愛をちょうだい
- down-(米英)
■OFF sample■







 さらりと言われ、イギリスは一瞬聞き間違えたのかと思った。
「セックスしようイギリス」
「……はあ? 何とんでもない事言ってんだ。できるわけねえだろ」
「君ができなくてもオレはできる。君の意見は聞いてないし、反対意見も認めない。君は黙ってオレの下にいればいい。抵抗さえしなければ優しくするよ」
「なにトンデモ発言してんだよ。オレが怒んないうちに上からどけ。今なら失恋のショックの妄言って事で忘れてやるから。さっさと部屋に戻って寝ちまえ」
「冗談なんかじゃないんだぞ。オレは本気だよ」
 イギリスは焦った。冗談にして流してしまいたい。
 アメリカの手はイギリスの両手を一つにまとめ拘束し、身体の上に乗り上げられている。こうなるとウエイトの差で上にいる相手をどかすのは難しい。足は動かせないし、手も同様だ。
 相手がアメリカでなければ隙を伺って首に噛み付くという手もある。頸動脈を食い千切られれば、大国でもただでは済まない。死なないにしても相当のダメージを与えられる。
 だがイギリスがアメリカ相手にそんな事できるわけがない。
 これは何かの冗談だと思いたかった。アメリカの気紛れで、イギリスを脅しているだけだと。
「本気にしたのかい、バカだなあイギリスは」と言って、からかうように笑ってくれればと思う。そうしたらイギリスはポコポコ怒りながら安心しただろう。
 しかし。イギリスの勘が囁く。
 アメリカは本気だ。
 ゾワリ。
 アメリカの眼差しにイギリスの背が総毛立った。
 男に襲われる事には慣れている。だから対処法も知っている。
 不名誉で思い出すのも嫌だが、戦場暮しが長いイギリスは同胞の性の対象にされやすかった。
 女性のいない場所で欲求不満は高まり、命の危険にさらされて精神は披露し擦りきれ、男の本能で子孫を残そうと下半身はやりたくなり勃起する。女とやりたいという欲求は、自然身近にいる同胞に向けられる。見目の良い捕虜がいれば餌食になり、スケープゴートがいなければ対象は一番近い人間になる。
 イギリスはイギリス人の中でも体格も大きくなく、顔も綺麗だ。対象にするには充分だったので、イギリスを自国と知らぬイギリス人たちは時にイギリスを襲った。
 勿論大人しくレイプを享受するイギリスではないので全員叩きのめすか、逃げ出して難を逃れてきた。ヤバい事もあったが、間一髪で無事だった。男の欲望の対象にされるのに慣れているから、相手の男が本気がそうじゃないか分る。
 アメリカの欲情した目付きに、イギリスは体中が竦んだ。どういう事だというセリフが頭の中を回る。
 アメリカが。あのアメリカが。
 イギリスを性の対象にするわけがない。
 アメリカは異性愛好者で、ちゃんと女性が好きだし、人を踏みにじるのにもこんな手段はとらない。暴力をふるっても、強姦という手段は用いないはずだ。ヒーローを自称するアメリカは、強姦魔というレッテルを我慢できない。
「アメリカ。離せ。今なら冗談だって忘れてやるから」
「冗談じゃないよ。オレは本気だよ。君を抱いて、イギリスから『愛』を取り戻すんだ」
「……は? 何訳分らない事言ってんだ。無茶苦茶言うな。なんでおまえの都合でレイプされなきゃなんねえんだよ。冗談じゃない」
 睨みあげると、アメリカは苦しそうな顔で、だが欲望にギラついた目付きで言った。
「オレが『愛』を取り戻す方法が分らなかった。だけど分ったんだ。オレは英領アメリカを捨てて独立した。イギリスはまだオレの事を弟だと思っている。英領アメリカがイギリスの中に残っている。だから……殺すんだ。英領アメリカを。さすがの君もセックスした相手を家族だなんて思えないだろ。『他人』じゃなければセックスなんてできないからね。いくら君が破廉恥好きのエロ大使でも、弟と寝られるほど恥知らずじゃないだろ」
「……止めろ、アメリカ。オレはそんな事したくない。いやだ…」