禍福える縄のごとし
(空折)



■sample■




 イワンがそのブログを見つけたのはたまたまだった。



 イワンの趣味は二つある。
 一つはジャパンマニア。
 もう一つがスカイハイ。

 同業ライバルなのに熱烈なファンという矛盾。
 だが仕方がない。スカイハイはそれだけ素晴らしいのだから。
 スカイハイのファンクラブに入り、その動向をネットでおっかけ、同士達とプギャーと一喜一憂し、イベントの抽選を神に祈り、限定フィギュア獲得に大枚を払う、まごう事なきスカイ廃活動家。
 当然会社には内緒だ。バレているだろうけれど、建前は大事だ。
 そんなイワンだからあちこちのスカイハイのおっかけグループに登録している。情報の共有は当たり前。
 イワンはスカイハイと同業だから、やろうと思えば抜きん出て情報を獲得できる立場にいる。しかし一ファンとして、スカイハイを愛する者としてズルはしない。スカイ廃はスカイハイに恥じるような真似をしてはならないという暗黙の了解のある清く正しいおっかけだ。
 イワンはトレーニングルームなどで漏れ聞こえた話に心の中で
『ぶっふぉぉぉ! ぷめえっwwww』と狂喜乱舞でのたうちまわるが、決して外には出さない。己を律し自制している。これは自分だけの特典、というより埒外の奇蹟と思って遇して蓋をしてなかった事にしている。時折思い出してにやけるくらいだ。本当なら外で大声で叫びたいのだが。己を抑えるのは大変だ。
 それくらいなら許されるだろう、うん。









 イワンは折紙サイクロンブログを開いているが、それはあくまで折紙サイクロンのブログであってイワン・カレリンのではない。


 つまり個人ブログを開いていた。会社には秘密だ。
 イワン・カレリン本名ではまずいので、あくまで匿名の

『スカイハイさんを愛でるスカイハイファンによる、スカイハイとそのファンの為の……というか、ぶっちゃけ拙者の拙者による拙者の為のシュテルンビルトの中心でスカイハイさんへの愛を叫ぶブログ』

という身も蓋もないスカイ廃の萌えを吐き出すブログを作っていた。



 イワンブログは基本的にはノーコメントだ。書き込みが多すぎていちいちコメント返ししてられない。そしてアンチが多くなるとさっさとブログを移動する。あくまで個人の楽しみと、同じスカイハイファンに萌えを分けてやりたいというファン意識で運営しているだけだから気楽なものだ。折紙サイクロンブログとは違って身勝手運営されている。


 その中の一人がコメントに上げた一文にイワンは目を留めた。


『スカイハイを意識したブログ発見! 口調がまるでスカイハイ! でもおっかしい事に、中味が折紙ラブログな事! スカイハイファンなのか折紙ファンなのかはっきりしろ! って感じwww』



 そして。教えてもらったブログを検索し、題名を見てイワンはブッと吹き出した。



『折紙君とわたしの愛しき日々』



 まずは一番上の日記………近況を読んでみる。


『折紙君は今日も可愛かった、そして可愛い! 彼はなんでいつも可愛いのだろう。わたしは自分の劣情を抑えるので精一杯だ! そして辛い! 折紙君が可愛くて生きているのが辛い!』



『○月×日。今日は良く晴れていたので折紙君をデートに誘ってみた。晴れた公園で食べたサンドイッチは美味しかった。折紙君と一緒だったからだろうか。いつも買うサンドイッチが特別に美味しく感じた。太陽の下で見る折紙君の髪はキラキラ銀色に輝いて紫色の瞳は宝石のようだった。思わず手を伸ばしたわたしを折紙君は不審そうに見ていた。慌てて手を引いたが、わたしの欲望に気付かれたのかもしれない。だけれど折紙君は微笑んで「スカイハイさんはいつもとても美味しそうに食べますね。そういうのって……すごくいいです」とはにかみながら言ってくれた。折紙君の唇はバターで光ってとってもセクシーだった。今日の折紙君はエロカワだった』


 ……なんだろう。この既視感。

 そういえばキースとジョンの散歩に行った時に、公園のスタンドでサンドイッチとコーヒーでランチをとった事がある。キースはいつも美味しそうに食べるので一緒にいるこちらもとても美味しく感じるのだ。スカイハイ効果だ。
 妄想しやすいシチュなのだろうか。こんな妄想系のDQNと一緒にして欲しくないと心から思った。
 楽しかった事を思い出してほっこりできたからよしとしよう。