談があるんだが」
「お前の相談なんてまったく全然これっぽっちも聞きたくないけど、一応聞いてやる。三秒以内に話せ。ほら一、二、三。……相談終了。また明日」
「酷いよ雁夜。わたしの話をそんな適当に流さないでくれ。わたし達親友じゃないか」
「幼馴染みイコール親友じゃねえよ。…で、悩みってなんだ? てめえの情けない顔に免じて聞くだけ聞くぜ」
「きみ、心なしか嬉しそうじゃないか?」
「気のせいだよ気のせい」(棒読み)
時臣は決意したように形の良い唇を開いた。
「……実は。…相談っていうのは葵さんの事なんだ」
「葵さんの?」
ついピクンと反応してしまう。
今は何とも思っていなけれど、間桐雁夜という人間にとって禅城葵は特別な存在だ。
前世の片思いの相手かつ、殺人未遂の女だ。死ぬ前に詰られて逆上してうっかり殺しかけた最愛の人。
二十年以上片思いってかなり痛いよな。前世の記憶をデリートしたい。
しかしその痛い記憶を思い出したから、今ランスロットと恋人なんだけど。
ランスロットっていうのはオレより一歳年上の、男の敵みたいな、女にモテモテな超イケメン……なのに男気も溢れていて男にもモテモテなヒエラルキーの頂点近くをウロウロしてるやつだ。
神はあいつに二物も三物も与えた。不公平だ。
……で、そいつをマイナスにするのがオレとの恋だ。
オレ達は同性だけど恋人同士だ。お互いゲイじゃないのに恋に落ちた。
……というより初めにランスロットの方がオレに一目惚れして、男なんで交際断ったらストーカー化。
あげく犯罪レベルのつきまといをされていてオレはいつかアイツを殺すだろうと思いつめるまで神経ヤられてた。……しかし。
ある日突然前世の記憶(マスターと英霊だったよ、でも自分のせいで聖杯戦争負けちゃったよ。…自責の念)…が甦ったもんだから、ランスロットを嫌えなくなっちゃった。
伝説の英雄様をこき使ったあげくに勝手に自滅したんだから悪かったなあ…と色々後悔というか反省したのだ。
人妻相手に何やってんのオレ、痛すぎるっ……っていう中二病みたいな前世に羞恥の極みっていう本心から目を逸らしたかったっていうのもあるんだけど。
ストーカーのランスと目が合って。
ヤバい、と思ったのが運のツキ。オレはランスにフォーリンラブってしまった。
性別越えて人を魅了するんだからアイツがどんだけ魅力的な男か分かるよな。
惚れた相手に言寄られたら……三秒で落ちるわ。
それまで(前世では)片思い歴二十ウン年だったんだ。家族からの虐待、蟲レイプ、好きな人には罵倒され、散々な人生でライフはとっくにゼロ。
そんな時に惚れたイケメンから手を差し伸べられたら道を踏み外すに決まってる。
オレがランスとつき合う事になったって言ったら、みんなが『とうとう雁夜君、ぷっつんきちゃったのね。逃げられないのなら受入れた方がいくらかマシだって思っちゃったのね』……と思ってくれたらしい。良いんだか悪いんだか。
ゲイとかホモとかありえないとか、誰も常識を唱えなかった。今更だと思ったのか、被害者が自分じゃなくて良かったと思ったのか。
なんだか周囲の目が妙に生暖かかった。
時臣は「考え直せ雁夜!」とか人の両肩揺さぶって優雅ふっとばして絶叫してたけど。
正直「ざまあ」としか思わなかった。
時臣のあんな顔見られただけで心が軽くなったね。
教室のドアの向こうから言峰綺礼先輩が「愉悦」と微笑んでいたのが無気味だったな。
セイバーは。「雁夜。あなたの尊い犠牲は生涯忘れません。あの男の親友として心から感謝致します」と言ってた。
始めと終わりの台詞が噛合ってないよ? 親友なんだから素直に祝福しろ。
セイバーとランスロットは親友で本当に仲が良い。
オレが嫉妬するくらい。悔しいから言わないけど。
「……で。葵さんがどうかしたのか?」
この世界の禅城葵は時臣の従兄弟で……男だ。
パラレルワールドだからそういう事もあるだろう。だからオレも初恋を引き摺らずに済んでるんだが。
葵さんと時臣は仲が良い。親戚だっていうのもあるけれど、おっとりした葵さんと優雅バカの時臣は波長が合うようだ。
「実は。…葵さんに…………昨日………押し倒された」
「マジで?」
「『ずっと好きだった』って言われたよ」
時臣の顔色は青い。相当ショックだったんだろう。
しかし何だな。葵さんは生まれ変わっても時臣を選ぶんだ。正直オレを選ばれても困るので、いいのだが。
元夫婦とはいえ、時臣は同性愛者じゃないから到底受入れ難いだろう。
さて時臣はなんて言ったんだ?
「……それで時臣は何って言ったんだ?」
「『それはおかしい。葵さんとわたしは男同士だ。男同士に恋愛感情は生まれない。ただの勘違いだ』」
「ひでえ。さすが時臣。空気読めよ」
「そしたら『雁夜だって男の恋人作ったじゃないか。男同士でも恋愛はできるんだよ。セックスも』って言ったんだ。……信じられないよっ」
地面にのめりこみそうな程、時臣は動揺している。
こいつにとっちゃ同性愛は余所の世界の出来事だ。TVとか雑誌とか。日常にはないものと思っている。純粋というか、単なるバカ。世間と常識がズレてる。
「葵さんは他に何か言ってたのか?」
「『時臣はわたしの事が好きだろう?』『わたしの葵さんに対する好意は純粋に親族としてのものです』『わたしは時臣が好きなんだ。型に当てはめるつもりはないよ。そんな小さな思いじゃないんだ』って…言われた」
ふうん葵さん。言葉で時臣を言い負かすつもりかな。
「……どうしたらいい雁夜? わたしは葵さんの事は好きだが、そういう『好き』じゃないんだ」
なるほど。これは時臣の恋愛相談か。
オレは時臣を弄りたくって仕方がない。相談相手を間違えたな。
「……オレがランスロットに告白された時には『そんなのあるわけない』とか言って相談にも乗ってくれなかったくせに」意地悪く言った。
常識の枠をはみ出せない時臣は過去オレの相談を一蹴しやがった。まさに自分に返る。ざまあ。
「あの時は悪かったよ。まさか本当だとは思わなかったんだ。品行方正、学歴優秀、武道家の鑑と言われたランスロット先輩が、まさか雁夜に告白するなんて思わなかったんだ」
時臣は反省しているが、オレは許してやらない。
てめえ、今思いきりオレとランスロットがつり合ってないって言いやがったな。
分ってるけど、お前に言われるとムカつくぜ。
だから報復。
「時臣はまずは葵さんとつき合ってみたらどうだ?」
「何を言い出すんだ雁夜? そんな事はできないから相談してるんじゃないか」
「まあ待て、時臣。食わず嫌いって言葉もある通り、本当に葵さんと恋愛できないか試しもしないであの人を拒絶するのか? 親戚の男に告白するなんてかなり勇気がいる事だぞ。人の真剣な感情をまともに取り合わず、『ノー!』って言うのは違うんじゃないか? 相手の誠実に見合うだけの気持ちで断るのが人としての礼儀じゃないのか? つき合い浅い他人ならともかく、葵さんは幼馴染みだ。あの人の気持ちを無碍にするのか?」
「……そ、それは」
動揺し迷う時臣に噴き出しそうになる。
『相手の誠実に見合うだけの気持ちで断るのが人としての礼儀』なんていうのは異性間の恋愛事情の場合だけだ。同性に告白されたら、その気がない時点できっぱり断るのが本当の礼儀だ。ズルズル引き延ばす方が酷というものだ。
……なんて本心は言わない。面白いから。
「そうか。……雁夜がそう言うのなら……」
苦悩しているわりにはあっさり言葉に乗せられる時臣が阿呆すぎて笑える。
後でランスロットと一緒に陰で笑い者にしてやろうと思う。
その時、誰かの高笑いを聞いた気がしたけど、気のせいだろう。
「ぶぶぶぶぶっふううううっ!」
「無気味な笑いしないで下さい、アンリ・マユ」
「ぎゃははははは、見たか聖杯。愉悦、愉悦!」
「どっかの神父の真似しないで下さい。気持ち悪い」
笑い転げているアンリマユがあまりにうざったいので、わたくしは転んだ振りをして、あいつの鳩尾に肘打ちを入れました。
胃液吐いて悶絶してたけど、死なないから問題ありません。
わたくしも生まれ変わって、もう一度切嗣とやり直したい。
男に生まれ変わってあの人を押し倒すというのも面白いかもしれない……なんて思った事は内緒です。
「この世すべての悪」がわたくしの願いを中途半端に叶えてしまうかもしれないので。
7/15 無配ペーパーNOVEL
|