4月1日、君に嫌いと言われた
(米英)
■OFF sample■






【1】アメリカ、エイプリールフールに乗じる

(勇気を出すんだアメリカ。お前はヒーローだろ。勇気を出してイギリスに告白するんだ。本当は君が好きなんだと言え。本当に守りたい人は君だけなんだと言うんだ。オレの気持ちを信じようとしない臆病なイギリスに、二百年分の気持ちをぶつけてやれ。今日なら嘘にできるんだ)
 アメリカは直立不動の姿勢で勇気を振り絞った。
 信じてもらえないなら、信じてもらえるまで言い続ければいい。それがヒーローじゃないのか? ヒーローは逃げないんだぞ。
「イ、イギリス、実は、オレは、君の事がっ」
「そういや忘れてたが、明日は四月一日か。……エイプリルフールだな」
「そ、そうだね」
 日付けが変わって、こっちはもう四月一日に足を突っ込んでるよ、とアメリカは内心で叫ぶ。
 さすがフラグクラッシャーイギリス。何故今その事に気付く?
 アメリカがフラグを立てようと地慣らしする端から、旗をへし折っていく。
 アメリカは挫けそうになる自分を立て直すだけで精一杯だった。
「ははは。そうだな、オレも明日、フランスでも引っかけに行くか」
 なんで君はオレと話しているのにフランスの事なんか話すんだよと、アメリカは苛々した。が、それを気取られるのも業腹なのであくまで陽気に対応する。
「まったく、騙すのはフランスだけにしてくれよ。間違っても市民に迷惑掛けちゃ駄目だぞ」
「バカァ、オレが自国民に迷惑かけるわけないだろ」
「どうだか」
 なんでわざわざフランスに行くんだ。どうせならアメリカに来ればいいのに。騙す為だとしても構わないし、軽い嘘なら笑って許してやるんだぞ。
 アメリカの手の中で電話がミシリと軋んだ。
「ワイン野郎にはどんな嘘がいいかな。お前んとこのワイン畑が全滅だぞ、って言っても騙されないだろうし。何かいい案ないか、アメリカ?」
「料理が上達したから味見してくれってフランスの口に手製のスコーンでも突っ込んでやれば?」
「それは普段からやってる。……ってか、どうしてそれが嘘になるんだ」
 やってるのか普段から。すっごく不愉快なんだぞ。
 くたばれイギリス。フランスは後で殴りに行こう。
「じゃあ……フランスに愛の告白でもすれば? 殴ってばっかりだったけどそれは愛の裏返しで、実は好きでしたとでも言ってみたらどうだい? フランスは阿呆だから、もしかしたら本気にするかもしれないぞ」
(何言ってるんだオレは。イギリスが他の人間に告白だなんて、嘘でも聞きたくないんだぞ。自分の口よ閉じろ)
「告白? フランスに? げえっ、気持ちが悪い。鳥肌立っちまったじゃねえか」
 完全な拒絶ににアメリカは安堵した。
「そ、そうだよね。そんなに気持ちが悪いんならやっぱり別の…」
「こうなったらフランスにも同じ思いをさせてやんなきゃ、気が済まねえじゃねえか」
「え……」
「ははは。サンキュ、アメリカ。明日の嘘はフランスへの告白で決定だな」
「ちょっ、……待って」
「明日はフランスに一世一代の嫌がらせ告白かましてやるぜ。ヒゲに告白なんてキモイが、エイプリルフールのお遊びだ。どうせならとことんやってやる」
 アメリカはしまったと後悔した。
 おかしなスイッチを入れてしまったらしい。
 イギリス人はエイプリルフールの嘘にこだわる人種だった。BBCでは毎年まことしやかな嘘が放映されるなど、イギリスは国民全体がエイプリルフールに力を入れている。
 馬鹿馬鹿しいが、なかなか出来がいいから侮れない。
 ビックベンのデジタル化、空を飛ぶペンギンなど、大真面目な顔して嘘のニュースを放映して世界を沸かせ、アメリカもつい騙されたほどだ。
 TVで見たペンギンの飛翔姿は作り物とは思えない出来で、すっかり信じ込んでイギリスに電話をかけてしまったくらいだ。
 あの時のイギリスの気まずげな対応は、思い出すだけで頭を抱えて悶え転げたくなるほど恥ずかしい。
 当然八つ当たりしてイギリスを責めた。
 まさか国営放送で堂々嘘八百を流すとは、ブリティッシュジョークは度が過ぎる。
 アメリカはイギリスの行動を止めようと焦るが、上手い言葉が見つからない。
「あの、イギリス……。変態のフランスにそういう嘘はあまりよくない気が…」
「お前はどんな嘘をつくんだ? カナダか日本辺りを騙すんだろ。あいつらが困るような嘘はつくなよ」
 イギリスはカナダも日本も大好きなのでアメリカが度を越さないようにわざわざ忠告しているのだろうが、あの二人ばかり大事にされているようで、アメリカは面白くなかった。
 アメリカだってカナダ日本は好きだが、それとこれとは別だ。
「なんでオレが嘘をつく事が前提なんだい? オレは……ヒーローだから誰も騙したりはしないんだぞ」
 お前は変な所で頭が固いなあと、イギリスはクスクス笑う。頭の固さは君には負けると言い返すと、イギリスはそうかもなとさらりと流した。
「アメリカは誰かを引っかけたり嘘をつかれるのは嫌かもしれないが、年に一度のお遊びだ。引っかけられても譲歩してやれ。些細な嘘に目くじら立てたりせず、大人の顔して許してやる方がヒーローらしいぞ」
「そ、そうだね。嘘はいけない事だけど、年に一度のお遊びだからね。いちいち怒るのも大人げないよね」
「お前ももう一人前の大人だもんな」
「そうだよ。オレは大人だ」
 電話の向こうから、イギリスのふぁ…という欠伸の音が聞こえた。
「明日フランスの家に行くんじゃそろそろ寝ないとな。……相談嬉しかったぜアメリカ。おやすみ。いい夢を」
「おやすみ……じゃなくて、イギリス、フランスに告白だなんて許さないんだぞ! ヒーローとして……………って、切れてるし。リダイヤル……って、なんで話し中? 携帯は………繋がらない? もしかしてあの人また携帯をどっかに放りっぱなしなのか? あの忘れ物キング! バカギリスーーッ」
 アメリカの心からの叫びも当然イギリスには通じず、アメリカは一晩悶々と過すハメになった。






【2】アメリカ、日本に相談する

「これはなんだい? 中に何が入ってるんだい? これがどう恋を叶えてくれるんだ?」
 アメリカは日本と小瓶を見比べる。
「アメリカさん。これがなんだか分りますか?」
 アメリカはヒョイと小瓶を持ち上げた。
「あ、アメリカさん。大事なものなので乱暴に扱わないで下さいね」 
 慌てた日本にアメリカは中身はよほど大事なものだろうと、瓶を机に戻した。
「で、これは何なんだい? 勿体ぶらずに教えるんだぞ」
「アメリカさん、これは、実は『惚れ薬』なんです」
「WOW、マジかい日本。なんだか信じられないんだぞ。そんなものが本当にこの世にあるのかい?『惚れ薬』だなんて言って、本当は媚薬か何かじゃないのかい? Hになる薬だったらいらないぞ。一服盛ってイギリスをモノにするなんて、レイプと同じじゃないか。そんなのいけないんだぞ」
「勝手におかしな想像しないで下さい。失礼な。ジジイ怒りますよ。確かに心のないまま薬で身体をいいようにするのはレイプですが、これはそのような淫らな薬とは違います。これは……正真正銘の『惚れ薬』です」
 アメリカは半信半疑だったが、日本があまりに厳かに真剣な面持ちだったので、嘘だろと決めつけられなかった。信じられず、日本の様子を伺う。
「ギャルゲーじゃないんだから、本当にそんな便利な薬があるのかい? サザビーのオークションにだってそんなものは出品された事はないんだぞ」
 アメリカは恐る恐る小瓶を触る。中には粉のような物が入っている。
 これが『惚れ薬』? ありえない。そんなものはこの世にはない。あったらアメリカがとっくに手に入れている。情報局のデーターバンクにだってない。
 信じないというのは簡単だが、もし本物だったらえらい事だ。







【3】アメリカ、イギリスを口説く

「ちょ、ちょっと待て、待て待て待て、アメリカッ」
 イギリスは焦り、のしかかってくるアメリカの顔を必死に掌で押し戻した。
「なんでだよイギリス。オレ達、あ、愛し合っているんだから、いいじゃないか」
「よ、良くない、良くないから止せって……あ、ばか、服をめくんなっ、馬鹿ぁっ、やだっ」
 イギリスは本気で焦って尻をずり上がらせた。
 イギリスはなんでこんな展開になったんだろうと混乱した。

以下、エロシーン突入