善悪の彼岸(紫氷)
サンプル




□ドシリアス紫氷
□パねえR18。…てか、徹頭徹尾、無理矢理。半分以上がそういうシーン
□むっくん→室ちん(執着、でもそれが愛だとは気付いてない面倒臭いお子様、でも下半身はもう大人だよ!)
□むくわれない想いにむっくんヤンデレ化
□ラスボス赤司様、むっくんに助言
□実は続く?




■sample・03■(R18)


 ピチャリ。
 水音がハッキリ聞こえた。
 氷室の下半身で。
 氷室は僅かに首を起こし、絶句した。
 自分の格好に。そして氷室の上に乗る紫原の仕種を目の当たりにして。
 胸元がはだけられ、上半身が空気に晒されている。そしてパジャマのズボンはとりはらわれていた。下着も。上着が腕に引っ掛かっているが、殆ど裸の状態に混乱する。
「……え?」
 氷室は咄嗟に自分で脱いだのかと思った。
 アメリカ育ちの氷室は夏の就眠時は服を着ない。
 初夏の早朝、裸の氷室に仰天した紫原に日本人は裸では寝ないと力説され、渋々パジャマを着たのは笑い話だ。面倒がる氷室に紫原はらしくなく強固に譲らず、もし氷室が裸で寝たならそれを携帯で撮って監督にメールするとまで言われ、氷室は渋々折れた。
 氷室の奇行は紫原によりバスケ部全員の知る事となる。氷室は自分がアメリカ流に染まっている事に初めて気がついた。
 大勢での入浴は恥ずかしくなくて裸で寝るのはタブーだとは日本人はおかしいと、自身も日本人のくせに氷室はクレームをつけたが、氷室の味方になる者はいなかった。
 日本人の常識はズレていると氷室は思ったが、氷室こそがズレているのだと帰国子女は気がつかない。
「うぁあっ?」
 棹を肉厚の舌で舐めあげられ、氷室は思わず声を洩らした。快感というには鋭すぎる感覚に背筋に一本の線がくっきり引かれたような刺激が走る。
「Atsushi!  NOooo!」
 なぜ紫原がそんな事をしているかは二の次だ。今はこの暴挙を止める方が先だと氷室が紫原を叱咤すると、紫原は顔をわずかに傾け「あれ、起きちゃったの室ちん」と言った。
「アツシ? 何……してる?」
 分っていても聞かずにいられないのが被害者だ。
 被害者というにはまだ何もされていないが、氷室は一瞬にして自分に起こった事を正確に把握した。
 認識する事とそれを認める事は別だが。
 事実を認識して頭が真っ白になる。
 被害者が自分で加害者が紫原という認識が頭の中で追い付かない。
 氷室は犯罪大国アメリカで育った為、日本人よりずっと防衛本能は強い。男であっても充分性暴力の被害者になりえると、子供の頃から散々大人達に脅されてきたから氷室は油断しなかった。とくに己の容姿がそういった犯罪の対象になりやすいと自覚してからは用心した。同性間のレイプも予想可能な犯罪だ。
 日本に戻ってからは警戒レベルが下がったが。
 日本人は同性間の警戒が殆どない。シャワールームで男二人でいても誰も怪しまず、裸のつき合いと、同性の接触を性的なものでなければ推奨するような空気すらある。日本にもゲイはいるのにマイノリティは隠す風習があるから表面上、ゲイはいないのだ。
 だから。油断していた。
 まさかと思った。
 まさか紫原がそんな事を氷室に対してするわけがないと。
 腹筋と首の後ろに力をこめ、ようやく見下ろした先には紫原の頭がある。その頭が動くのを悪夢の続きのように見た。
 紫原の舌が。唇が。
 氷室の性器をアイスキャンディーでも舐めるようにゆっくりと味わいながら舐め上げたのだ。
「……ヒッ!」
 信じられなかった。今の状況が。
(アツシがこんな事をするはずがない)という認識が氷室を混乱に陥れた。
 紫原敦は言動こそあちこち歪んでいたが、嗜好はまともだったはずだ。同性愛の気配は見えなかった。隠していたのだとしても、こんな凶行を実行するような不穏は感じなかった。
 氷室の中の紫原は大きな子供だった。
「アツシ! 止めろ!」
 氷室が起きたのは知っているはずなのに紫原は動じる様子もない。少しは慌てたら氷室にも余裕ができるのに、紫原の平常心が無気味で焦る。
 声を荒げる氷室に、それがどうしたという顔だ。
「うるさいよ室ちん。……まだ痛い事してないんだからおとなしくしててよ。あんまりうるさいと口塞ぐからね」
 なんて言いぐさだ。
「アツシ! なんでこんな…おまえ……」
「なんで室ちんを裸にしてちんこ舐めてるかって? ばっかみたい。冗談で男のちんこ舐められるわけないじゃん」
 冗談でなければ何なのか。本気だとでも言うのか。
 本気……という単語にゾッとした。
「……ア……ツシ? まさか……そんな……アツシは同性愛者なのか?」
「違うよ。オレは同性愛者じゃない。……あらら、室ちん。ようやく分った? オレが本気だって?」
 氷室は紫原の冷静さに恐怖を覚える。
 同性愛者でなければ男の性器など舐められはしない。
「アツシ…………おまえ…………まさか、オレをレイプする…………つもり、なのか?」
 まさかそんな筈はない、おまえがそんな事をするわけない、違うからノーと言ってくれ、名誉毀損だと怒り狂って欲しいという思いで言った。
 紫原敦は我侭だが人間性はまっとうだったはずだ。少なくとも同性の友人をレイプするような異常性はなかったはずだ。
 同性愛者でないのならまだ活路はあるはずだ。
「……正解、室ちん。……ゴメン?」
「ふっざけんなっ! オレの上からどけっ!」
「嫌だよ」
 紫原は嗤って言った。
 目の前の、昏い目をした男は誰だ?
 外見は紫原だが、氷室が見た事のない表情をして氷室の上にいて、今まさに捕食しようとしている。鼠を飲み込む寸前の蛇のような冷酷で傲慢な目付き。
「……なんで?」
 掠れた声で氷室が聞く。聞かずにはいられなかった。
 紫原は今までそんな素振りを露と見せなかった。
 予想できていたなら警戒していた。
 氷室は今まで散々アメリカで同性に口説かれ、うまくかわしてきた。下びた視線を敏感に察知し、熱っぽい眼差しをさらりとしかし全身で拒絶した。
 明確なノーを何度唱えただろう。腕力を鍛え、隙を作らないように気を使った。今まで油断をした事はない。己の外見を熟知し、人との距離をうまく計ってきたはずだ。
 しかし。平和な日本に戻って、油断したのだろうか。
 紫原が氷室をそういう対象にするはずがないという盲目が、氷室の目を眩ませたという事か。
 しかしいまだに信じられない。
 紫原は、ごく普通のノーマルだったはずだ。
「室ちん」
「…っ、やめっ…んっ!」
 紫原の顔が近付き、唇が重なった。
 至近距離にある男の顔に首を振ったが、すぐに頭をがっしり掴まれて頭部を固定され、男からの遠慮のない口付けを受け入れる事になった。







「アツシ、オレは女じゃないぞっ!」
「んなの分ってるしー」
 紫原の声が常と変わらないから余計に恐怖だった。
(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)
 単純な恐怖が氷室を襲った。
「アツシ、どうしてこんなっ。おまえはオレをどうしたいんだっ」
 氷室の声は掠れ、まるで自分がひ弱な女になってしまったようで余計に焦る。いつだって暴力に対しては己の力で振り払ってきたはずだ。相手の数が多くても活路を見い出し、ねじ伏せられまいと必死に抵抗した。理不尽な暴力に屈する己を許さなかった。恐怖を見せない努力をした。負けないという気概を常に胸に抱いた。
 弱々しいジャップではなく、いざとなったらホットにキレるカミカゼだと周囲に印象づけた。
 日本に帰国してからは大人しくしていたのが悪かったのか。
 生温い日本の空気に油断したのが悪かったのか。
 今の紫原は凶悪な捕食者だ。弱者を己の力でねじ伏せる肉食獣のよう。
 性的な欲望に満ちた手付きに全身で恐怖する。
「何故……だ?」
 どうしてこういう事になった? せめて理由を知りたかった。嫌がらせか、それとも単純な欲望なのか。
 今まで知っていたと思っていた紫原が分からなくなった。知らない人間に陵辱されているようでビリビリと恐怖が増す。
 本能的な恐怖が全身を襲って悪寒がした。
 喉元から吐き気が這い上がる。肌寒さでなく肌が逆立った。
 重たい手を持ち上げて紫原の頑丈な身体を押し退けようとするがまるで手に力が入らない。鉛のごとき重さに異常さに気がついた。
 拘束されていないのにこんなに身体が不自由なわけがない。何か身体に細工されたのか。麻酔でもかけられたごとく身体が自由にならない。
 まさかと思った。夕方にとった食事か飲み物に薬でも混ぜられていたとしたら。
 紫原は計画的に氷室を陵辱しようとしていたのか。
(恐い、恐い、恐い、恐い、恐い、恐い)
 こんなに恐怖した事はなかった。強姦される女の恐怖を実体験した氷室は、だがそれでも紫原が最後までそんな事をするはずがないという希望に縋った。
「アツシ、アツシ、頼むから止めてくれっ! 嫌がらせなら殴ればいいだろう! こんなのは下司のする事だ! おまえは最低野郎に成り下がるつもりか?」
 気に入らないというのなら氷室がそうしたようにぶん殴ればいいのだ。紫原の腕力で殴られたらただではすまないだろうが、レイプされるよりマシだ。というかレイプという手段をとろうとしている紫原が分からない。
 子供が蝶の羽を毟るような行為なのだろうか。蟻地獄の巣に蟻を放り込むように、セックスという行為に残酷な精神的快感を見い出しているのだろうか。
 薬を用意して、嘘までついて。
 まったくもって紫原らしくなかった。
 しかし氷室は紫原の何を知っているというのだろうか。まったく予測できなかったではないか。残酷だが優しさも持っていると思っていたのに。理想を押し付けて見誤っていたというのだろうか。
「アツシ、嫌だ…」
 返らない声が恐かった。せめて何か言ってくれたらと思う。罵りでもいい。理由が欲しかった。
 昆虫採集の標本のように淡々と針に刺される行為が恐ろしかった。己が無力な虫だと思いたくなかった。
「ア…ツシ……」
 氷室の広げた足の間に入り、顔を伏せ、立ち上がった性器を舐める紫原が信じられなかった。
 いつのまにか勃起している氷室の性器を舐めている。度がし難い。紫原が氷室をエレクトさせる意味が分からない。嫌悪感はないのだろうか。
 紫原は子供のように潔癖な所がある。
 同性の性器など触るのも嫌なはずだ。
 同性愛者でもあるまいし、同性の性器など金を摘まれても舐められるものではない。本能が拒否する。
 なのに紫原は自分から進んで氷室のソレを熱心に舐めている。
 紫原の舌の感触ならさっき知った。情熱的なキスだった。その舌が。
 丁寧というより執拗に氷室の棹を舐め、睾丸を手で玩ぶ。先走りを舐め、その苦さに顔を顰め、それでも飴を舐めしゃぶる行為をやめようとしない。
 不味いなら止めればいいのに。気持ち悪くないのだろうか。
 氷室なら強制されれば噛み付くか、絶対に吐き出す。もしくは食い千切る。
 射精感が高まり、氷室は焦る。
「ア、アツシッ、イ、イクからっ。出るっからっ…」
 このままで紫原の口に出すか、最悪顔射だ。いくらなんでもそれはできないと慌てると。
 ニヤリと。紫原が笑ったのだ。
 嬉しくてたまらないといった男の顔で。
 訳が分からなくて氷室は混乱する。
 嫌がらせにしては行動に理由がつかない。
 逆なら分かる。無理矢理銜えさせられたなら。
 しかし紫原はいつもお菓子を齧る口で氷室のペニスを口に入れたのだ。甘くも旨くもないだろうに。
 ああまったく訳が分からない。
「ア……い……いく、いく、から……離してくれ……このままだと……出る、から………うあぁ……」
 ペニスの中が膨張したようで堪えられなかった。せり上がる水位に爆発しそうになる。大きな口に含まれる心地良さは女性器への挿入に匹敵する。
(熱い…)
 快感が鋭すぎて気が散らせない。出す事だけを考える獣みたいに欲望一色に染められる。ゴリゴリと強く睾丸を擦られて、たまらない。
 さっさと出せとばかりの強引な追い上げにたちまち氷室は屈する。
 出せと言っているのは紫原だ。遠慮なく吐き出しても紫原は怒らないだろう。しかし僅かに残った理性が後輩の口の中に出すという異常性を訴える。