天使がデレたなう(空折)
■sample/01■
「折紙君!」
スカイハイが今度はイワンの両腕をがっちりと掴んだ。
「こんな事になって順番が狂ってしまったが、これは神のくれたチャンスだと思う事にしたっ。どうかわたしとつき合って欲しい、そしてつき合って下さい!」
「ええと……どこに?」
「先輩ナイスボケです」
イワンとバーナビーはスカイハイの勢いに押されて混乱中だ。
「わたしの腕の中に」
スカイハイは精一杯ロマンチックに言った。
バーナビーは眼鏡があればきっとバーンと割れていただろう。
そしてイワンは。
(あ、これドッキリだ)と思った。
(なーんだ。アニエスさんの企画かあ)と悟る。
スカイハイが折紙サイクロンに告白だなんて、ポセイドンライン側は承知しているのだろうかと思った。交通会社と金融会社のトップの仲の悪さは有名だ。
(さて拙者はどう答えるべきか。下手な事を言うとまたブログが炎上でござる。笑いがとれて視聴率もとれるリアクションを考えねば)
イワンは真面目に思った。
そこにスカイハイが本気でイワンに告白したという思考はない。スカイハイがイワンごときを好きになるはずがないのだから当然だ。
本気でなければ冗談だが、そういうジョークをスカイハイは嫌いそうだ。ならばアニエスにゴリ押しされて断れなかったのだろう。
もしかしたらイワンはとっくに了承済みだとか嘘を言ったのかもしれない。
それにしても演技とは縁がないスカイハイが名演だ。うっかり信じてしまいそうだ。
きっと沢山練習したのだろう。
イワンは疲れていた。仕事が終わって気が抜けて、負傷も加わって思考が緩慢になっていた。
スカイハイがヒーローの仕事の途中でこんなくだらないジョークを言うわけがないという事に気付けないくらい疲れていたのだ。
そしてバーナビーはというと。
突然のスカイハイの愛の告白に頭が真っ白だった。
(スカイハイさんが先輩に? 先輩の事そういう意味で好きだったの? 全然気付かなかった、迂闊だ!)
という思考が頭の中をグルグル回って動揺中だ。
同性だとか同じヒーローだとか障害だとかそういうのもあるけれど、なにより。
なにもこんな所でこんな場面で告白しなくても。とバーナビーは常識的にイワンに同情した。驚愕が突き抜けると心は逆に何か悟るらしい。
(ああ先輩が混乱している)
ここは僕が助けてあげねばとバーナビーは思ったが、咄嗟の事態に弱いのはバーナビーも同じだ。明晰でも心理戦は苦手だ。
「あの……スカイハイ殿」
意を決したイワンが口を開く。
小さな声で言う。
「どこまでが企画ですか?」
「……は?」
「ドッキリでしょうこれ? どう返事すれば盛り上がりますかね?」
イワンに悪気はなかった。
「企画じゃないよ。わたしは百%本気なんだ。君が好きなんだ」
「ああ、そういう企画なんですか。本格的ですね」
ドッキリと言う言葉が聞こえたバーナビーもああなんだと思った。
(ドッキリ企画だったのか。アニエスさんも視聴率の為とはいえくだらない企画を思いつくなあ)
しかし事態はドッキリではない。
そして当事者達は全然気付いていなかったが。
突然始まった告白劇に驚いてカメラを回したヒーローTVのカメラマンは悪くない。というかスクープを拾おうとするのはカメラマンの本能だ。
『ちょっと、わたしはそんな企画してないわよっ』
モニタールームでアニエスが怒鳴り声をあげた。
いまやワクワクドキドキのヒーローTVは別の意味でワクワクドキドキだった。
KOHのスカイハイがまさかの告白、相手は折紙サイクロン?
番組企画と思うに決まっている。これが相手がブルーローズだったらまさかのロマンスと盛り上がっただろうが、相手は見切れ職人だ。
ないない、そんなのあるわけないと視聴者もイワンも思った。
しかし。視聴者はバカじゃない。本気と演技の区別というのはおのずとつくものだ。折紙サイクロンに対する「好き」というスカイハイの声には偽物がなかった。まるきり本気に聞こえた。
『え、これ……まさか本気? スカイハイって折紙サイクロンが好きだったの?』と視聴者は固唾の呑む。
なんか不味いかもしれないと思ったカメラマンがカメラを止めようとしたが『そのまま続けなさい』というアニエスの冷徹な声に止めるに止められなくなった。
視聴率が跳ね上がったからだ。
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