ブラザーコンプレックス
(米英 & 独普)
■OFF sample■







 そんなのってあるだろうか。
 オレの可愛いドイツ。こいつの為なら死んでも構わないと育てた最愛の子供。ドイツの為だったら何だってする。その気持ちに嘘偽りはない。
 ……ないのだが。
 ……ちょっと待ってくれ。
 ドイツが。オレを。兄を。プロイセンを。
 本気で……愛してる?
 脳味噌がパンクしそうだ。
 こんな時こそマニュアルに頼るべきなのだろうが、そんなマニュアル本あるわけねえ。あってもせいぜい「相手の未練を断ち切るようにすっぱり拒絶しましょう」くらいしか書いてないに違いない。
『兄弟から愛の告白された時の返事の仕方』…なんてマニュアルは世界にはねえんだよっ。
 あるとしたら酔狂な日本くらいだ。不思議の国ジャポンにはなんでもあるからな。
 日本か。ドイツは日本に相談したと言っていた。
 なんで誰もはっきりと止めないんだ。どう考えても止めるべき所だろ。
 それとも告白→玉砕の方が未練が断ち切れて後腐れないと判断したのか。
 確かに恋愛は当人同士の問題だと言った。
 だが兄弟という前提がある以上、返事は「nein」しかねえだろ。「ja」と言うヤツがどこにいる。
「兄さん。驚くのは無理ないし、受入れてもらえるとは思っていない。だが……本気なんだ。オレは兄さんが好きで、好きすぎて頭の中がグチャグチャなんだ。風呂上がりの兄さんのしどけない姿を見るとバスローブをひん剥いて滅茶苦茶にしたいと我慢と忍耐の連続なくらい。兄さんを見ているとムラムラする」
 確かに頭ん中グチャグチャみたいだ。ドイツの言う事が変だ。
「兄さん。すまない。あなたはオレの事を自分以上に大事にしてくれたのに、オレは兄さんに浅ましい想いを抱いてしまった。告げても兄さんは困るだけだと知っている。だけれど言わずにいて兄さんが誰かのものになったらと考えると耐えられなかった。兄さんはハンガリーが好きだし、フランスやスペインとも仲が良い。いつか誰かにとられるんじゃないかと気が気じゃない。兄さんが誰を選ぼうとそれは兄さんの勝手だと分っている。だけど……。我慢できない。苦しいんだ。受入れられずとも……拒絶しないで欲しい」




「じゃあ。まずは頼みがあるから聞いてくれ」
「聞くだけだ。言ってみろ」
 偉そうなイギリスに、オレは慎重に言った。
「この事は誰にも言わないで欲しい」
「秘密厳守ってやつか。……了解した」
「約束破ったらおまえんちのバラを全部引っこ抜くからな」
「破んねえよ。んな事言ったら妖精達に袋だたきにあうぜ」
「妖精なんて見た事ねえよ。…それでだな、イギリス」
「おう」
「オレとつき合って欲しいんだ」
「お茶に?」
「じゃなくて」
「何処に行きたいんだ?」
「場所じゃねえ」
「つき合って欲しいんだろ?」
「おう」
「何につき合うんだ?」
「……人に」
「人? 誰かに会えって事か?」
「違う」
「はっきり言えよ。まどろっこしいヤツだな」
「はっきり言ったんだが、ベタな勘違いされちまっただけだ。普通つき合うって言ったら別の意味だろ」
「ベタ? 勘違い? 別の意味?」
「有り体に言うと」
「うん」
「つき合うっていうのは、人と人のつき合いの事だ」
「人と……人? 友達になろうって事か? それとも同盟を結びたいという事か? しかし仕事じゃなく、弟絡みの相談なんだろ? ドイツに何があったんだ?」
「はっきり言わないと分らないみたいだから明確に言う。裏も表もないから素直に聞け」
「聞いてるぞ」
「オレはイギリスと恋人になりたい。頼むから恋人になってくれ!」
 ブーッとイギリスが紅茶を吹いた。
 うん、気持ちは分るよ。
 イギリスから遠ざかっていて正解だ。